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第8話

第8話





ゴブリンが去った後、俺は養殖池の出入口にそっと入ってみた。

緊張と恐怖で震え上がりそうになりながら覗いてみる。


そこは洞窟とはかけ離れた、石造りの建物内といった感じの建造物だった。

幅は3m、高さは6mと妙に高い廊下が、探査範囲外まで真っすぐ続いている


家具や松明は無し。


そして脇道も無い。


くそっ……!


この場所で。

いやこの廊下がこの先も続くとして、巨人を感知しても隠れる場所がない。


幅3mの端を通ったとしても、松明の光で丸見えだ。


先ほどのスライムの最後が、頭から離れない。



スライムは、弱い。


ゴブリンから敵と認識されないほどに。


踏み潰しても、気が付かないほどに。


戯れで踏みつぶしに来ないことを祈りながら、この先を進む?


無理だ。



この体での移動は、それなりのスピードは出る。

だが体格差から見て、追いかけられれば逃げ切れないだろう。


行き止まりがあれば、そこで終わりだ。

試してみる気にもならない。


思いついたのは、この出入口以外の選択肢だ。

大きく広がった「周辺探査」でもう一度、洞窟内を探査してみる。


外部につながる、別の出口があるかもしれない。

幸いENGの回復に問題は無い。


初めに探査を行ったのは下流方面だ。

だがすぐに失望に変わった。


行き止まりで、川が途中で岩の下に吸い込まれている。

呼吸が不要なスライムの体でも、ここに飛び込む勇気は湧かなかった。


必然的に上流方面への探査に移った。

川沿いは一本道だったが、意外と広かったのだ。

その分期待が高まった。




——ダメか。


川の轟音に晒されながら、俺は何度目かのため息をついた。


ここは養殖池から遠く離れた、恐らく俺が目覚めた場所より上流だ。

外部に通じる場所を探し、こうやって遠征して結構時間が経っている。



「周辺探査Lv2」は洞窟内の探査でも素晴らしい効果を発揮して、詳細かつ広範囲の様子を俺に教えてくれたが、巨人からの解放までは与えてくれなかった。


たまに見かける昆虫類を吸収しつつ、探査自体は順調だ。


途中脇道を何箇所か見つけたので、そこを虱潰しに行ってみるか……。


俺は油断しないよう慎重に、だが焦りからか素早く暗闇を進んでいった。


いくつかの脇道を探査し、それなりに広い場所に出た時だった。



周辺探査 レベルアップ Lv2 → Lv3

種族レベル レベルアップ Lv4 → Lv5


最大ENG 500 → 1,000

最大BP 100 → 150


ステータスポイント 5


オリジナルスキル 1 設定可能



えっ!?



俺は唖然とした。


情報量が多い!


というか、「周辺探査」のレベルアップ!?


何故だ? 前のレベルアップから、使用回数はそれ程多くない。


前回熟練度を上げるために使用した回数は、800回は優に超えるだろう。

それが200回にも満たない使用回数でレベルアップ?


んんん?


種族レベルも初めて上がった。

これは……熟練度の蓄積がそのまま経験値になってるのか?


レベルアップは嬉しいが、謎が残る。

どうして周辺探査はレベルアップした?


…………。


——「周辺探査」の熟練度の蓄積は使用回数じゃ、ない?



俺はぞわっとした。


検証したと思った仮説が崩れた。


これは、まずい。


いやしかし、レベルアップには成功したんだ。


Lv2からは熟練度アップの条件が違う?

そんなことありうるのか?


「周辺探査」の熟練度蓄積は、使用回数じゃない。

なら何だ? 何が熟練度を上げた?


その時、周辺探査の効果が切れ、世界がゆっくりと消えていった。

俺はイラつきながら再びスキルを起動する。


広大な範囲が再び戻ってきた


範囲……。


ある仮説が頭の中に浮かんだ。



範囲……探査範囲か!


探査した範囲の合計が、熟練度を蓄積する。


「周辺探査」スキルの半径2mから20mへの変化。


その探査範囲は、体積なら1,000倍に達する。


一度探査した範囲は、熟練度蓄積の効率が落ちると考えても、Lv2の広大な範囲での探査で、急速に熟練度が溜まった。


こうか!



