3-45 夢幻
分厚く立ち込める雲、しかし何処からか漏れ出た黄昏の光が美しくも恐ろしい暗い金色に空を染めていた。
強く風の吹く荒野、生命の気配は無い。
エンドはこれが走馬灯というものか、はたまた死後の世界なのかと景色に見惚れながらぼんやりと考える。身体は全く動かず、自身がどのような状態かもわからなかった。
しかし、直前の記憶を思い返してみればとても無事であったとは思えない。身を貫く熱く冷たい感触は忘れられない。
まあ、自分にしてはよくやった方か。エンドはそう考える。些か早逝した感は拭えないが、自らの選択の結果であれば仕方がない。ゆっくりと視界が暗く、そしてぼやけてゆく。強い後悔は無く、静かに、ようやく死んでいけると思った。
『ーーーだから貴様は屑なのだ。』
声ならざる声のような何かの意思を感じ、それを見ようとする。いつの間にか、いや最初からあったのか旗が地面に刺さり、風にたなびいていた。
『貴様の行動は真たる意欲では無い。無為という恐怖に動かされた結果に過ぎん。そして、貴様の動いた結果も無様だ。大勢は決し、殆どが死ぬ。』
エンドも自身の行動には後悔は無かったが、浴びせられる言葉は自覚も無き芯を突くものであり、穏やかに消えていこうとする心をざわめかせた。
ーーーならば、私は愚かにも動くべきでは無く、賢くも逃げていれば良かったのだろうか?
『知った事では無い。俺は百万の命を助け後悔するより、一つの命を殺して満足できるならそう動く。だが、それは俺がそうしたいからに過ぎない。』
その意思はエンドの行動を肯定する事も無かったが、否定する事も無かった。
『しかし貴様が最も屑で愚鈍な点は、自らの体を知ろうとしなかった事だ。その肉体は、かつての神が、かく強くあれと造った代物。正確にはその残渣にも過ぎんが、少なくともこの程度で倒れるものではない。』
エンドは自身のタフネスとマナの異常な放出にぬいて思い当たり、一方でオーラを使う者に対しては非力であった事もまた思う。
『腕力、破壊力は大事である事は間違い無い。圧倒的な暴力は全てを覆す。だが貴様達程度の存在であれば力とは様々な形がある。単純だけどな強さとは定義できまい。だが、それでも貴様には力も、知識も、何より覚悟も足りていない。それが狭間で捻れ、腐り、尚その程度なのが屑が屑たる証明だろう。』
エンドは自身の中に反論の言葉を探そうとしたが、しかし何も見つからない。暴言に一つでも反論しようとする気力がさえ湧かず、その言葉がストンと染み入ってしまっていた。
『・・・さりとて、いかなる形であれ命を賭けたのもまた事実か。フン、その塵の中に僅かでもまだ熱が有るのならば、せいぜい俺を楽しませて見せろ。』
エンドは唐突に胴体部に想像を絶する痛みを覚え、叫ぶ事も、指の一つも動かせずに声無く悶える。だが、ふと漠然としたイメージが像を結び、そして知る。この身体は、正にオドから作られ、そしてマナのある世界で生きる為に造られた物で有ると。そして、確かに神はかく強くあれと、ヒトを作る前にこの身体を作りそして思考能力も無い純粋で愚かな身体を果てへと追いやった。愛もないが悪意はない。そしてそれがいま、何の因果か愚かな知性を得た。
気が付けば視界から心惹かれる風景は消え、ただ闇に近い暗がりだけが広がる。
しかし、これは真たる闇ではない。まだこの身体はまだ終わりではない。痛みがある、戻ってきたのだ。
しかしまあ、何とも恥ずかしいと、エンドは考える。思えば目覚めた初めの頃から答えはあったというのに。リンガに腕相撲に惨敗したあの時から、マナはオーラにその単純な力では劣れどこの身体を強めていた。
『リブート』
身体がオドを急激に取り込む。身体はマナで出来ている。変換されたマナは、神の造ったかく丈夫であれという身体を再生していく。
目を開けると涙を流すリンガの姿があった。エンドは心の中で叫ぶ、嗚呼辞めてくれ、このまま消えてしまっても良くなってしまう!可憐な存在から心配という過剰な心を向けられるのはーーー
立ち上がるとさらにオドを取り込みマナを作り出していく。マナを制御して身体から逃さないようにしてその速度を上げていく。
リンガの頭を撫でら人さし指で涙を拭って舐めとる。しょっぱく、どこか甘い。
未だだ、未だ全然足りない。もっとマナを、何処までも濃く、強く、溢れるのを止められない程のーーー
エンドの筋肉がより一層隆起し、抑えきれないマナが溢れだす。身に纏っていたマギアフレームの人工筋肉が鮮烈なマナに耐えきれずに誤動作を起こして服もろとも弾け飛ぶ。
「キャストオフ・・・」
エンドは全裸となっていた。その身を隠す事なく、堂々とした仁王立ち。
周囲の者たちの視線はその姿に注目し、さらに少し目線を落とした場所にさらに注がれる。
「「「「「デッ!!!!!」」」」」
それは、どうしようもなく、そして大きく勃ち上がっていた。




