第3話
第3話
俺が移動先として選んだのは、「流れる水の、下流方向」だった。
ここは洞窟内だが、下流に行けば外に出られるかもしれない。
暗闇を抜け出せば、「周辺探査」スキルに頼らなくても周囲を見渡せる。
ENGを回復させる「何か」も、見つけやすくなる筈だ。
「何か」も凡そ想像が付く。
「食料になるもの。」
これだろう。
そういった物が無いか、見渡しながら移動する。
少し違和感があった。
何かを探しながら移動すれば、周囲への注意が疎かになるものだ。
しかし不思議と、両立出来る。
出来てしまう。
まあ、良いか。
出来て困る事は、無い。
だが視界は白黒のローポリゴン。
地形などは普通にわかるが、小さい物を判別しようとすると、不便だ。
小石はただの四角形。
キノコとかがあっても、同じ大きさなら、同じように見えるだろう。
「ストック」すれば判別できるが、ENG1のコストが掛かる。
だが体で直接触れれば、触覚はある。
くそ、また小石か。
「食料」、か。
洞窟から出たら、近くにコンビニがありました。
そんな、胸を撫でおろす状況になれば、最高だ。
……いや。
所持金なんて、無い。
スライムの体。
喋れない。
明るい未来が見えないぞ、こら!
やはり、自分で探すしかないか。
スライムはゲームや物語では、割と何でも食べれるイメージがある。
うわぁ。
嫌な予感しかしない。
最もショックな事は、それを想像しても嫌悪感が湧いてこない事だ。
体はスライムでも、
俺の心は、人間だよな?
な?
そうだ、お前は間違いなく、人間だ。
誰も答えてくれないので、自分で返事をしておいた。
ちょっと虚しい。
「食料」を探しながら「移動」しつつ、俺はスキル欄もチェックした。
「フィルター」
これを確認していなかった。
カーソルを合わせる感じで集中する。
「フィルター」:フィルター
思わず立ち止まった。
おい、説明になってないぞ!
「自分で検証して見つけろ」
そんな職人気質のガンコ親父かよ。
ステータスとスキル、絶対に担当が別人だ。
ふう、まあ良い。
とにかく洞窟からの脱出と、ENGの回復手段の確保が最優先だ。
俺は再び進み始めた。
実際問題、移動に関してはこのスライムの体は便利だった。
高さ30cmにも満たない、饅頭型のスライム。
地面を滑るように移動するため、岩に足を取られて転ぶなんて心配もない。
垂直に登る事は出来ないが、多少の坂なら意図しない滑りも無く、
かといってくっ付いて離れないという事も無い。
まるで物理法則に喧嘩を売るような、走破性能を持っているのだ。
そして体が傾いても、ジャイロスコープでも入ってるかの如く、意識は水平を保っている。
地味に性能が高い。
途中崖の様な所があった。
流石に垂直に近い所を、そのまま降りる事は出来ない。
少し周り道したが、川からあまり離れないようにしてクリアした。
しばらく移動していると、水音が少しずつ穏やかになってきた。
途中で支流へ分かれたのか、それとも川幅が広がったのか。
理由は分からないが、変化はあった。
思わず期待が膨らんだ。
だが「食料」が見つからない。
出口も、無い。
外へと続く光が、見えない。
何度も「周辺探査」を使い直した。
その度に確実にタイマーが減っていく。
動いていると、止まっている時より明らかにENGの減りが早い。
スキル使用と時間に加えて、ただ動くだけでもENGは削られる。
焦りが、俺の心を蝕んでいく。
何の成果も出せないままENGが250を切った時、
俺は気が狂いそうになった。
俺が何をしたって言うんだよ!!!
声にならない叫びを上げた。
その時だった。
何か小さなものが、俺の体へふわりと止まった感覚がした。
!?
考えるより早く、本能が動いた。
「ストック」!
手応えもなくそれは、インベントリに入った。
「羽虫」×1
インベントリに現れたアイコンを見て、心臓が跳ね上がった。
羽虫……。
これは「食糧」か?
「吸収」出来るのか?
ENGが、回復、するのか?
「吸収」
次の瞬間ほんの僅かだが、体の奥へ何かが溶け込んでいくような感覚。
視界の左上に、システムメッセージらしきものが出ているのに気が付いた。
そこには、こう表示されていた。
ENG +3
ENGが、
希望の残量が、
回復、した。
感傷に浸る間もなく、また体に羽虫がとまる感覚。
「ストック」!
さらにもう一匹。
「ストック」!
また来た!
「ストック」! 「ストック」!
うひひひ!
夢中だった。
泣き笑いながら、「ストック」を繰り返した。
恐怖も、不安も、この瞬間だけは全部吹き飛んでいた。
羽虫が体に止まるたびに「ストック」し、インベントリへ放り込んだ。
それが30を超えた時、
パチン。
頭の奥で、小さく何かが切り替わる音がした。
何だ?
インベントリの1枠が30になり、自動的に2つ目へ切り替わった。
なるほど。
羽虫は1枠30匹までか。
流石に興奮も落ち着いてきた。
冷静さを取り戻したところで、ふと疑問が浮かんだ。
そもそもストックしないで、そのまま吸収したらどうなるんだ?
試しに体にとまった羽虫を直接「吸収」してみた。
うん?
何か、動作が遅い。
ゆっくりと取り込む感じか。
結果、なんとENGは増えなかった。
……何となくだが、ごく僅かに増えた感覚はある。
整数にすらならない、小数点以下の増量。
恐らく直接吸収はかなり効率が悪いのだ。
いや、検証は今度で良い。
まずはENGの回復が先だ。
インベントリからどんどん「羽虫」を「吸収」していく。
どうやら複数をまとめて「吸収」する事は、出来ないようだ。
ENGは3ずつ増えていく。
これが回復速度になるのか。
時間は掛かるが、贅沢を言える状況じゃない。
そんなことを考えながら、10匹程吸収したその時だった。
システムメッセージに、ENG回復以外の文字が浮かんだ。
フィルター:「ディジーズLv2」 ×1
……は?
思考が止まる。
「吸収」中止!
慌てて自分のステータスを確認する。
状態異常、無し。
俺自身に異常は、無い。
胸を撫で下ろした。
胸は無いが。
「部位が無い」の突っ込みは久しぶりだな。
いやそうじゃない。
「フィルター」が初めて作動した。
そしてインベントリには、
「ディジーズLv2」
という見慣れないドクロマークのアイコンが、追加されている。
ディジーズ。
Disease。
病気。
疾患。
病原体。
……そんな意味だったはずだ。
病気を「ストック」?
しかし俺自身に、状態異常は付いていない。
つまり、「フィルター」が羽虫から、病原体だけを分離した?
???
存在しない脳を、フル回転させる。
ゲーム……的に考えるなら。
これは、デバフか?
相手へ病気を与える状態異常。
その元になる"病原体"だけを、
「フィルター」で抽出、したのか!?
第3話 完




