5-59 既視
エンド達はコニイの家に戻るとリビングに集まり一息ついていた。
「いやはや、この領都のトップが来るとは驚いたな。」
エンドが笑いながら言うと、他の者も頷く。
「そうだね助手君。君達の話から軍の上層部の誰かが来るとは思っていたけど、最高権力者が護衛を一人だけ連れて会いに来るなんてね。と、ところで助手君、その銃をみ、見せてくれないか!?」
「うむ。構わないが、ガードマギアよりも威力があると聞く。性能を試すのであれば領都外に出てからが良いだろうな。」
「ヒャホーイ!!」
コニイはエンドから銃の魔道具を受け取ると奇声を上げて研究ブースまで走って行った。それを見送りながらエンドは言葉を零す。
「しかし、理由は分からないが大将殿の眼鏡にかなって幸いだったな。話の流れによっては拘束されていたかも知れない。」
「・・・そうだね。アレはマギアンだけど、何か油断ならないものを感じたよ。多分色々と危ない引き出しがあったね。それにあの護衛もかなりの腕前だよ。」
リンガが頷きながらエンドの言葉に相槌を打つ。体を包んでいた布を脱いだリンガは漸くマナ漏れの症状が収まってきていた。
アイリスはコニイを追ってリビングにはおらず、シッコも何処かに姿を消していた。
二人だけとなったリンガがチラチラとエンドを上目遣いに見る。
「相棒、部屋に行こうか。」
「・・・ん」
二人の姿がエンドの部屋に帰るのを、シッコが物陰から生暖かい視線で見送っていた。
ーーーそして、翌朝。
「あ゛ーあ゛ー」
「またかっ!!リンガを離したまえ助手君っ!!」
魔道具の銃の解析に夢中で一睡もしていなかったコニイが目の下に隈を作りながらもシッコに呼ばれてエンドの部屋に入ると、昨日の朝と変わらぬ景色が映る。部屋の惨状と怒りを込めて手刀をエンドの頭に叩き込んだ。
「わたしはしょうきにもどった。」
「はいはい!」
まだ挙動のおかしなエンドを放置して虚ろな目で喘ぎ、痙攣するリンガを揺らす。
「リンガ!起きろ!」
「あ゛ー・・・」
「駄目かぁ・・・アイリス!またエンドを頼むよ。シッコ君も心苦しいが清掃を頼む。」
「了解しました。」
「エー!?昨日の今日だヨ!?悪いのはご主人だけどサー・・・分かったヨ」
コニイは色々と苛つきながらもリンガをシャワーで洗い流して部屋まで運ぶと雑にベッドに投げ込む。徹夜の身で更に精神的に疲弊したコニイは気怠そうにリビングに戻り椅子に深く腰掛け溜息をついた。
少しばかりうつらうつらと居眠りをしていたが、身を整えたエンドがやってくると目を覚ます。
「助手君、君はアホかね?昨日と同じことを繰り返すなんてね。」
棘のある言葉にエンドは頭を掻いて謝罪する。
「いや済まない。今朝までの記憶はしっかり残っているのだが・・・どうにも途中から歯止めが効かなくなってしまうようだ。」
「ふーむ、流石に2日連続だと君の種族の特性かも知れないね。小鬼以上に性に奔放な種族がいるとは・・・」
「正直私も驚いている。同族が仮にいたら聞いてみたいところだ。」
「いや、中々のセンシティブな話になるね、それは。」
ズル、ズルと引きずる音を立ててシッコが非常に怠そうに近づいてくる。
そして、エンド達の側を無言で抜けて窓を開けた。
「オロロロロ!!」
窓から出したシッコの口から嘔吐物のように何匹ものスライムが裏路地に落ち、街へと消えていく。
そして窓を閉め、振り返ったシッコが触手を伸ばしてエンドを軽く殴った。
「ぬおっ」
「ご主人ー少し、アタマ冷やそうカ・・・やりすぎなんだヨ!マナは好きだけド、濃過ぎだヨ!」
エンドが詫びるとシッコの溜飲も下がった様だったが、コニイは今後も種族的な理由で起こり得ると告げると難しい顔になった。
「むー、勝手になっちゃうのは難しいネ、誰かが途中で止めれば良いと思うけどサ、邪魔するのも悪いよネー」
種族的な話になるとかなり寛容になるのがこの世界の常であり、しかも害といってもそこまででもない点が今回の微妙な点であった。
正午ごろになるとコニイはリンガの様子を見に部屋に入る。
「おーい、起きたかい?」
「・・・うん。」
「先に言っておくけど、またマナ漏れしてるよ。あと二回目なんだからさ、女の君が主導権取らないと駄目じゃないか。それで、体調は?」
「・・・ごめん。迷惑かけてる。主に、全身がヤバい。」
「大丈夫じゃ無さそうだねこれは。」
ベッドに突っ伏し、表情乏しく言葉少ないリンガの様子を見てコニイが苦く笑う。
「コニイ、決めたよ。」
リンガの真剣な表情に何事かとコニイも身構えた。
「な、何をだい?」
「一人じゃ無理。死ぬ。」
「え!?そ、それって、まさか、わ、私もって事でいいのかね!?」
「うん。正直微妙な気持ちだけど、相棒は男、独り占めにできる時代じゃないし・・・」
男女比は概ね1対15であり、貴重かつ重要であるものの力の弱い男性は複数の女性、もしくはコミュニティの共有所有物という扱いになっており、この世界で育ったリンガ達にもエンドを蔑ろにする気は全くないものの、その様な考えが根底にはあった。
「お、おお!いや、しかし、助手君が何と言うか・・・」
「相棒なら多分気にしないと思う。むしろ上げ膳据え膳とか言いそうだし。」
コニイはそれを聞き、微妙そうな顔をしながらも納得する様に頷いた。
「あー、うん。分かるけどそれ、女性側の台詞なんだけどねぇ・・・し、しかし苦節◯十年、ようやく私も日の目を見る時が来たかっーーー」
「あ、でも今夜は流石に無理かな。動けない。」
「なん・・・だと・・・」
コニイの勢いよく上げた右腕が力無く垂れた。




