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3-29 赤紙

 エンド達が領都に戻ると普段とは異なったピリついた空気が軍人達から発せられていた。北門の門番も何度か顔を合わせていた者であったため、エンド達はスムーズに通れたが、すでに近隣の小規模な村から避難しようとするヒトの列が長く続いていた。増員された軍人達が睨みを効かせているため混乱は生じていないが、今後も避難者は増え続けることが想定された。

 いつもとは異なる空気の中、コニイの家までの道を急いだ。


「やあ、無事に帰ってきて何よりだ。しかし、大変な事になっているよ。」


 エンド達は旅装を解くと軽くシャワーを浴び、アイリスによって茶と菓子が用意されたテーブルの席に座りようやく一息つくことが出来た。

 留守にしていたエンド達よりもコニイの方が現状に詳しく、知っている情報を話す。


「まず前提としてこの国は軍事国家なんだ。だから緊急時には軍はかなりの権利を持つ。それに市民権を得ている者だけでは無く、滞在者さえ軍の命令でその一員として組み込まれる事がある。」


「国民皆兵といったところか。」


 エンドの呟きをコニイは面白そうに拾う。


「ほう、面白い表現だね助手君。いや、正確には国民以外の者さえ組み込めるとんでもないルールではある。実際にはそういった人達は大概徴兵される前に安全な場所まで逃げると思うけどね。」


「うむ、それが道理だろう。それで、その戒厳令は既に出ているのかな?」


「丁度助手君達が帰ってきた頃に正式に公布されたよ。とは言っても実際に最前線を張るのは予備役を含めた軍人達で、一般市民では戦闘に適した種族は簡単な軍事訓練を受けて二線級の扱いになる。それに私みたいに戦いが苦手な者や力の弱い種族は後方支援が主になるだろうね。ただ・・・」


「ボク達みたいな探索者は軍人より流石に後ろだろうけど、頭数に入れられるね。」


 リンガが面白くなさそうに言う。


「探索者組合にとっても普段から軍の下請けを受けているから仕方がないところはあるけどさぁ・・・」


 ため息をついて机に突っ伏すリンガにコニイも苦笑いを浮かべながら頬杖を付く。


「軍は市民の様子をよく知っている。マギアン達から聞いたけど郵便屋も既に赤い紙の指令書を配り始めている様だよ。協力を拒めば最悪は逮捕、良くても領都からの追放になるだろうね。」


 不満な様子のコニイではあるが、同時にこれが仕方がない事であるとも理解している。天災への対策に力を合わせようとしているだけであり、軍が強力なイニシアチブを取ることは正しい行為であった。


 しばらくの間休んだエンド達であったが、食糧の買い込みや街の雰囲気を確かめようと散歩に出る。すると空き地や公園には天幕が張られて疲れた様子の薄汚れたヒト達が集まっており、これは西側にある市町から避難してきたヒトビトであると分かった。

 そこでは黒衣を来たシスター達が炊き出しの準備を行っており、その中には褐色の肌と額の大きな宝玉、閉ざされた両目と長い耳を持つ耳長族のユラの姿もあった。


 リンガが近づくとユラも気が付き、笑みを向ける。


「あら、お二人ともお久しぶりです。申し訳ございませんが、今は少し立て込んでおりまして。」


「ああ、邪魔をしてごめん。これ、少ないけど何かに役立ててよ。」


 リンガは財布の中の金銭の多くを渡すと、その様子を見たエンドも同じ様に続く。


「寄付を頂きありがとうございます。必ず迷えるヒトビトを救うために役立てましょう。」


「うん。何かの手助けになれば嬉しいな。黒教ももう活動しているんだね。」


「ええ、黒き神々の教えはヒトビトを愛し、理不尽な力に団結して立ち向かうためのもの。お二人、いえ、お三方にも加護があります様に。」


 ユラは祈りの印を切ると頭を下げ、そして仕事に戻って行った。

 ふと周囲が騒がしくなり、先ほどよりももっと状態の悪い避難民達が軍人の先導を受けて公園にやって来ていた。親と逸れた子供の姿もあり、シスターが駆け寄り膝をついて目線を合わせて優しい声を掛けると、泣いている子を伴って教会へと連れて行った。


 騒がしくなっている街中で、割高となった保存食を買うとコニイの家までもどる。

 すると、コニイからついさっき郵便屋が来て赤い紙を置いていったと聞く。

 その中様を見るとコニイは後方でマギアの整備や物資の管理を行ってほしいとあり、集合場所と時間が書かれていた。


 一方でリンガとエンドには探索者組合へ集合時間までに集まり、指示を仰ぐ旨が書かれていたのであった。


 





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