3-41 誘引
城壁のすぐ外側に設けられた陣地。そこは治療を受ける軽傷者やマナ不足で戦闘継続が難しくなり下がった部隊がひしめき合っていた。特にマナの供給待ちの行列が出来ており、そしてその補給量は圧倒的に不足していた。十分な補給も出来ずに、それでも防衛線を維持するために戻らざるを得ない者もおり、これは戦闘に多大な支障をきたしていた。勿論軍も領都からあるだけのマナを逐次回しているのであるが、マージンを遥かに超える戦闘の規模に限界を既に迎えている。そもそも有事の際には地方を最もマナの充実した地である首都が支援する想定となっており、逆の事態はそこまで想定されていなかった。
疲弊して座り込む兵士たちの後列が俄かにざわめく。それと同時に緩やかなマナの波が周囲を包んだ。
その源流を見ようと振り向けば、そこには銀色の仮面を被った偉丈夫の姿があった。
警備の兵士が近寄り何か言おうとするが、それを優しく手で制して銀仮面は告げる。
「まずは、マナを求める者に与えたい。私が気になるのであれば傍で見ていたまえ。」
その兵士も現状は分かっており、周囲からの咎めるような視線に居心地も悪く、ややあって小さく首肯した。
銀仮面の男はまずは以前の領都の時よりも穏やかに、範囲を絞って空間にマナを流していく。そして意識を失うほどにマナか不足しているものには優しく頭を撫でて直接マナを流し込むと、ビクッと身体を震わせながらマナを受け取った者はややあって目を覚まし、自身の体調が改善していることに驚愕した。
マナ不足の兵士たちは大いに喜んだが、しかし前線に迫るアンデッド達もそのマナに気がつくと惹かれるかのように集まりつつあった。
司令部では大将が面白そうに笑いながら伝令兵から受け取った短い書簡を読んでいた。
「ふふふ、相談も無く、事を起こしてから上手くやれと連絡してくるなんてね。あの子らしいというか、探索者らしいというか。」
大将は探索者の組合長であるタツキとも面識があり、それはそれなりに親しいと類される程であった。半ば逃げ出すように出て行った伝令兵もそのタイミングから考えて一役買っていたのだろうと思う。
既に銀仮面によって眼下でマナの補充が始まっている。そしてアンデッドもそれを実際つつある。領都の時の話と比べるとマナの量は少なめであるが、それもアンデッドをある程度コントロールして誘引する為の策であるのだろう。
そして、これからアンデッドは銀仮面のマナを求めて押し寄せてくる。これは一点突破のリスクがあるものの、一方で効果的な殲滅を行う機会が生まれたと言ってもよい。
オーラウェポンは効率よく敵を粉砕し、精鋭部隊を集結させて強い防衛戦を張る事が可能となる。この世界では、強力な個の力が戦局を覆す事もある。精鋭達は良く守ってくれることとなり、目の前の餌により注意の薄い左右から攻撃を仕掛ければ大きな戦果も見込まれる。
各所へ急いで指示を送る。この既に動き出している一か八かの作戦を、出来る限り上手に差配する必要があった。
マギアンである大将の改造された眼球レンズはマナを沸き立たせる存在を城壁の上から見つけることが出来た。そしてそれが男である事も知り、面白そうに笑みを浮かべた。




