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第9話

第9話





しばらく暗闇の中で考えた。

その結果は、こうだ。


今俺に必要なもの。



「目」じゃ、ない。



未練は、ある。

小さくない。

凄まじく大きい。


だが「目」を得ることで今の事態を打開できる未来を、俺は想像できなかった。



次に考えたのは、「戦う力」だ。


今手元にある物で戦いに役立ちそうなものは、「ディジーズLv2」という効果が不明のデバフだ。


いやそもそも、デバフかどうかも分からない。


実は一度魚に使って検証してみたのだ。

結論を言うと、やはり効果不明。


特に変化はなく、魚はそのまま泳いでいた。

効果は有るかもしれない、しかし少なくとも即効性はない。



ならオリジナルスキルで「ゴブリンを短時間で倒す」、そんなものはないか考えた。

現代社会に生きた者として、最初に考えたのは「銃」だ。


剣?槍?弓?


君、自分の背丈の4倍以上ある巨人に、それで立ち向かえる?

俺は絶対に御免だ。


小石なんかを超高速で投げる、そんなスキル。

こう出た。


投射スキル……類似スキル既存の為、不可


!?


類似スキル、既存。


つまり、今持ってる?


開示されてないスキル、まだあったのか!


慌てて小石を探す……あった。


「ストック」


そして、投射……


まてよ。

この感覚、覚えてる。


そうだ、初めて小石をストックした時。


「投げてみろ」、そう言われた気がした。


これか!


「射出Lv1」 ストックしたアイテムを射出する ENG:1


これは「スキル」だったのか! 


音もなく射出された小石は、10mほどまで届いた。


カスタムは……無い。

熟練度を上げるのは、何だろう?

投げた数? そんな所か?


スキルはあった、しかし威力は話にならない位低い。

100発当てても倒せる気がしない。


そもそもここにゴブリンがどれだけいるか、分からない。

1匹倒せたとしても、戻らない同族を探しに他のゴブリンがくる可能性がある。


死体を見つける、大量のゴブリンが、養殖池周辺を探索し始める。

悪夢のような事態だ。


戦闘は無理と判断するしかなかった。





ああ~……。


疲弊した心を癒すため、俺は養殖池でプカプカと浮いていた。

非日常を連続して味わって初めて実感する。

何もない日常こそ、幸福の証だ。


オリジナルスキルは一旦保留し、俺は新たに解放されたMAP機能と共に洞窟の探索を進めた。


結論。


迂回路は、無い。


進めるのは、正面に見える出入口しかない。


ここを進むしか、無いのだ。


「周辺探査」には今行ける所、全ての範囲のMAPが表示されている。

表示されていないのは、この出入り口から続く通路の先だけだ。



しかし、どうする?

隠れる場所がない通路を、安全に移動する方法。


透明化? 出来ても偶然踏まれる危険は、常にある。


擬態? これも同じだ。



ゴブリンを無力化できる、異常状態系は?



スリープ……種族特性により、不可


パラライズ……種族特性により、不可


盲目……種族特性により、不可



くそ、不可か。



……こういうのはどうだ?



飛行……種族特性により、不可



ダメかー、まあそんな気はしてた。

スライムは飛べないよな。


天井が高かったので、飛ぶスペースはあるかなと思ったんだが。


…………。


高い天井、か。



俺は表面がサラサラのスライムだ。

移動は滑るように出来るが意図しない滑り、例えば坂道で意思に反して滑り落ちるといった事は無かった。


滑り止め程度に、ちゃんと体を固定できた。


くっ付いてる、と言ってよい


物理的にでは、ない。

何らかの力で、くっ付いてるのだ。


それを「魔力」と仮定しよう。


ステータスウインドウが開く世界だ。

魔力があっても何ら不思議ではない。


そして魔法を覚えようとした時、どう表示された?



……種族特性により、不可



こうだ。


俺が、というかスライムという種族が使えないだけで、魔法の存在そのものは否定しなかった。



恐らくこの世界に、魔法はある。


スライムは魔法を使えない。


だが魔力は、ある。



無意識にそれを使っている。

そうでなければ、この体は説明が付かない。


であれば、出来るはずだ。

意図しない限り剥がれず、ゴブリンの脅威を無視できる。



オリジナルスキル


魔力粘着……可



可能だ。



他に良いスキルがあるかもしれない。

だが思いつかない。


仕方がない。


深呼吸を一つ。


俺は心の中、震える指先で決定ボタンを押した。



水から出て、出入口に向かった。

「周辺探査」は60m、ただし30m程から先は霧の濃度が濃い。


細かいディテールは分からない、存在だけかろうじて分かる程度だ。

それでも通路にゴブリンの存在は見当たらなかった。


通路に入ってすぐ、右側の壁に進んだ。

俺にとっては見上げるような、巨大な壁。


「魔力粘着」


レベルの記載は、ない。


ENGの最大値が50減り、950になった。

最大値を削るタイプのスキルか。


軽いコストではない。

だが常時発動と考えれば納得できる。



俺は壁に触れた。


そして……。


壁を、登って行った。


粘着して。


…………。


天井まで6mを登る。

天井は平らではなく、アーチ形だ。


くっついたまま逆さになって登る。

逆さになっても、「周辺探査」の結果はまったく変わらない。


これは「結界」なのだ。


姿勢は関係ない。


そして思った通り移動時と同じく、意識はジャイロスコープの様に地面対して水平を保っている。

体の負担も全くなかった。


人間の感覚で言えば……足ではなく、頭で天井にくっ付いてる感じだ。

足を空中で動かせば、移動できる感覚。


シュールだ。


思わず笑みがこぼれた。



これなら狭い通路でゴブリンと遭遇しても、俺は遥か6m上空の天井だ。



暗い場所。


松明を掲げていても、見るのは足元だ。


天井を視界に入れても、掲げた松明のまぶしさで遮られる。


意図して天井を確認しようとでもしない限り、俺は見つからない。



3次元移動への進出。



これがもたらす効果を、この時俺はまだ完全には理解していなかった。




——ましてや。


養殖池で何事もなく泳いでいた魚が一匹、不意に動きを止めてゆっくりと水底へ沈んでいった事など、知る由もなかった。





第9話 完

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