第35話
第35話
「帽子」の一体、「十字」に出会ってから、俺とクリスはなるべく城壁の近くでゴブリン殲滅を行うようになった。
幸い中心部に近い位置の「持続注入装置」の設置は多くが完了していたので、焦る必要は無い。
BP回復・上限突破計画は、料理の消費量爆増という課題を俺に与えたが、解決策の一環に「フィルター」が役に立ってくれた。
俺は2つある「フィルター」の等価交換の1つを、こう設定した。
「フィルター作動範囲」を差し出し、「倒したモンスターから魔石をフィルターで自動回収 オン/オフ」を獲得。
本当は「近くのモンスターから魔石を回収」としたかったが、倒す前のゴブリンから「フィルター」で魔石を取り出すのは不可能だった。
「フィルター」の範囲は確かに狭くなったが、半径で言えば僅かな差だ。
それより魔石を回収できる方がはるかに有用だ。
何故なら、
低級ゴブリンの魔石 ENG +1,000
こうだからだ。
少なくとも現環境では、こいつに勝るENG回復手段はほとんど存在しない。
さらに「フィルターLv3」は同時に2つ作動できた。
魔石の回収がやけに早いと思ったよ。
一応換金アイテムなのでクリスに断りを入れたが、キョトンとした後俺の体を撫でながら、
(どうせ回収してなかったんだから、好きにして良いわよ。 でも、言ってくれて有難う。 頼りにしてる。 イチロウ。)
とのお言葉を賜った。
何でも報告します!
現在BPは 6000/2850 (上限突破状態)
となっている。
「十字」の攻撃に2回は耐えられる計算だ。
種族レベル レベルアップ Lv14 → Lv15
最大ENG 28,800 → 33,500
最大BP 2,850 → 3,400
ステータスポイント 5
オリジナルスキル 1 設定可能
来た!
(クリス、レベルが上がった。 一度城壁に戻ってくれ。)
(コピー!)
俺がレベルアップすると、クリスが使う「魔力粘着」の走行スピードも上がる。
魔力鎧運用は「帽子」級が相手だと、俺のレベルも重要だな。
クリスが城壁を登ってる間にそんな事を考えていた。
ふとBPが目に入る。
BP; 3,400/3,400
…………。
(ああああああ!)
(きゃああああ!)
俺の叫び声で、クリスが壁から落ちそうになった。
(ななな、何!? また「帽子」!?)
(いや! すまん! こっちの話で、あいやえーと上限超えてたBPな、)
(うん?)
(レベルアップでリセットされた。)
(…………。)
(…………。)
クリスは城壁の上に立って、短剣を鞘に仕舞い、手を腰に当てて上空を見上げた。
(世の中、そううまい話は、無いわね……。)
(本当だな……。)
(でも致命的って程では無いでしょ? そもそも「上限突破」というのがおかしい代物なんだし。)
(あううー。)
BPの上限突破に使ったENGがパーだ。 悲しい。
まあしかし、クリスの言う通り致命的って程では無い。
仕方ない。 いつでも上限突破状態になれるよう、準備するにとどめるか。
俺がそうぼやいた時、常に動かしてる「スポット」が巨大な反応を捉えた。
こうして何度も「帽子」と出会ってみると違いが分かるようになってきた。
厨房乱闘騒ぎで初めて見た近衛級「ボンボン」。
クリスを運んでいるときにニアミスした「星」。
そして水路から現れた「十字」。
彼らとは明らかに異質。
クリスの班を待ち伏せて全滅に追い込み、要塞の2階に魔力糸の防衛網を張りめぐらせていた。
飾りの無い帽子を被った「近衛級ゴブリン」。
「無印」 だ。
(クリス、「無印」を感知。)
(!!! どこ!?)
(落ち着け、近くじゃない。 ……あそこだ。)
クリスの目に「スコープ」が映る。
約800m先。
件の「人族班」が「無印」と遭遇していた。
いや、「待ち伏せにあった」が正しいか?
彼らも気が付いた。
遅いよ。
恐らく念話で話してる。
口を開いていない。
城壁までは200m位か。
6人は散開して迎撃態勢を取った。
アレと戦う気か。
(クリス、確認だ。 距離が遠すぎる。 助けには行かないし、行けない。 そうだな?)
(……ええ。)
(よし、伏せてくれ。 ここから「無印」の戦力を観察するぞ。)
(分かったわ。)
仲間の直接の仇だ。
自分の手で倒したい気持ちは、当然あるだろう。
その為にも、奴の戦闘を見ておく必要がある。
ここで「無印」が「人族班」に倒されたら、それはそれだ。
酔っぱらって憂さを晴らせ。
またワインをくすねて来てやる。
「無印」はこちらに背中を見せた立ち位置だ。
両手に短剣を持ってる。
クリスのような戦闘スタイルか?
対する人族班は例のナントカ男爵が中央、そこから「無印」に向かってVの字型にメンバーが散開してる。
左に3名 右に2名だ。
左の3名の内、一番男爵に近い男が短い「杖」をふった。
6人にもやのようなものが立ち上がった。
多分、バフだ。
前方にいる2人は「盾」を構えた片手剣スタイル。
右から「盾1」「盾2」とする。
2人の「盾」の中間後方に「短槍」。
残り一人は「短剣」、こちらは片手に1本だ。
「男爵」は片手剣。 盾は無い。
「盾」の二人がじりじりと前進を開始。
「男爵」は、……お? こいつだけ後退するのか?
後ろに下がっていく。
いや、こいつだけ完全に撤退する様だ。
ある程度後ろに下がってから壁の方に駆けだした。
残るメンバーに動揺は見られない。
予定された行動みたいだな。
「無印」は全く動かない。
「短槍」は「盾」二人の間の後ろ側をキープしている。
「短剣」が左側の「盾」のさらに左後方に移動。
「杖」がゆっくり動かしていた杖をスッっと「無印」に向けた。
「何か」を射出!
同時に「盾」の1と2が盾を構えたまま左右から突進!
「短剣」はその左側から前に躍り出てた。
「無印」の後ろを取るつもりか!?
「短槍」は2人の「盾」の間を縫うように接近。
「短槍」の真横を「杖」が出した「何か」が通過。
「短槍」も同時に踏み込んだ!
「無印」は滑るように少しだけ後退。
その後。
3人に増えたように、見えた。
——はあ!?
そう見えた、としか言いようが無かった。
同時に3つの事が起こった。
増えた「無印」の一人が回り込もうとしていた「短剣」に滑るように、しかし異常な速度で踏み込んでその首を吹き飛ばした。
もう一人の「無印」が右側の「盾1」長剣を左の短剣で上方向に弾き、右の短剣で盾を持つ手を切り飛ばした。 盾が腕ごと宙に舞う。
最後の「無印」はS字を描いて「杖」から射出された「何か」をかわしながら前に踏み込み、「短槍」の槍を叩き折ると同時に心臓の位置に短剣を叩き込んだ。
2人の「無印」が消え、「短槍」に短剣を刺している奴だけが残った。
何だあれは。
俺は何を見たんだ。
その圧倒的な展開にクリスの体が強張るのにも気が付かないほど、俺は混乱の渦に飲み込まれていた。
第35話 完




