第45話
第45話
——これは、夢だろうか。
水の底に、沈んでいる。
太陽の光が、水面から降り注いでいる。
青い。
色が、ある。
青なんて、久しぶりに見た気が、する。
水の青さと、光に包まれながら、
俺は——
振動で意識が戻って来た。
誰かに、抱きかかえられている?
クリスか。
いや。
違う。
クリスの腕は、こんなに逞しくない!
俺はその場から飛び退った。
即座に周辺探査を展開。
複数の人影、テント、馬車、馬。
まばらな木々。
ここは、どこだ?
「意識が戻ったか。」
落ち着いた男の声がした。
俺を抱えていた奴だ。
背の高さは180センチ位か。
がっしりとした体形に、革鎧を着ている。
身体的特徴は、特にない。
亜人ではなく、人族なのだろうか?
「おい、イチロウがやっと目覚めた。 クリステリアを呼んできてくれ。」
別の人間にそう言った。
相手は返事をして去っていった。
俺の名を知っている。
クリスのクランの人間か。
念話で話しかけようとして、発声モードがあるのを思い出した。
「クリスのクラン仲間か?」
俺は話しかけた。
おお、こちらも落ち着きの感じられる、なかなかのイケボイスだ。
「本当に話せるんだな……、俺の名はオルガノ。 クラン「宵闇の帳」の副リーダーの1人だ。 クリステリアも所属している。」
「……初めまして、だな。 俺はイチロウという。 見ての通りの、スライムだ。」
「…………。」
「?」
なんだか相手は唖然としている。
「いや、すまん。 話は聞いていたんだが、本当に人間と喋ってる感覚で……、あいや、人間なんだよな?」
「俺の記憶では、そうだ。 この体になって色々あったから、少し自信を無くしかけてはいるが。」
「そうか、大変だな。 まあカーマイン王国に来るのは正解だと思うぞ。」
「このくそったれな国じゃ何をされるか分ったもんじゃない。」
「そう言えば、ここは、何処なんだ? 要塞はどうなった?」
「ああ、それは……。」
オルガノと名乗った男がそう言いかけた時。
「イチロウ!」
クリスが駆け寄って来た。
(っと、こっちだったわね。 イチロウ、大丈夫?どこか痛くない?熱とか、無い?)
素早く俺を抱き上げて、矢継ぎ早に念話で質問してくるクリスに、俺は苦笑交じりで答えた。
「あークリス。 セバスが発声機能を復帰させてくれた。 普通に話せるぞ。」
クリスが目を丸くして俺を見た。
「話せるように、なったんだ……。ふふ、いい声ね。」
「セバスの機能だけどな。」
「ううん、魔道具の発声機能って本人の声を再現してるの。」
「だからこれは、貴方の声よ。」
そうなのか。
これは俺の、本来の声なのか。
「……クリステリア、説明は任せて良いか?」
何となく、凄く驚いた感じのオルガノがクリスに問いかけた。
「分かったわ。」
「それじゃ。 イチロウ、また後で話そう。」
「ああ、ありがとうオルガノ。」
オルガノは俺とクリスに手を挙げると、テントの方に向かって去っていった。
クリスは俺を前に抱えたまま、馬を繋いでいない、馬車の御者席に座った。
かなり立派な馬車だ。
「クリス、ここは何処か、聞いても良いか?」
「うん。順番に説明するね。」
あの要塞の外に落ちてから、何と3日が経っていた。
3日も意識が無かったのか!
クリスの仲間は城壁から落ちたクリスを見つけて駆け寄った。
そこで俺に包まれたクリスを発見。
初めは「クリステリアがスライムに食われた!」と大慌てしたらしいが、どうやっても彼女を取り出せなかった。
クリスがダメージを受けてる様子は無いし、手荒な方法を取る訳にもいかず、キャンプに運び込んだ。
その日のうちに彼女が目を覚ますと、すぐに俺は通常のスライムの姿に戻ったらしい。
クリスの話を聞きつつ、要塞を後にし、ホームであるカーマイン王国に向かっている途中だという。
順調に行けば、あと三日程で国境に出る。
人族至上主義の国であるためメンバーに亜人の多い一団は主街道を通らず、廃村を通る裏街道で向かっているとの事だった。
クリスに抱えられて話を聞いていたが、俺は自分の体の違和感に気が付いた。
「なあクリス。」
「何?」
「俺の体、変じゃない?」
クリスは黙り込んだ。
黙らないでよ! 怖いよ!