範囲を広げれば広げるほど、レベルが上がりやすくなる。


必要に駆られて上げた範囲が、思わぬ効果を叩き出した。


それで?


周辺探査Lv3に意識を集中。等価交換は、ある!


よしよし!



そういう事なら選択は、距離拡大一択だ!


霧状範囲は——60m! すっご!



うひゃひゃ!


先ほどまでの鬱屈とした精神状態は、綺麗に霧散した。

「周辺探査」はこれで問題ないだろう。


後は種族レベルだな。

考えながら、何の気なしに進む。


あれ?


移動した後も周辺探査外になった洞窟の景色が、残ってる。


まさか、これ……。


一度探査した場所の地形が、記録されてる!?


MAP機能か、これは!


記憶だけをを頼りに時々間違えてた道程が、これで把握できる!



小躍りしたい気分だ!

いや落ち着け、ステイだ。


種族レベルが残ってる。


単純にENGとBPが上がった。


BPについてはまだ検証出来ていない。


ただ……。


俺は踏み潰されたスライムを思い出した。


同族。


ならBPを持っていたのか?


ゴブリンの踏み付けは、一瞬でBPを0にした?

俺よりも小さかった、ならBPも少なかった?


大きさか……。


……ん?


……んん?



あああああああ!


自分の体の大きさに意識を向けた時、俺はとんでもない事に気が付いた。


俺の大きさ!


大きくなってる!!



えーと、今直径35cmくらい?

30cmから5cm増えてる!


何だこれ、レベル上がると大きくなるのか!?


謎生物!



という事は俺より小さい同族って、俺よりレベルが低い?


正直、大きくなるメリットってあるのだろうか。


ゴブリンに見つかり易くなるというか、何だこいつでけえな! って注目浴びたりしない?


直径3m位になれば、逆にゴブリンを踏みつぶせそうだが……。

今度は通れる場所が、少なくなりそうだ。



ええと、それから。


ステータスポイント 5


オリジナルスキル 1 設定可能



説明文を出す。


ステータスポイント: 1を使う事でそれぞれENGもしくはBPを増やす事が出来るわ。

使わずに貯めることで、何か良い事が起こるかも。 こうご期待よ♪


オリジナルスキル: ステータスポイントを5ポイント使う事で追加出来るスキルよ。

何を追加できるかは、貴方の創造次第♪



…………。



オネエは今日も絶好調だ。


1ポイントでのステータス増量は、以前見た通りだ。

それは良い。


5ポイントでの追加、これヤバすぎないか?

何でもいいの?



脱出魔法……種族特性により、不可


掘削魔法……種族特性により、不可


ダメか?

うーむ。



即死魔法……種族特性により、不可


炎魔法……種族特性により、不可


風魔法……種族特性により、不可


水魔法……種族特性により、不可


土魔法……種族特性により、不可


光魔法……種族特性により、不可


闇魔法……種族特性により、不可


空間魔法……種族特性により、不可



…………。



魔法……種族特性により、不可



何なら良いんだよ!!!



俺はステータス欄に向かって叫んだ。


魔法関係全滅じゃないか!


スライムは、魔法使えないのか?


泣くよ?俺。



じゃあもう目ね、目!


あー光認識、可視光線?みたいな。


人間が持ってるような!




光認識(人間)……可



え……。

 


思考が停止した。


ちょっと、まて。



あれほどまでに渇望した、目が手に入る?


こんな白黒ポリゴンじゃない、本当の視界。


目が、持てる?



よし!! これに決っ……!


心の中で決定ボタンを押そうとしたその瞬間、何かがそれを押し留めた。



——それで、いいのか?


——本当に、それでいいのか?


——俺の目的は、何だ?


——ここから抜け出すのに必要なのは、それか?


——あのゴブリン達を手玉に取るのに今必要なのは、本当にそれか?




気が付けば、俺は凍り付いた様に動きを止めていた。


存在しない呼吸が浅くなる。


自分への問いかけだけが、暗闇の中へ静かに沈んでいった。





第8話 完




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