第5話
ブックマークをしてくれた、貴方の為に。
第5話
これだけは言える。
俺は幸運だ。
羽虫の「ストック」から「吸収」はもう殆ど、意識することも無く行えるようになった。
職人技のように、スムーズに作動している。
そしてスキル欄にある「昆虫類誘引Lv1」 オン/オフ。
これを「フィルター」も応用してみたら、オン/オフの表示が出た。
考えてみれば吸収時、自動連動は使い勝手が悪すぎるからな。
俺はこれらのスキル欄の変化を見て思った。
元々持っているスキルでも、自分が意識するまで表示されないものがある。
表示されても、効果や機能は全て説明してくれない。
さらに、自分でカスタム出来る余地がある……そんな気がしたのだ。
「目が無い」という事実。
衝撃は少なくなかった。
いや正直に話そう。
俺の心は、ぽっきりと折れた。
例えこの洞窟から出られたとしても、暗闇の世界はどこまでも続いていくのだ。
だが時間が経って、気が付いた。
おれは幸運だったと。
巨人との遭遇。
あれは本当にターニングポイントだった。
たいまつの光に照らされて、
「周辺探査」の範囲外から、俺の姿は巨人に丸見えだった。
少なくとも餌やりの巨人は俺の存在に気が付いていた。
だが生き延びた。
そして気付けた。
自分の問題点を。
何も分からず、踏みつぶされるその前に。
そしてこの状況を打開するチャンスを、俺は与えられている。
俺は幸運の女神に愛されている。
……その女神はオネエの可能性はあるが!
課題は2つだ。
1つ、目が存在しないスライムの体は「周辺探査」が視界そのもの。
だが今のままでは範囲が狭すぎる。
2つ、明るい場所では「周辺探査」の範囲外から相手に見つかる。
しかし光が見えないので、周囲の明るさがわからない。
なかなかハードだ クソゲーと言って差し支えない。
解決策のかけらは意外な所にあった。
ステータス欄の種族説明だ。
種族:ケイブスライム
ケイブスライム:洞窟などに住んでるわ。 暗い場所を好むスライムよ。 何だかエッチね♪
安定のオネエだが、見たときはちょっと和んだ。
精神状態がどん底だったからね。
最初は特に気にならなかった。
今まさに洞窟なんだからそうだな、とスルーしてた。
「暗い場所を好む」
これがヒントだ。
暗い場所を好むということは、
この種族はそこが明るいか、暗いかを判断出来る性質を持っているという事だ。
たいまつの近くで嫌な感じがしたのは、光を認識してそこから離れようとしていたからだ。
この感覚をなんとか利用したい。
いや、
出来るようになっているはずだ。
そして「周辺探査」の範囲。
こっちは明確、わざとらしいくらいだ。
「周辺探査Lv1」
スキルにレベルがある。
レベル上がればどうなるかは、誰もが想像つくだろう?
問題は「上げ方」だ。
ステータスポイント:4
ステータス欄には、ポイントの記載があった。
俺自身のレベルアップでこれが与えられ、ENGとBPに割り振れる。
貯めると良い事があるとオネエがほざくので、割り振らずに保留中だが。
しかし、スキル欄にはそれが無い。
レベルアップ等で得られるポイントを使って、スキルレベルを上げるようなシステムでは無い。
そこから予測される上げ方は、
「熟練度制」
これだ。
スキルを使用すればするだけ経験が溜まり、一定値でレベルアップする。
つまり短剣を極めた戦士に、「次はメイスだ」と笑顔で渡すシステム公認の拷問である。
……違うか? まあ似たようなもんか。
確証はない。
それはこれから自身で証明する事になる。
俺はステータス欄に目を向けた。
ENGは100を切り、現在もゆっくりと減っていってる。
羽虫の「ストック」と「吸収」を休みなく繰り返しているが、
それでもENGの回復が追い付かない。
ここはもう3箇所目だ。
羽虫の集まりが悪くなったら移動する、を繰り返してきた。
「周辺探査」の連続使用による、熟練度上げ。
初めは意識を集中させないと使えなかったが、それがだんだん出来るようになって来た。
先程までの思考の裏で、今では無意識に使えるようになっている。
暗闇の片隅、俺は「周辺探査」を連続で発する変態スライムと化していた。
どれ位時間が経っただろうか。
不安と焦りが俺の仮説を押しつぶそうとする直前、
それは唐突に、しかし予定調和のように訪れた。
突然「周辺探査」の探査範囲が大きく拡大し、今まで荒いローポリゴンだった世界が一気にハイポリゴンへ変化した。
岩の表面の細かい凹凸が、はっきりと浮かび上がる。
天井の鍾乳石の先端が、一つ一つ識別できるようになる。
アバウトだった周囲の風景が、詳細に変わっていく。
視界の左端にシステムメッセージが表示された。
周辺探査 レベルアップ Lv1 → Lv2
…………。
見逃してしまいそう簡素な文字。
それを見たときの感情は歓喜? あるいは達成感?
違う、「安堵」だ。
予想は合っていた。
俺の考察は間違っていなかった。
熟練度制だ。
だが、ここで終わりじゃない。
俺は心の中で涙をぐいと拭った。
「周辺探査Lv1」はどうしてもカスタム出来なかった。
レベルの上がった今ならどうだ?
俺は「周辺探査Lv2」に集中する。
カスタムの余地は……ある!
しかし1箇所のみ、しかも等価交換か!
そう来たか!
……よし、考えろ!
今は、半径は倍くらい、4mか。
半径が2倍になっただけだが水平面積なら4倍、体積なら8倍への進化だ。
しかし4m……、4mか。
大きな変化だが、まったく足らない!
松明を、巨人を、養殖池を。
その先の世界を知るのに、それでは足らない!
さあ、どうする?
どうカスタムする?
何を差し出す?
何を「削る」?
第5話 完




