3-46 覚醒
身体が燃えるようだという表現はよく有る凡庸な比喩であるが、正にそうとしか言いようのない、身体の表から中にまで、細胞の一片までも灼けつくようにエンドは感じる。
夢のような世界の記憶は酷く朧げにしか覚えていなかったが、それでも忘れ得ぬ事がある。オーラによる強化が10とするならば、マナによる強化は1もあれば上等。ならば、どうすればいいのか。
答えは簡単だった。マナを百倍にも千倍にも増やせばいい。マナが発散するのであれば、それよりも尚早くオドをマナに変換してしまえばいい。どこまでも早く、濃く、強く。
その凄まじく圧縮されたマナは身体を崩し、即座に再生させていく。少しでも気を抜けば、マナで出来たこの身体がそれこそマナに戻り霧散してしまいそうでありーーーそしてそれは間違いない事だとエンドは確信していた。通常のヒトであれば耐えきれないそれを、かろうじてエンドの特別な肉体がそれを可能としていた。
周囲のヒトビトは皆動きを止めており、アンデッド達さえも燃え盛る炎を恐れるが如く近寄ることが出来ない。
だが、その中でも真っ先に再び動き出したのは先程エンドを貫いた鬼神と呼ばれたグールであり、その変質した組織はエンドのマナを浴びてさらに蠢き、肥大化していた。爆発的な脚力で自らの足を崩し、そして黒い組織で歪に再生させながら迫る。
エンドは全裸のまま正面から向き合い、僅かに身を屈めるとその懐に飛び込むように抱き留めた。
衝撃音が響くが、エンドはびくともしない。グールは身を捩り、軍刀を突き刺して引き剥がそうとするが、エンドの傷は即座に治り、そしてその力は恐ろしく強く逃れることも出来ない。
直接エンドからあまりにも強くマナを注がれるとグールの黒化した組織は弾け飛び、既に身体の奥深くまで蝕んでいた汚染も跡形もなく崩れた。それは呪いからの解放と、活動可能な組織が無くなった事を意味する。
一瞬だけ光を取り戻した瞳がエンドの視線と交差し、何処か安堵の表情を浮かべて生前の姿を有る程度取り戻しつつ、力を失った。
エンドら優しくその身体を地面に横たえさせると、高く、高く旗を掲げる。
時刻は昼と夜の境目、夕暮れも朝焼けも無くただ暗くなるだけのこの世界。奇しくも天気は曇。エンドのマナは余りにも強く、そのエネルギーが光になり一体化を照らす。
それは黄昏の色、透明な橙色というよりも金色に近い。厚く垂れ込める雲と暗がりも相まり、この世界の住人が知ることもなかった幻想的で美しく、そして恐ろしい景色が誕生する。
その場にいるヒトビトはこれが夢なのか現実なのか、加速するマナによる熱病のような興奮の中己の目を疑う。全裸の輝く男があり得ない程のマナを撒き散らして旗を掲げ、世界を染め上げている。その異常すぎる光景とマナは周りのものに余りにも強い衝撃を与え、意識を失うことを許さなかった。
エンド自身も明滅する視界と意識に抗いつつも周囲を見渡す。それは単なる視覚だけではなく、気配、存在を感じるものであった。
周囲の兵士、領都のヒトビト、未だ存在する膨大な数のアンデッド、遙か遠くまで気配を読み解きーーー仮にエンドが兇刃を浴びなかったとしても、状況はかなり難しかったであろうと考える。
さて、マナは水に溶ける性質を持ち、そして男性が生成するものである。全身の細胞でオドから変換されるそれも、組織単位で見れば不均一である。
そして最も多く変換されるのが、いわゆる精巣であった。ただし普通の男性であればそれは比較的多い、といった程度の話となる。だが、余りにもマナの生成を加速させるエンドにあってはこの偏りは余りにも明確なものとなっていた。
エンドもまたそれに気が付いていた。そして溜め込まれたマナは放出先を求めている。
ついに限界を迎えたそれを、隆起した一物を砲身として一気に解放させた。それは爆発的で、まるで途轍もなく太い光線となり地平線まで染め上げ、そして腰を振るとそれは全方位を薙ぎ払う。
「なんの光ィ!?」
それは城壁という物質さえ透過し領都の中まで一方的に照らしつけ、ヒトビトを飲み込む。
その光に呑まれた生者は鮮烈なマナに意識を一瞬で喪失し、アンデッドは変質した組織を瞬時にして崩壊させ動きを止めた。
「くくく、はっはっ、は・・・」
限界以上に酷使されたエンドの身体もそのマナの異常な産出を止めると共に力を失い、その顔に満足気な笑みが浮かべて倒れ込んだ。
空が暗がりを取り戻した時、見渡す限り誰一人として立っている者はいなくなっていた。




