5-57 餞別
混沌とし、そして弛緩した雰囲気は空気を軽くして会話に花を咲かせていく。これまでのエンドとリンガの冒険、コニイの発明のこと、そしてコネルの長い人生からなる様々な出来事は多くの者の目を輝かせた。
気をよくしたタツキが部屋に置かれていた酒を振る舞い、より一層陽気な雰囲気となる。しかしながらコネルも多忙であり、タツキも探索者の対応で些か疲れており都の最高権力者への顔見せは和やかに終わる。
「名残惜しいけどそろそろ失礼するわ。軍も再編中だし近隣の都市や別の領都と情報を擦り合わせないといけないから暫くは領都で大人しくしていなさい。」
「そうだな。軍が見回れなくなって街道にも魔獣が多く出現している。俺たち探索者は戦闘の専門家じゃねぇ、偵察や軍が掃討した地域の確認にはいずれ動かすが、リスクが高すぎる、今じゃねぇ。」
エンドも通常時の自身の弱さについては分かっている為、反論する事なく頷く。しかし向けられる視線には何処か懐疑的なものが混じっていた。
「ま、ボクも暫くアイボーが無茶しないように見張ってるよ。」
リンガが肩をすくめながらエンドを小突いた。
「ああ、そうだわ。今回の件、表立って褒賞は渡せないけど・・・これをあげるわ。」
コネルの懐から出されたそれは、見たことない筈であったが、エンドはその形にふと脳裏に湧いた言葉を口に出した。
「銃か。」
「あら?知っていたのかしら。今は殆ど使われていない筈だけど。」
「知らない筈だが・・・いや、知っていたのか。」
「ふふ、ならやっぱり貴方はこの世界の過去を調べた方がいいわ。貴方の少し古い話し方もそうだし、アカデミアには未解読の古文書も多くあったわ。この世界は一度崩壊したとされているけど、そこで多くの知識が失われ、昔の方がより高度な文明があったの。この銃の魔道具もその一つよ。」
「魔道具?マギアでは無いのかな。」
「原理的には大きく変わらないのでしょうけど、区分けね。崩壊前の今では作れない技術のものをそう呼ぶの。」
エンドはまじまじと魔道具と呼ばれた銃を見る。
回転式のシリンダーが三つ、赤・黄・緑の小型の宝玉が埋め込まれている見た目だけではシンプルな代物だ。自身の知識を探ると、リボルバーというものに似ているようであった。
「魔獣は魔法を使うけれど、これは人工的にそれを再現しているの。今のマギアは二次元的な式を魔石の粉を使って描くけど、これは三次元的にこの小さな宝玉に書き込まれているわ。赤は威力と射程の長い火炎弾、黄色は射程が短いけど雷撃が出せる、緑はそこまで威力は無いけど不可視の衝撃波が出るわ。グリップにマナを送ればシリンダーの1番上にセットした宝玉の魔法が撃ち出されるの、一定以上のマナがあれば一定の魔法が出てくるからマナを入れすぎても意味が無いし、少ないと何も起こらないわ・・・手にとってもいいけど、ここだと部屋に被害が出るから試さないでね。」
「ふむ。では少し見せてもらおうかな。」
拳銃と呼ぶには少し大柄なそれは、エンドの手に良く馴染みそうであった。シリンダーを回し、腕を真っ直ぐに伸ばして格好を取る。
「ふふ、様になっているじゃない。」
「ありがとう。しかし、何故この魔道具は今は普及してないのかな?やはり加工技術が失われてしまったのか。」
「それもあるけどね、1番は需要が無くなったのよ。この魔道具の問題点はそれなりに威力はあるけどマナの消費量がかなり多いの、私だと2回か3回くらいで厳しくなりそう。昔は今ほどマナが不足していなかったから満タン無かったかのかも知れないけど・・・男性ならある程度使えるでしょうけど、貴方みたいに外に出る男性はかなり少ないでしょうから。それに何より、威力がそれなりにあると言っても女性の兵士がオーラを込めて殴った方が強いしオーラウェポンには全く及ばないわ。アカデミアでは武器ではなく道具として簡単なものの復元は試みられていたけれど。」
「なるほど、世知辛いな。必要は発明の母ではあるが、逆にも言えるか。しかし、これは貴重なものだろう?本当に貰ってもいいのかね?」
「ええ、貴方が持っていた方が役に立つでしょう。それに、私がそれを必要とする事態になる事がそもそもダメなのよ。そうね、でもそれが役に立ったのならまた貴方の冒険談を聞かせて欲しいわ。」
クスクスと笑うコネルにエンドは頷く。一将官ならともかく司令官が最前線に出て戦う必要がある時点ですでに戦局は破綻していると言っても良いだろう。
「・・・約束しよう。では、ありがたく。」
エンドは胴にホルスターを回して付け、銃を仕舞う直前に思い出したかのように尋ねる。
「そういえば、この銃の銘はあるのかな?」
「そうね、私は気にした事は無かったけど、グリップの底に古い文字が刻まれていたはずよ。」
エンドがコネルの言う場所を見ると、そこには削れて薄くなっていたが、確かに文字が刻まれていた。
「『アンペル』と書いてあるな。大切に使わせて貰おう。」
エンドの脳裏に3色の光で交通を制御する機械の姿が過ぎった。
「ええ、でも1番は身を守る事が大事よ。必要なら道具は使い捨ててでも生き延びなさい。」
真剣な雰囲気を感じたエンドは重々しく頷いた。しかしその空気を壊すように猫撫で声が響く。
「じ、助手く〜ん。そ、それ、後で借りてもいいかな?崩壊前の魔道具なんて、なんと素晴らしいんだ!」
息荒く興奮した様子のコニイにコネルは小さく笑う。
「ふふ、貴方は探究者、ね。エンド君にあげたものだから彼に断りを得たなら好きにしなさい。」
「うむ、ドク。分かったが壊さないように頼む。」
「よぉし!!任せたまえ!」
コニイは思わずガッツポーズを取り、皆それを見て笑うのであった。




