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3-33 消耗

 領都の西側に陣地を作った軍は避難民の護衛と増え続ける魔獣の襲来に辟易としていた。特に遠方の首都に近い場所から逃げて来た避難民の割合が増えて来ており、マナが不足していたり極度の疲労状態にあって厚い支援を要する者が多く、より多くの人員を必要としていた。


 アンデッドも姿を見せ始め、症状が初期の者は縛り上げられた上でマナを補充されて正気を取り戻す者もいた。しかしマナを得るために無意識のうちに他のヒトを襲ってしまった者にとっては、正気を取り戻した事が必ずしも救いにならない者も居た。

 軍としても現状のようにまだ少数であればこのような対応が可能ではあるが、大挙して押し寄せて来た場合はリソースからしても今後は全てを同じように対応出来ないと考えられていた。

 さらに、旧来からあるホールから来る魔獣の対応も今まで通り行わなければならず、交代の人員や物資が通常よりも絞られて苦しい報告も上がっている。


 現時点では軍でも怪我人はいても再起不能な者は出ていなかったが、それでも確実に消耗を強いられていた。

 そして、それは領都の中の様子も同様であった。




 エンド達は避難民達の集まる区画の警備に当たっていた。これはもちろん魔獣やアンデッドからではなく、領都住民とのトラブルや避難民の内部でのトラブルに向けてのものである。

 避難民の数は日増しに増え始め、しかも近頃到着するのは資産を持ち出す余力もなく衰弱している者が多い。また、避難中にも様々な困難を被っており、身近な者を失っている事も多く、やけっぱちになる者も少なく無かった。

 領都は確かにマナがかなり多い場所ではあるが、環境中のマナだけでは生きていくには厳しい。元々上街の男性から生産されたマナが巡って下街で売られていたような状況であり、普段からマナも余っているとは言い難い状況であった。

 避難民の中には元々村や町に住んでいた男性を守りながら到着した集団もあり、その男性と親族は安全のために上街の避難所に案内されていた。そしてその親族が上町と下街を行き来して避難した村町のヒトにマナが供給されていた。

 悲惨なのは男性を擁さずに避難して来た者達であり、軍からの乏しいマナの配給や教会の粗末な炊き出しなどの食事から摂れる僅かなマナで耐え忍ぶしかなかった。

 マナの不足は強い不快感と体調の悪化をもたらすため、耐えきれない者が暴力で脅してヒトからマナを奪ったり、金銭をマナに変えるために泥棒を行ったりする行為が広がり治安はますますの悪化を見せていた。


「どんどん酷くなってくるね・・・」


 リンガの視線の先にはまた新しく到着した疲れ切ったヒトの集団、当初は場所に余裕のあったテントも隙間なく張られ、その素材も有り合わせの急拵えで作られたものが増えて来ていた。

 そんな状況の中でも黒衣のシスター達が慌ただしく怪我の手当をしたり、炊き出しを行っている。精神の安定のために説法も行っている様であったが、その内容の何かが癪に触ったのか声を荒げながらシスターに詰め寄ろうとした避難民がおり、ルアシーが素早く駆け寄ると脚を払って地面に倒し、縛り上げる。暴れないように忠告するも尚もがく暴漢をため息をつきながら警棒で何度も殴りつけて大人しくさせた。


「あーっと、また地下牢に放り込んでください。」


 指示を受けたエンド達は頷くとロープを掴み、暴漢を引きずりながら街を歩く。ある意味これも刑罰の一部の様なもので、当初は街行くヒトビトの視線を集めていたものの最近は見慣れた光景になりつつあった。

 軍の施設まで連れて行くと門番が嫌そうな顔をしながらもそれを迎え入れた。

 担当者もこれまた嫌な顔でやって来て意識の無い暴漢を引き取る。


「お疲れさん。だが、もう地下牢は一杯だ・・・ついさっきも別の奴をぶち込んだ所なんだ。お前さん達は悪くはないが、我々も結構辛いのさ。飯を食う為だけにわざわざ事件を起こす奴等まで出始めていてね。」


「大丈夫だ、貴方達も大変だろう。そんなに手狭ならば新しく牢を作るわけには行かないのかな?」


 エンドの疑問を冗談だと捉えたのか、力無く軍の担当者は笑い、それが難しい理由を話す。


 「はは、男性であればともかく、オーラを使える女性が後先考えずに全力を出せば余程分厚く丈夫な建物でないとその破壊行為を止めるのは難しいよ。この地下牢は地中深くまで特別に丈夫な壁で作られているし、地上には軍人が駐屯しているから使えるけどね。お前さん達だってロープなんかそう保たないからボコボコにしてきたんだろ?」


「うむ、そうだな。」


 ルアシーも好んで攻撃を加えたわけではない。ここの看守も増え続ける犯罪者に疲労の色を濃くしている。避難民キャンプは勿論、街全体が少しずつ消耗していっているのをエンドは感じるのであった。

 



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