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第40話

第40話




キンッ! キンッ!


——ギャリン!


高速で交わされる銀閃が、クリスと「三角」の間の空間に火花を散らした。

「三角」が下がって消える。


クリスは前かがみの低い姿勢になり、右手の短剣を前に突き出した。

そのままスッと右にずれる。


現れた「三角」の短剣を左手の短剣で受け流し、突き出していた右の短剣で奴の腕に浅く傷をつけた。

そして「雷走」を発動。


ジグザグの動きなのに、何故か滑らかだ。

「三角」がクリスを見失う。


クリスは奴の後頭部を、短剣の柄でゴン!と殴った。

前に吹っ飛ぶ「三角」を見ながら、クリスは携帯食を頬張り、水筒の水を飲んだ。



もう彼女は、ほとんど体力を消耗することが無くなってきた。

随分前から「三角」の刃が触れることも無い。


今もわざと腕を切り落とさなかった。

踏み込めば何時でも致命傷を与えられるが、浅く傷をつけるに留めている。


再び短剣を両手に構える彼女の前で、体に薄い傷を何か所も負った「レッドキャップ」が立ち上がった。


汗だくだ。

初めに浮かべていた笑みなどとっくに消え、奴の表情にあるのは「恐怖」だった。



いや、分かるよ「三角」。

もう「縮地」もスピードも、まったく通用しないもんね?


そもそも何度も「縮地」を潰されたし、切っても切ってもケロッとしてるしで怖くもなるよね。


俺もクリスが怖いよ。

絶対怒らせないようにしよう。


サポートする頻度もかなり少なくなってきた。


れだけ続けるつもりだろう?と思っていたら、

「三角」が後ろに飛び退った。



そして。


「アギアギギギギギッ!」


と、叫んだ。


まて。

それは何だ。

何をした。


水路方向を重点的に探査していた「スポット」が、水路から飛び出した新たな「帽子」を感知した。


嘘だろう!

別の「レッドキャップ」を呼んだのか!?



(クリス! 3時、水路に新たな「帽子」! 2体目だ!)


撤退準備はすでに完了してる。 いつでも——。



(イチロウ。)


落ち着き払った彼女の念話が俺の体に届いた。


おい、まさか。


(イチロウ。)


再び俺の名前を呼んだ。


…………あああ! もう!

何でこんな無茶ばっかりしますかねぇ! この娘は!

分かったよ、分かりましたよ!



(即死もありうるんだ。 危険と感じたら俺も全力で手を出すぞ。)



腕や足ならすぐに治療してやれる。

だが「無印」がそうしたように、心臓を突かれたり、首を落とされれば即死だ。

無論、そうならない様に準備はしているが。



(……仕方ないなぁ。)


(来るぞ! 新手の飾りは星だ! 識別は「星」! 油断して、足元掬われるなよ!)


(コピー!)


クリスは凄まじい速度でこちらに迫る、「星」の方に向きを変えた。

当然「三角」は背後を取るべく動きを開始した。


「星」はクリスの手前で停止した。

「三角」がクリスの後ろの位置に着くのを待ってる。


なるほど、「連携」か。


クリスの母親が命を落とした、「レッドキャップ」同士の連携。

クリスは……少なくとも魔力鎧を通じて感じる彼女は、落ち着いている。


緊張や怒りで体が硬くなっている様子は、無い。

「三角」に背を向けた状態だが、その動きをがっちり捉えているのが、分かる。


俺の準備も完了している。

いつでも——



両方の近衛級ゴブリン「レッドキャップ」が、


消えた。


クリスは左にずれた後、「双牙・烈風」を発動。


3連続の踏み込みはまるで弧を描くように滑らかな曲線となり、彼女の短剣は姿をを現した「星」の背後から左肩を突き刺した。



「ギャウアギギ!!」



叫びながら前に吹き飛ぶ「星」。



クリスは腕を交差。

踏み込みながら上下に振りぬいた。


「双牙・空烈」が作り出した不可視の斬撃は、少し距離のある位置に出現した「三角」へ。


丁度クリスめがけて踏み込みつつあった「三角」は短剣でそれを防御したが、衝撃で体が宙に浮いた。

それを確認する前に前かがみになっていたクリスは、俺が初めて見る技を「三角」に繰り出した。



(双牙・穿雷)