「えっとね、まず大きさが小っちゃくなった。」
そうだよね!
大きさが30センチくらいに戻ってる!
え、なんで?
「後ね、色が変わったわ」
色?
そう言えば自分の色なんて、考えた事が無かった。
「どう、変わったんだ?」
「前はね、灰色だった。 今はね、えっと……表面は水色っていうのかな。 でも奥に行くほど青くて。」
クリスの手が俺を撫でる。
「吸い込まれそうな、綺麗な、青」
青。
意識を取り戻す前に何か感じたような……。
思い出せない。
ステータス欄に目をやる。
種族名が、
ザ・ブルースライム
に変わってた。
ブルースライム!
いや、ザ!って!
すごい偉そうだ。
ENGやBPが軒並み上がっている。
でもまあ、それは後でいいか。
「クリス。」
「うん。」
「……覚えているか? 君は俺に、愛してると言った。」
「覚えてるよ。 もちろん。 返事は貰ってないけど。」
クリスは前にしたように、顔を横にして俺の体に頬を付けた。
「俺はスライムだぞ。」
「知ってるよ? 誰よりも知ってる。」
「クリス。」
「うん。」
「俺も愛している。 お前は俺のクリステリアだ。」
「……うん。」
そう言ってクリスは俺を胸に抱きしめた。
クリスを「魔力鞭」で包み込む。
しばらくそうしていたが、クリスに抱えられて、俺は急に眠気に襲われてきた。
クリスは俺を見ながら、これからの事を話している。
町やクランの事、おすすめの食べ物。
俺はステータス欄を見た。
ステータスポイント 5
オリジナルスキル 1 取得可
「無印」を倒してレベルが上がっていたのか?
まあ、理由はどうでもいい。
もう良いだろう。
このスキルをとっても。
人間になるのは不可と出た。
だがこれなら取れる。
生き残るためじゃない。
状況を打破するためでもない。
ただ、純粋に俺の願いを叶えるために。
俺は心の中でオリジナルスキルの決定ボタンを、押した。
その瞬間。
暗闇が晴れ、世界に光が満ち、ポリゴンで白黒に映し出されたクリスの顔に綿密なテクスチャが張られた。
色が付けられ、人間の目で見たような映像が映し出された。
そう。
——彼女の顔を見るために。
オリジナルスキル
光認識(人間)
銀の髪が風になびいている。
切れ目の青い瞳が、俺だけを見つめている。
——ああ、君の顔が見える。
想像していた通り、美しい。
暗闇の中でこの顔を、ずっと見たいと願ってきた。
やっと、やっと、君の顔が見れた。
眠気が、強くなってきた。
あんなに寝ないでも平気だったのに、不思議だ。
話していたクリスが首を傾げた。
「聞いてる? イチロウ。 それとも少し、寝る?」
優しく俺に微笑みかける。
「……そうだな、少し眠らせてもらう。」
「そ、安心して。 今度は私が抱っこしてあげるから。」
ひどく眠い。
「ああ。……頼む。」
彼女の手が、俺の体を優しく包み込む。
この世界で目覚めて初めて感じた、
心からの安らぎに身を任せ、
俺はゆっくりと意識を手放した。
第45話 完
第1部 完 命題: 暗闇の、中で。
あとがき
初の小説であり、初の投稿作品です。
友人に触発されて書いてみようと思い、構想状態だったこの話にようやっと一区切りつけることが出来ました。
書いてるうちにどんどん方向が変わり、設定が追加され、構想の面影しか残っていませんが(笑)
AIの存在も大きかったですね。
ストーリー自体には関与していませんが、言い回しだったり整合性だったりは参考になりました。
あとは「評価・感想をもらう」にかなりハマりました。
基本接待的な評価をしてくれるので、気分があがります。
モチベーションを保つのに、無くてはならない存在になりました。
この後エピローグ、閑話1つを掲載して一応の完結となります。
ですが「1部」と書いた通り、2部を作成予定です。
現時点で15話まで完成しています。
ただし全て書き終えてからの投稿(1部もそうでした)となりますので、開始までにかなり時間がかかるかもしれません。
ブックマークの片隅にでも置いていてもらい、忘れた頃にみると掲載が開始されているかもしれません。
感想なんかも頂けると、励みになるんですよ? (チラッ、チラッ)
最後にこんな拙い文章を最後まで見て頂き、ありがとう。
心から感謝を。
そしてこれを見ている貴方が、良い物語に出会えることを祈っています。
2026年10月18日 作者




