3-43 横槍
「アイボー、マナは大丈夫?ずっと出し続けているけど。」
こっそりと耳打ちするリンガにエンドは笑って答える。
「大丈夫だ、問題無い。三日三晩やれと言われれば困るが、まだまだ余裕さ。」
その言葉は強がりでは無く、実際エンドには余裕があり、さらには放出を続けるにつれてオドからの変換効率が良くなっている気さえしていた。この点では大将が最も心配していた事は杞憂であった。
少し先で騒々しい音と怒号が響く中でもエンドは粛々とマナを供給し続ける。
ふとエンドが目線を向けた先から小型の魔獣のアンデッドが防衛線の足元を抜けてきたのか迫っていたが、エンドは動かない。
リンガが割って入ると一閃で胴体を半ばへし折り吹き飛ばした。
慌てた顔なのはその場を取り仕切る高官であり、心配な様子で駆け寄ってきたもののエンドが大丈夫な旨を伝えるとホッとした様子となる。しかし、次の瞬間には厳しい表情となり警戒を密にするよう周囲の兵士達に怒鳴った。
だが、その後は防衛線を抜けてきたアンデッドの数が徐々に増え始める。前線は崩壊しているわけでも無く、敵の大部分を受け止めて倒し続けているのだが絶え間なく続く戦いに疲弊しつつあった。
エンドを守るように予備兵力が布陣し耐え凌ぐものの尚も戦いは終わりを見せない。
実際のところ、趨勢を見る大将からしても想像以上に味方は奮戦していた。だが、それでも途切れないアンデッド達に押し込まれつつあった。
司令部の三つ目族の高官が厳しい表情となる。V字形の陣は西側に口を開けるような形になっているが、北側からやって来た大型の魔獣のアンデッドと高位の軍人のグールによって予備兵力の部隊が突破されて防衛線に穴が空き、陣の根元であるエンド達へ敵が迫っていた。
苦渋の決断だが既にホールの監視のために駐屯していた部隊も引き上げられている。周辺の村落や街道の危険性がこれで大いに増しているが、背に腹は変えられなかった。どの道領都が落ちればそういった部隊の運営も不可能となる。前線で腕を磨いていた部隊ではあるが、直近まで大幅に人数を減らされていた状態で任務に当たっていたため強く疲弊している。それでも手練であることは間違いなく、精鋭部隊の援護に回す。
北から薄い防衛線を超えてエンド達に迫るアンデッド達には、本部の戦闘可能な人員と戦闘可能な軽傷者からなる最後の予備兵力を充てる。
最低限の人員しか居なくなった本部で大将が呟いた。
「こういう時には非力なマギアンである己を恨むよ、前線で兵達と共に戦う事さえ出来ない。」
「閣下・・・最後まで責任を持って指揮する者も、必要かと。」
「分かっているよ。その責任からだけは逃げないようにしないとね。」
この状況が崩れれば逆転の目は難しい。後は男性や子供、その護衛といった一部の者を優先的に逃しつつ、最後まで志ある軍人達で殿を努めるほか無いだろう。眼下の状況を見ながら大将は深く息をついた。
北から直接V字の根元に迫るアンデッド達の群れ。先程まで本部に詰めていた高級士官、将官とも呼ばれる者が軍刀型のオーラウェポンを手に立ち塞がっていた。しかし、その顔は驚愕に歪んでいた。
首都の中央軍は最大規模かつ人材も豊富であり、大規模なホールや災害時には精鋭とも呼ばれる部隊が地方に派遣される事も多かった。
そして、その中でも将官でありながら前線に立ち、そして圧倒的な戦闘力とカリスマから鬼神とさえ呼ばれた大鬼族がいた。
地方の軍人達も元は中央軍から異動してきたり、研修や訓練で首都を訪れる者も多い。また、合同で作戦にあたる事もあった。
故に、目の前の脅威に慄く。半ば斬られた首の隙間を埋めるように黒化した組織が醜く覆い、頭は少し傾いでいる。手に持つ巨大な剣、かつて特注のオーラウェポンであったものは黒く巨大化した腕に取り込まれるかのように一体化しオーラの代わりに流し込まれるオドで機能が狂ったのか波打った異常な形状となっていた。
死して尚ぼんやりとしながらも付き従う精鋭兵士のグールを連れたその存在に、防衛戦を張る将官は叫んだ。
「なんて事だ・・・クソが!鬼神!死に損なったか!!」