呟くように言われたその技はクリスを瞬間的に前に踏み込ませ、宙に浮いたレッドキャップの心臓に彼女の短剣を、届かせた。


レベルアップの表示がちらりと見えたが、確認は後だ。



ギィン!!



そのクリスの脇腹に「星」の短剣が付きこまれたが、俺が一部だけ出した「ヒーターシールド」に阻まれた。


俺のBPが200程減る。

誤差だ。



石を射出。

超反応で「星は」石を躱したが、2発目が当たった。


すまんな、「座標固定」はもう君に付けてあるんだ。

さらに「ショートソード」が左から飛来。


「星」飛び退って後退した。

その後頭部に石。


命中。


驚愕の顔の「星」が振り向きかけたその後頭部に、さらに「ヒーターシールド」のシールドアタックが命中した。


右に倒れこむように、たたらを踏む「星」。


流石に近距離で魔力鞭の先端に「ストック」で出した後なので、余り威力は出ないか。



クリスが「三角」の心臓から短剣を引き抜き、態勢を整えた。



(ありがとう、イチロウ。 ちょっと急ぎ過ぎちゃったかも。)


(最初の連携を完全に躱せた。 上出来だ。 フォロー位しないと俺の立場が無い。)


(ううん、貴方が居たからここまで来れた。)


(サポーター冥利に尽きるね、だがまだ終わっていない。)


(うん。)


話しながらも、クリスは一時も「星」から目を離さなかった。


肩を後ろから突かれた「星」の出血は止まっていた。

浅くは無かったが、何らかの手段があるのだろう。



クリスが「星」に向かおうとしたその時、北の城門で爆発が起きた。


先に気が付いたのはクリスだ。

俺は後から来る音と僅かな振動で、初めて気が付いた。


「スポット」を向ける。


何かが燃えているんだろう。


松明から感じた、陽光とは違った光の感覚。


巨大な城門から人間がワラワラと広場に侵入して来ているのが見えた。



その一部から火の玉?が少し離れた位置に打ち込まれ、着弾と共に爆発らしきものを起こしてゴブリンが吹き飛ぶのが見えた。


その光景を見た「星」は俺達の方をちらりと見ると、そのまま城門の方に走り去った。



(始まったわ。)



そうか、討伐隊がついに広場になだれ込んだのか。



(イチロウ、私たちは討伐隊には合流しない方が良い。 戻って料理システムを破壊してから、脱出しましょう。)


(西側の城壁外に、クランメンバーが来る手はずになってるの。)


(了解だ。 中のゴブリンは倒して問題ないな?)


(うん、多分西側にも「レッドキャップ」が出てる。 ちょうど良いタイミングよ。)


(よし、体力は問題ないな? 行動開始だ!)


(コピー!)



クリスは要塞入口に向かって走り出した。



(あっ! ちょっと待て!)


(わ! とと、何!?)



クリスは躓きそうになった。



(「三角」の魔石! 取らなくてよいのか?)


(イチロウ、取ってないの?)


(奴の魔石は自分で取れ。 君の戦果だ。)


(…………うん。)



彼女は戻って「三角」から魔石を取り出した。

大きい。


小柄な体に不釣り合いなほどの大きさだ。

クリスが差し出したそれを、俺は「ストック」でインベントリに仕舞った。



(イチロウ。)


(うん?)


(……ありがとう。)



どういたしまして。


母親の直接の仇では無いだろう。


だが君は、一つの壁を確かに乗り越えた。





第40話 完




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