第4話
第4話
「ディジーズLv2」:ディジーズLv2を付与
説明してくれ!
あんまりな説明文に俺は天を仰いだ。
検証したいが、効果を確かめる方法を思いつかない。
付与した相手の状態を、見る手段が無い。
付与するだけなら、小石でも出来る?
えい。
やってみた。
…………。
時間の無駄だった。
切り替えよう、とにかく予備を含めたENG確保が最優先だ。
考えている間にもどんどんストックしていく。そして吸収もしていく。
「フィルター」も何度か作動した。
確率なのか、個体差なのか、判別は出来なかった。
インベントリが2枠埋まった所で、「ストック」が作動しなくなった。
合計60匹。
これが上限か。
しかし、すごい数だな。
思えば、急に湧いてきた。
何か原因が、例えば大規模な発生源が近くにあるとか。
それにしても集まり過ぎだ。
スライムは羽虫を集める特性とか、「スキル」でも持ってるのか?
ステータス欄には、
種族:ケイブスライム
ケイブスライム:洞窟などに住んでるわ。暗い場所を好むスライムよ。何だかエッチね♪
集中すると、こう出た。
突っ込む気にもなれなかった。
その横のスキル欄を通り過ぎようとして、見慣れない表示に気が付いた。
「昆虫類誘引Lv1」
スキルが増えていた。
——はあ!?
どういう事だ。
こんなスキル、無かったぞ。
何が原因で、今増えたんだ?
……いや、違うな。
今増えたんじゃない。
これがあったから、羽虫が集まったんだ。
これが羽虫を、引き寄せた。
なぜ今まで表示されなかった?
……自分で気が付くまで、表示されない?
俺はぞくりとした。
何だこのシステム。
説明文と言い、異質すぎる。
しばらく動けなかったが、それでは何も解決しない。
検証は後だ。
「有用そうなスキルが増えた」
今はそれで良い。
先に進もうと思って、ふと思い立った。
生物特性じゃなくて、「スキル」。
なら、効果を「切れる」のか?
「昆虫類誘引」オフ。
そう念じると急に羽虫は寄り付かなくなった。
本当に何なんだ。
これ、スキルと気が付かなかったら、
延々虫に集られるハメになるんじゃ?
人間だったら卒倒ものだぞ。
まあ人間に、こんなスキル無いだろうけどな!
「昆虫類誘引」オンだ!オン!
……あれ?
しばらく進むと、
1mくらいの小さな山から下った先が、明らかに異質だった。
ローポリゴンでもわかる、不自然に平らで整えられた地面。
音を立てない様、慎重に進んだ。
自然の岩のざらつきがなくなり、滑らかな感触が体の底面に伝わる。
その先に、急に落ち込んでいる場所があった。
端が、明らかに加工を受けた石。
明らかに人工物だ。
近づく。
1mほど下に、流れのない波打った水がある。
……池?
これが羽虫の発生源だろうか?
縁に沿って移動。
遠くでかすかに、パチパチという音が聞こえる。
目前に水面に向かって、緩やかな下りが見えた。
遠浅のスロープがある。
下っていって水面の傍で停止。
左側にジャバジャバと水音がする。
石の隙間から水が結構な勢いで流れ込んでいる。
水中は……おお、分かる。
ノイズはあるが、「周辺探査」は水透過可能だ。
ある予感がある……いた!
緩急をつけて移動する、小さなブロック。
これ、魚だろう!
羽虫より遥かに食料に相応しい!
流石に羽虫はないよ、羽虫は!
水中にはどうだ?
