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3-42 苛烈

 変装したリンガとシッコが左右に付き添いつつもエンドは兵士達へマナの供給を行う。その怪しい風貌を訝しげに思って詰め寄る者もいたが、いつの間にか高級士官が場を取り仕切っており「今はそいつのしたいようにさせろ!」と一喝するとエンドへの干渉は無くなる。補充が済んだ部隊に対しては本部から次々と命令が下り、活力を取り戻した兵士たちは迎撃の態勢を整えていった。


 マナを供給しながらもエンドには周囲の気配が忙しなく動き、自身を中心として鶴翼の陣・・・と呼ぶには極めて角度の小く深いV字形になるように兵士たちが動いているのが感じられた。そして、同時に漫然と領都を目指していたアンデッド達も明確な目標、つまりエンドに向かってきている事もまた感じていた。


 マナの補充待ちの列もいつの間にか整然と管理され、マナウェポンを扱う部隊が優先的に並び、濃いマナに恍惚として身体を震わせるものの場を仕切る士官から強く声を掛けられ、余韻を味わう事もなく慌ただしく動く。

 既にアンデッドに気取られたことを知ったエンドも、オドからマナへの変換量を増やして周囲にも拡散させて同時に多人数へと供給できるようにしていた。


 アンデッド達は極上の餌を見つけたかのように、他の兵士には目もくれずに駆け寄って来る。散発的ではなく集中したアンデッドの群れに砲撃を始めとした遠距離攻撃は効果的に破壊をもたらす。そこを抜けたアンデッド達に対して兵士達は注意が向いていないことを幸いに左右からひたすらに至近距離で攻撃を加え続け、前のアンデッドが倒れるとそれに足を取られた後続が転び、乗り越えようと混み合っていき、速度を落とせばさらに兵士達は踏み込んで頭部や脚に攻撃を加えて行動できないようにしていく。


 だが、それでもアンデッド達の勢いを完全に削ぐことは出来ない。V字の根元に近づくそれらを近接型のオーラウェポンを持った精鋭部隊が壁となり迎撃する。アンデッド達も流石に正面を塞ぐ障害は力で排除しようと動き、此処ではこれまでに無い程の苛烈な戦いが始まっていた。

 誰もが全力でマナをオーラに変換して力を振るい、マナが尽きてきたら速やかに下がり、補充を受けて前線まで復帰すると別の者が下がる。

 ローテーションが組まれ、アンデッドの死体を取り除く者が必要な程に殲滅は進みつつあった。




 眼下の様子を見る大将の表情は落ち着いているものの浮かばない。現在の状況はかなり危ういバランスで成り立っていると考えていた。


 まず第一に銀仮面がいつまでマナを供給することが出来るのか。男性は常にある程度のオドをマナへと変換しているが、これを意図的に増やそうとするのはそれなりの負担になる。実際、領都の男性にはデリケートなその心身を慮り平時であればそこまで多くを求めないが、今は出来うる限りの提供を半ば脅す形で実施していた。それでも男性達も疲弊して供給量は頭打ちを過ぎて下降傾向になっていた。よって信じられない程のマナを放出する銀仮面にもかなりの負荷がかかっていると考えていた。このマナの供給が終わればアンデッドの誘引も、オーラウェポンの活用も難しくなる。

 次に、膨大なアンデッドの数と前線の兵士の損耗だ。単純に敵の数が多すぎるため、どうあっても迎え打つ側にも負傷者が発生する。そして戦いが長引けば疲労が蓄積しパフォーマンスが低下していく。この疲労はマナがあれば回復が早くはなるが、それでも即座に良くなるものでは無かった。加えてマナは傷の治りを早くはするものの、同じく即座にそれを治すものでは無かった。

 最後に問題となっているのは正面以外からのアンデッドの圧力であった。多くのアンデッドが誘引されて殺し間に入ったが、それが全てでは無い。アンデッドは概ね領都の方角へ寄ってきていたものの、実際には広い範囲で存在していた。V字の中では無くその左右からもアンデッド達が群がってきており、勿論想定はされていた為に予備兵力を当ててその接近を押さえ込んでいるが精鋭部隊と比べると些か不安があった。

 無論、当初に比べれば僅かな光明でも有難いものではあったが、それでも圧倒的な不利な状況であることは変わらない。

 大将は各自の奮戦を期待しつつ、命令を下し続けるしか無かった。



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