5-58 夜道
探索者組合の建屋を後にしたコネルは少し機嫌が良さそうに帰路を歩く。そこに護衛が少し戸惑った様子で尋ねる。
「閣下、その、良かったのですか?あの銃は大切にされていた筈。それに、あの者の取り扱いについても・・・」
その質問にコネルはクスクスと笑って答える。
「ええ、貴方の言いたい事は分かるわ。常識的に考えて、あの危険な存在は軍で管理するのが正しい。そうでしょう?」
「・・・ええ。例え彼の親しき者を引き合いに出してでも、鎖はつけるべきです。少なくともこの領都から出すべきでは無いかと。」
「そうねぇ、そう、その通りよ。貴方の意見は実に正しいわ。でも・・・だからこそ少し残念ね。」
護衛はその言葉に少なからず衝撃を受けて戸惑いの声を上げる。
「ならば、何故!?それに何がいけないのでしょうか!」
コネルの硝子質の目が護衛の眼を、さらにその奥まで見通すように射抜く。
「ええ、我々は軍人。理論に背く事なく冷静な判断を下す必要があるわ。そして、貴方はその点については合格。ただ、それだけではその先には行けない。」
ゴクリと護衛は唾を飲み込み、次の言葉を待つ。
「言葉にするのは難しいけどね、流れみたいな物かしら?長く生きているとそういったものを感じる時があるの。ふふ、馬鹿みたいな話でしょう?でもね、大体そう言った流れを止めようとすると全てが駄目になっちゃう。何度もそういった経験をしたわ、偉そうなこと言っちゃったけどその逆もね。」
「かの者にそれだけの者があると?」
「さて、どうかしらね?でも記憶も無く、私も知らない種族が今ここにいて、そしてその異様な能力によってこの領都が助かったのは事実よ。それに・・・」
コネルはポケットの中で弄んでいた2つのバッジを空に透すように取り出す。
そこには探索者と探究者の証があった。
「彼なら、もしかすると私達では見つからなかったものを見つけることが出来るかも知れないわ。それに、かわいい後輩達を助けるのよ先立ちの勤めかしらねぇ。」
少し脱力した様子の護衛は納得し難い様子で唸る。
「・・・むむむ、そういう、ものなんですかね?それで閣下は愛用の銃も渡されたと。」
微笑むコネルは諭すように言葉を被せる。
「そういうものよ。それに、あなただって閣下と呼ばれる階級でしょう?これからはそういうものがある事を覚えておきなさい。」
「理解はまだ出来ませんが、分りました。私ではまだ至らない何かがあるのでしょう、大将閣下のご判断に従います。」
少し不貞腐れた様子の護衛をコネルは笑う。
「ふふ、私も絶対に正しいとは言えないから難しいのだけどね。でも、全くの野放しというのも確かに問題ね・・・そうねぇ、とある少尉を昇格させて情報部に異動させましょう。それで形上は負傷による休職として、とある人物を護衛させるというのはどうかしら?」
「なるほど。悲しみは腕が立ち前線でも使いたいところですが・・・検討しましょう。」
「ええ、お願い。さて、戻ったら沢山の仕事が待っているわ。次にこうやって抜け出せるのはいつになるのかしらねぇ・・・」
護衛もその言葉に苦笑いを浮かべて首肯すると暗い夜道を急ぐのであった。
探索者組合の組合長室ではタツキが疲れた様子で脚を机の上に乗せて椅子にもたれかかり座っていた。
「あ゛ー、疲れたわ。やっぱあの婆さんといると気が休まらねぇ。」
「お疲れ様です。エンド様が復調されて良かったですね。リンガ様は、まぁ、概ねお元気で。」
イースは途中で少し声を濁したが、健康には問題が無いと思い直す。
「全くだ、身体を剣で刺されたと聞いてたからな、心臓に悪い・・・いくらあいつの口車に乗ってババァに手紙を出したとはいえ、後押しした事実は変わらねぇからなぁ。」
タツキは領都の防衛戦時にエンドから後方でマナの供給を行いたい旨を聞き、その旨を書簡に記して大将のコネルまで事態が動いて後戻りできないタイミングで届く様にしていた。
探索者として組合長になる前から会っており、それなりの交流もあったため書簡については読んでもらえる公算があった。加えて、エンドによりマナが供給されると共にアンデッドが誘引されることも含めてコネルであれば上手く軍を動かしてくれるだろうという信頼もあった。
「ま、あんな手紙、下手すりゃ軍法会議もんだったがなぁ。」
「いえ、あれは軍が自主的に判断して動いた形になっていますから表立っては責められなかったでしょう。」
「おう、だから今日みたいにこっそりと会えるようにセッティングさせられたんだろうけどな。しかしヒヤヒヤさせられるぜ、エンドのアホは怖いもんがねぇのか?」
最高権力者を前にしても萎縮する様子も無かったエンドを思い出し、呆れ、そしてもう1人の事も思い出すと笑みを浮かべる。
「しかしリンガの奴は、クッソ笑えたな!あの野郎があそこまでしおらしくなるとはよォ!しかもマナ漏れてなんてマジで起きるなんてなァ。」
「ええ、私も驚きました。それを一人で成すエンド様も恐ろしいですね。」
「・・・そこは羨ましいなァ、そこまで凄いのなら一度抱いてみてぇなァ、マジで一度話してみっか?」
タツキの身体の火照りはたった今飲み込んだ強い酒によるものだけでは無かった。




