第6話
第6話
直径30cmのスライムにとって、半径4mは決して狭くない。
普通に生きるだけなら、そうだろう。
だが俺の目的は違う。
「巨人に見つかる前に、巨人を見つける。」
これが絶対条件となる。
俺が欲しいのは生活空間じゃない、索敵範囲だ。
4m先で巨人を発見しました!
これでは、遅い。
見つけた時には、もう見つかってる。
俺は「周辺探査Lv2」に意識を向けた。
意識を集中すると、頭の中へ情報が流れ込む。
カスタム可能:1項目
「等価交換。 何かを得るなら、何かを差し出せ。」
やっぱりそれか。
世の中うまい話は無いな。
「周辺探査」のレベルが上がり、まだ気が付いていない追加項目があるかもしれない。
だが俺に今差し出せるものは、これだ。
詳細情報。
つまり今のハイポリゴンを削る。
「ハイポリゴン」を、「ローポリゴン」へ変更することによって、探査範囲を増やす。
いきなり決定にはならないよな? ちゃんとプレビュー出来るな?
……よし、出来る。
設定する。
すると世界が一瞬で変わった。
「周辺探査」の探査範囲が半径4mから6mへ拡大され、見える範囲が増えた。
あーいやこれ。
渋い!
思わず叫んだ。
いや半径が2m伸びたのは確かに凄いが、対価の割に結果が渋すぎないか?
頑固親父かよ……。
存在するか分からないスキル担当へ文句を言う。
返事はない。
くそったれめ。
そして最大の問題点は、探査範囲では無かった。
世界だ。
小石や鍾乳石、壁の割れ目。
全て消えた。
いや、正確には消えてはいない。
「何かある」だけ。
存在は分かるが、実際に触れてみるまでその「何か」は分からない。
羽虫に至っては、存在そのものが分からなくなった。
……これを差し出すのは、最後の選択だ。
一度知ってしまった世界は戻れない。
便利を知るって怖い。
文明ってこうやって発展したんだな。
知らんけど。
すぐ元へ戻した。
探査範囲が4mへ戻る。
やっぱりハイポリゴンは最高だ。
しかし距離は4m逆戻りだ。
どう距離を伸ばす?
考えろ。
探査範囲そのものを伸ばす方法。
……形を、変えてみるのはどうだ?
半径2mまでは今まで通りだが、そこから先の形を変更する。
例えばレーダーみたいに。
2mから先4mまでの探査範囲を、薄く引き伸ばして一枚の板にする。
時計周りにぐるぐる回す。
こういうのは、可能か?
設定。
——半径20m。
はあ!?
二度見した。
目は無いが!
20?
20!
一気に5倍!?
これは勝ったでしょう!
思わずその場で、ウネウネとのたうち回る。
これだ!
俺が欲しかったのはこれなんだ!
わが智謀をもってすれば、この程度の問題など造作もない!
レーダーがぐるぐる回る。
おおお!!
広い!
しかも全部ハイポリゴン!
——世界をわが手に!
よーし早速養殖池で試験運用だ!
うきうきしながら移動を始めたが、すさまじい違和感を覚えた。
……あれ?
動いている。
俺は動いているのだ。
なのに景色が動かない。
???
そのまま数秒。
ぐるりとレーダー探査が1周した瞬間、景色が一気に更新された。
うおっ!?
酔った、ものすごく酔った。
……なるほど、そういう事か。
探査がリアルタイムじゃない。
回転して探査してるから更新待ちになる。
つまり、
動く。
↓
4秒前の景色を見ている。
↓
急に今の景色へ飛ぶ。
こうなるのか。
まるでワープだ。
動いてる相手なら俺から見て、4秒止まっていきなりワープ。
自己デバフ誕生の瞬間であった。
更新速度を速めようと試すが、無理だな。距離が縮む。
探査距離を伸ばす為にやってるんだから、これでは意味がない。
却下!
遠距離レーダーとしてなら使えるだろうが、近距離の更新時間が致命的だ。
あと酔う。
ただ、「形を変える」という発想自体は悪くないはずだ。
次に思いついたのは、放射状。
第三者視点では、ウニそのものだろう。
新鮮なウニを食べた時の感動は、今でも覚えている。
線を大量に周囲に伸ばす。
……うぐぐぐ!
チカチカする。
何だこれは、世界が点滅する。
フラッシュライトを真正面で、高速点滅されてる気分だ。
目が無いのに、目が疲れる!
却下だ!
次だ次。
これはどうだ、立体格子。
三次元に網目を張る。
……よくこんなの思いついたな俺。
自画自賛しながら起動。
…………。
ダメだ。
細かくズレる。
理由は分からないが全部ズレる。
解像度はハイポリゴンなのに、結果はローポリゴン以下。
しかもまたチカチカ。
却下ぁ!
解除!
静かな暗闇が戻ってきた。
……ふう。
考えろ。
距離は伸びてるんだから、方向性は合っている。
問題は形だ。
形か……。
「周辺探査」は目じゃない。
「結界」だ。
前も後ろもない、死角もない。
球体そのものが視界だ。
だったら線や板、格子のような、「形」にこだわらなくて良い。
もっと自然に広がる感じで。
粒状、いや。
ミスト状。
空気中へ細かい粒子を満たすように、全方向へ。
これは、どうだ?
設定。
変更……通った。
おお……!
半径2mは今まで通り、完全なハイポリゴン。
その外側20mまでの範囲は、薄い霧になってる。
ぼんやりとしている。
でも存在が分かる、輪郭がある。
そして、
壁、岩、羽虫。
全部分かる。
判別、出来る。
負荷も、更新遅延も無い。
チカチカもしない。
——これだ。
思わず呟いた。
半径20m、これ以上は伸びない。
ここが「周辺探査Lv2」の限界なのだろう。
俺はゆっくりと養殖池の近くにある小山へ向かった。
ここなら巨人を察知しても、すぐに身を隠せる。
小山の頂上で停止して「周辺探査」で探査する。
……見える。
見えるぞ。
養殖池、池を囲む石壁そして、
松明。
光そのものは見えない。
だけどそこに光があることだけは分かる。
種族特性による「嫌な感じ」。
それが探査に溶け込み、まるで霧の中に灯る目印のように位置を教えてくれる。
……やっとだ
ようやく。
ようやく世界が見え始めた。
相変わらず世界は暗闇だ。
そこに詳細な白黒のポリゴンで作られた「世界」。
だが本当の意味で「生き延びる」ためのスタートラインに立てた俺は、静かにその景色を胸に刻み込んだ。
第6話 完