いける気がするけど、確証が持てない。
不測の事態があっても、助けは期待出来ないんだ。
ここは慎重に——
ぬうっ
「周辺探査」が映し出す範囲の右側に、いきなり見上げるほどの巨大な何かが入ってきた。
2足歩行の、巨人。
足が地面についたとき、振動で体が揺れた。
真横で停止。
超至近距離。
30cmも離れていない。
時が、止まった。
大きすぎて荒いポリゴンでも姿が分かる。
猫背で手足が長い。
人間じゃ……ない。
左手に細い棒を持っている。
頭ぐらいの高さに、掲げている。
パチパチとどこかで聞いたような音が聞こえた。
音が出ている場所から、何か嫌な感じのものが周りに広がっているのが分かる、感じる。
そしてもう一体、巨人が現れた。
まだ来るのか。
最初の巨人の右側。
2体の巨人が並んでいる。
そのすぐ横に、俺。
2体目の頭の上の方は、視界外で暗闇の中だ。
そいつは胸の辺りに抱えた容器に手を突っ込んで、
中に入った何かを、勢いよく遠くの水面にばら撒いた。
ばしゃばしゃばしゃ。
多くの魚が跳ねる音。
2体目の巨人は複数の方向に同じ動作をした後、
細い棒を掲げた1体目の巨人の方を見た。
ぞわっ
2体目の巨人の、
探査外の暗闇にある頭部と、
目が合った気が、した。
細い棒を掲げた一体目の巨人が視界の外に消えていき、
容器を抱えた2体目の巨人がそれに続いた。
数回続いた振動が小さくなり、消えた。
………………………………つはぁぁぁっ!
存在しない肺が懸命に酸素を取り込み、
存在しない心臓が、ばくばくと鼓動を再開した。
油断した。
気付かなかった。
魚に気を取られすぎた。
水音で音がかき消されていた。
いやそもそも、
人工物があるような所に、のこのこ出てきてしまった。
でも仕方無いだろう!
一生虫を食っている訳には、いかないんだよ!!
目が合った気がしたが錯覚だ。そうだろう?
怖かった、ほんとうに怖かった。
もう居ないだろうな?耳を澄ます。
くそっ!水音が大きい、この場を離れよう。
体を滑らせて、記憶を頼りに最初の小山に戻ってきた。
この先は未舗装、石ゴロゴロだ。
さっきの巨人は近寄らないだろうし、歩けば石も崩れる。
来ればすぐ分かるはずだ。
しかし何だあれは、
見上げるほどの巨人!?
暗闇で助かった。
あの至近距離でも気付かれなかった。
こっちは暗闇でも2mとはいえ、視界確保でアドバンテージがあるはずだ。
これを生かして……。
…………。
あいつら、何をしてたんだ?
魚に、餌やり?
魚を飼ってる、いや養殖か。
養殖用の池か、あれ。
2人いた。
一人は餌やりだな。
もう一人は何をしていた?
細い棒を掲げていた。
何の為に?
音がした。
パチパチと。
……まて。
ある絶望的な仮説が脳裏に広がった。
……まってくれ。
そんなはずは無いだろう。
俺はこの洞窟から外に出て、日の光に目を細め、
ここは何処だろうと、周りを見渡すんだ。
遠くに町を見つけ、そこに向かうのも良いだろう。
日本ではあり得ない景色に、胸を躍らせるかもしれない。
巨人の事など頭から消え失せ、
俺は先程の池の畔に、転げ落ちるように向かった。
あの音だ。
かすかに聞こえる。
震えながら、それでも近づく。
正面に壁が現れた。
周辺探査の範囲が少しずつ上へ伸びて、
壁の高い位置に細い棒が斜めに突き出ているのが見えた。
近づくとはっきり聞こえるようになる。
パチパチパチ
……そうか。
絶望感の中になぜか、納得できるという奇妙な感覚があった。
これは……松明だ。
もう一人の巨人は左手に松明を持っていた。
周囲を照らして、餌やりの視界を確保していたんだ。
同じものが、目の前にある。
だが、あるはずの「光」が無い。
俺には、松明が出す「光」が見えない。
「光」によって見えるはずの、
周りの景色が、見えない。
ローポリゴンの白黒の世界は、
「光」を映し出していない。
そうだ。
このスライムの体は他の部位と同様、
「目」を、持っていなかった。
第4話 完




