第38話
第38話
(すぅ……ふっ。)
クリスがロード級ゴブリンの剣を左に受け流し、右に回り込んだ。
そのまま攻撃出来たが、相手の態勢が整うのを待つ。
慢心している訳では無い。
その証拠に、動きが少ないのに彼女は汗だくだ。
クリスがまた剣を受け流した。
2mの巨体のロード級ゴブリンが放つ剣筋は、お世辞にも精錬されたものとは言えないが、パワーは本物だ。
そしてただ受け流すのではない。
受け流した後、流れるように「双牙・風来」を発動。
衝撃波でロード級ゴブリンがたたらを踏む。
刃は向けていない。
だから脇腹が傷つくことなく、戦闘を継続している。
俺は下級ゴブリンが邪魔にならない様、少し離れた位置で近づいてくる奴を優先的に屠っていた。
つまり今、クリスは魔力鎧を纏っていない。
だが彼女が攻撃を食らっても、BPは俺から先に減るようにしてある。
怪我した際の「グレーターヒールLv6」も準備済みだ。
俺とクリスは見えない細い糸の様なもので繋がっている。
想定外の状況が出来ても、彼女を引き寄せて即魔力鎧モードに移行できる。
俺がレベル15で得た「オリジナルスキル」
スキル:魔力鞭
自身の体から魔力で練り上げた複数の「鞭」を生成して操作する。
本当は「魔力による念動力」にしたかったが、種族特性により却下された。
「鞭」は複数の能力を有する。
最大20mまで細く伸ばし、「魔力粘着」を発動可能。
クリスを包み込みんで彼女に与えられたBPダメージを肩代わりし、魔力鎧モードならある程度の物理防御力を有する。
5m以内なら不可視の物理的性質を持たせることが可能。
先端を手のひらに変え、人間の手の様に繊細な作業をする事も出来る。
なので。
ドガッ!
俺に操られた「ヒーターシールド」がゴブリンを吹っ飛ばし、「ロングソード」が別のゴブリンの首を跳ね飛ばす。
俺自身が「装備」を持つことが、可能になった。
苦労したのはこの点でそのまま俺が装備を操ると、魔力鎧モードのクリスの動きを阻害してしまう。
俺単体でも反作用で体がいろんな方向に吹き飛ぶ可能性がある。
故に「装備品」を持って動かしたときに出る反作用を抑える機能を重点的に盛り込んだ。
詳細は、正直分からない。
魔法とか魔力なんだろう、多分。
クリスにも言ったように、「何故」はこの際どうでも良い。
「出来る事」と「コスト」の折り合いを、どうつけるかだ。
そして莫大なENG上限と引き換えて実現した。
ENG上限 12,000を削る、
俺のスキルが完成した。
………………。
触手では、ない。
断じて違う。
それにしか見えなくても、違うんだよぉぉぉぉ!
まあ俺にしか見えないけどな!
そしてもう一つ。
「射出」のカスタムだ。
現在カスタムは2つ残ってる。
クリスが説明してくれた「帽子」のスキル、「縮地」の仕様を聞いて思いついた事がある。
「縮地」は俺の「ワープ」とは違い障害物を回避できない。
スキル自身が前に障害物が無い事を確認して、発動するタイプだ。
故に「発動してから、目の前に大きな障害物を置いて」やれば、それだけでダメージを与えられる。
ただ現れるまでどの方向に移動したか分からない。
故に「射出」のカスタムをこう行った。
射程 :20m → 15m へ減少
機能 :「座標固定 オン/オフ」を獲得
「射出」は最大速度で投げれる重さに制限はあるが、それより重くても速度が出ないだけで「射出」は可能だ。
なので「帽子」の正面30cmに射出口を固定する。
ちなみに、何故か30cm以内には固定できなかった。
奴が消えても「ストック」の有効範囲5m以内なら、どの方向に進んでもその正面に障害物を「射出」出来る。
相手の移動速度に関係なく、射出の照準を合わせられるのが最大の特徴だ。
「ストック」のレベルが上がれば、さらに有効範囲が広がる事は間違いない。
不思議なのはこれだけ多彩な処理を行っているにも関わらず、俺の負担がほとんど無い事だ。
クリスの魔力鎧に加えてこれらの追加機能を、何の問題も無く同時に処理出来る。
……種族レベルが上がったから。
そうだと信じたい。
クリスが此方に歩いてきた。
ロード級ゴブリンは膝と両手をついて息を荒くしている。
相手に背を向けているが、彼女の警戒網が後方をがっちり捉えているのが見て取れる。
(? 倒さないのか?)
クリスは汗だくのまま笑顔で言った。
(うん。 また明日相手してもらおうと思って。)
俺はロード級ゴブリンを見た。
奴がクリスを見つめるその眼には、「怯え」があるように俺には見えた。
ちょっと同情心が湧いたよ。
予定していた、東側の「持続注入装置」設置はすべて完了した。
残るは「人族班」が担当していた、西側だ。
幸い、設置状況を確認できる地図を回収していた。
そして北の城門の上から、先発隊の到着が確認できた。
クリスは作戦の打ち合わせに従い、現在状況をまとめたレポートを門の外側3m位の場所に、
発信機付きの杭でとめた。
直接の接触はしない予定だ。
人族班が全滅し、亜人のクリスが生き残っていれば、何を言われるか分からない。
あれから「帽子」は見ていない。
最大限警戒しつつ、西側の「持続注入装置」設置を進めていく予定だ。
だがもし、「無印」以外の帽子に出会ったら、クリスは戦いを挑む選択をする。
そういう予感があった。
ここ3日でクリスの動きは激変した。
今の彼女を見れば、以前は力業でスキルを使っていたのが良く分かる。
流れを重視した動きと言えば良いか。
言葉にするのは難しいが、正六面体を動かすのは大変だが、球体にすれば自由自在に転がせる。
そんな印象を受けるのだ。
クリス。
勝負出来る手札は揃いつつある。
もし君が望むなら、俺は俺で全力を尽くそう。
それが俺自身の願いだ。
(イチロウ、お風呂はいりたーい!)
はいはい。
もうサービスモード、解禁しても良いんじゃない?
自分へのご褒美を想像しながら、でもやっぱり出来ないんだろうなと苦笑して。
俺は彼女の魔力鎧となるべく、近づいて行った。
第38話 完




