3-30 召集
エンド達は身支度を整えて出発の準備を進める。もっとも赤い紙での召集の事もあるが、ホールの調査の件でも組合に早目に行く必要があった。
「む?そういえばアイリスには赤い紙が届かなかったのか。」
エンドの疑問にアイリスが無表情を崩さず答える。
「はい。現在私の立場は博士の一時的な被保護者という扱いになっております。また、年齢的な部分につきましても不明であるため対象となっていない様です。」
「なるほど。では家の保守はアイリスが行ってくれるのか。しかし、非常時の備えはあるのか?」
「博士から主に敵対存在の感覚器官を対象としたガードマギアを複数貸与されています。また、携行可能な小型の試験マナポッドも有ります。」
アイリスが示した方向には四角い箱にリュックサックのようなバンドがついたような物体があった。
「うむ。では今のうちに補充できるマナポッドにマナを込めておこう。また見たことが無い種類のものが増えているな。」
コニイはバツの悪そうな顔で誤魔化す様に笑う。
「これでも初期の方のマナポッドは解体して新型の材料に回しているんだよ。アイリスが片付けろってうるさくてね。」
「流石に足の踏み場も無いほどに作られては掃除も大変ですし、足をぶつけるおそれがあります。」
アイリスの正論にやり込められるコニイの様子を見てエンド達は笑った。
組合に到着すると、受付をしていたマギアンのイースがエンド達に気が付き声をかけてくる。
「お疲れ様です。この前の仕事は随分危険だったと聞いておりますので無事のご帰還、何よりです。組合長も気にされていましたので組合長室までどうぞ。」
礼を言って階段を登り組合長室のドアをノックすると、少し不機嫌そうな様子で入ってこいと声がかかる。
部屋に入ると様々な書類と睨めっこをしているタツキの姿があった。
「おう!まずは無事に帰って何よりだ!悪ィな、かなり危険なヤマだった様じゃねえか。今回ウチも信用できる奴らが結構やられちまった。軍から色気もねぇクソッタレな報告も聞いたがよォ、オレとしたことが危険性を見誤った様だ。すまなかった。」
タツキは姿勢を正すと深く頭を下げる。
「止めてよ!仕事の事前の説明と間違っている事は無かったよ。ある程度の危険はみんな分かってた。でも大型の魔獣の群れがいるなんて想定外だったよ。」
リンガの慌てた様な制止にタツキは顔を上げるが、表情は優れなかった。
「調査があまり出来てねぇ地域である事は分かってたから今回それ込みでヒトを多く出したんだがよ、今考えれば大型の魔獣の噂があった時点で先に腕の良い少数精鋭の調査隊を送るべきだったな・・・ちょっと座って待ってろ。」
タツキはため息をつき、席を立つと茶を入れ始める。慣れた美しい所作で淹れられたそれは、豊かな芳香を部屋に漂わせた。
エンド達もそれを口に含むとその味と香りにホッと息をつく。
「そういえば、探索者がこの様な不幸にあった場合、組合はどの様な対応をとるのかな?」
エンドはキャンプ地や救助のための探索で見かけた探索者達の様子を思い出しふと疑問を漏らす。
「あー・・・怪我については程度によって治療費の補助は出してるな。運悪く障害が残っちまった場合には他の仕事を紹介してとりあえず飯が食えるようにはしてるぜ。」
コトリと飲みかけのカップが机の上に置かれて小さな音を立てる。
「そんで・・・死んじまった奴については登録時の注意書きに書いてある通りだ。テメェらの普段の報酬から少しずつ取ってる組合費から追悼金を出す感じだな。登録時にその支払い先を三つくらい書いた筈だろ?まァ大体は同じクランの奴とか家族とかを受け取り人にしているが、独り身だと孤児院や軍への寄付金とか書く奇特なやつもいるぜ。」
エンドはその話を聞き、そういえばと思い出す。自身の場合は登録の際にリンガやコニイ、シッコの名前をとりあえず書いていた筈であった。
「さて、テメェらを呼んだのはまずはこの前の仕事に行った奴らには謝る必要があったからだ。この件については軍が想定される危険度を超えた依頼をしやがったから追加の報酬を求めている。テメェらみたいに仕事をして来た奴らには先に今回の報酬に加えて増額分出しておくから安心しろ。軍がもし出し渋ってもウチはそう言う事はしねぇからな。」
アウトロー的な職場かと思いきや、案外システマチックで手厚い厚生があるなとエンドは感心した。
「それから、こっちの方が不満かも知れねぇが、今回の緊急事態で探索者組合は一時的に軍の指揮下に入る。おそらく派遣されてくる軍人の下で働く事になるが、戒厳令だから給料なんて雀の涙だ・・・死んだ時の補償はそれなりらしいがな。そんでその指揮官がクソッタレな事にあのリンレイだ。今回の件でウチの奴らの軍への不満が結構デケェ上にこの人選だ。頭がイテェっつーの。」
今回の仕事に参加し帰って来た者達をわざわざ部屋まで呼んで説明しているのは組合長自らが話す事で不満を和らげるねらいがあるのだろうとエンドは考える。ただ、それだけではなく組合長であるタツキの誠意というものもまた感じるのであった。




