第34話
第34話
(ここね。)
養殖池から、さらに奥の自然洞窟部分。
枝分かれした場所の1つに、湧き水で構成されたプールのような空間がある。
以前くまなく洞窟を探査した時に見つけた。
それほど時間は経っていない筈だが、何だか随分前のような気がする。
溢れた水は川に向かっており、常に水の動きが起こっている。
全く流れのない、停留した水溜まりは危険だと何かで読んだ記憶があるので、この場所は人間が利用するには問題ないんじゃないだろうか?
水は冷たい、という情報は入ってくるが、クリスにとってどうかは本人に聞いてみないと分からない。
(ひゃあ!やっぱり冷たいわね!)
どうやらクリスにとっては冷たすぎるようだ。
どうしたもんかと考えを巡らせていると、クリスの体から熱気のような物を感じた。
(何かしたのか?)
(うん。 「ヒートスキン」っていうの。 水中行動用のスキルというか、魔法ね。)
(本当はもっと長い名前なんだけど、皆こう呼んでる。 冷たすぎる水温を体に触れる部分だけ調整するの。 だから冬の川に入っても、お風呂みたいにポカポカになれるわ。)
なんという便利魔法!
科学技術では絶対真似出来無さそうな性能に、俺は絶句した。
うわー俺も魔法使ってみたい! 種族特性とやらで全滅だったけどな!
(便利な魔法なんだけど、温度差スキャンなんかで直ぐに位置がばれるのよね。 だから潜入行動では不向きなの。)
なるほど、用途によっては欠点にもなるのか。
(正直水浴びしなくても、魔法である程度清潔は保てるんだけど。)
クリスは革鎧を外して、少し高くなっている場所に並べた。
ちょっと待とうか、クリスさん。
(作戦中でも無性に入りたくなるのよね。)
革鎧の下に着ていた、厚めの鎧下を脱ぎだした。
だから待ちなさいって!
(クリス! ストップ!)
(きゃ! な、何?)
(俺の前で脱ごうとするな! 男だぞ俺は! 外で待ってるから!)
(…………。)
言われて恥ずかしがるかと思ったが、返ってきたのは意外な返事だった。
(……イチロウ。 見たかったら、見て良いわよ。)
(——はあ!?)
(命がけで守ってくれたんだもの。 裸くらい見せなきゃ、女が廃るわ。)
…………。
こっ、この女。
良い女だなぁぁぁぁ!
いやいやいや!
(クリス、正直に言うが。)
(うん。)
(見たい、めっちゃ見たい。 だけど入口で待ってる。 終わったら声を掛けてくれ。)
(ふふ……うん、分かった。)
俺は念話が通り、クリスの暗視が失われない位置まで戻り、そこに座り込んだ。
スライムなんで、立っても座っても同じ姿勢だが。
周辺探査で見ようと思えば見れる距離だ。
多分絶対ばれない。
だが俺は素数を数えながら、探査の意識をその部分だけ外した。
ふぅううう……。
お風呂?を終えたクリスと秘密基地へ戻った後、俺は自分だけで養殖池の奥の方でプカプカ浮かんでいた。
魔力鎧で洞窟から移動する時、彼女に石鹸の匂いはするかと尋ねられた。
残念!クリスさん。
スライムは匂いを感じないのよ。
くそ、何だかすごく損をした気分だ。
周りの魚の動きに癒されながら、俺はBPに注目した。
現在の値は656
全損しても人族だと1日、つまり24時間でほぼ全て回復するらしい。
亜人も同様だが、種族によって少しばらつきがあるようだ。
俺の場合も、だいたいそんな割合で回復している。
たが、ステータスにENGとBPの2つしか無い事がどうしても気になっていた。
種族レベルが上がっても特に項目が増えない。
項目は、最初からこれだけ?
隠し要素は無い?
人族にないという「ENG」の項目。
もう一度、オネェの説明文を見てみる。
ENG:
活動等に使用されるエネルギーよ♪
0にはしないことをオ・ス・ス・メ♪
活動「等」に使用、か。
スキルの効果にはレベルアップに伴い、「等価交換」の取引が可能だった。
なら。
ステータスにも無いか? それ?
いや。
あるだろう?
「ENG:BP 相互交換 交換割合 10:1」
頭の中に浮かんだ言葉に、俺はビクリと震えた。
振動で魚が逃げていく。
呼吸を整えて、気分を落ち着かせる。
あった。
いや、考えろ。
「上限を交換」とは書いていない。
現在値の相互交換か。
まずはENGをBPに交換していく。
いっぺんにも出来そうだが、慎重に少しづつ。
22,000近くのENGを消費して、BPが全回復した。
ENGを料理で回復。
さすがにこの量のENG全回復はかなりの料理が必要だ。
人族班の所に行って、ワイン全部取ってこようかと一瞬考えた。
うーむ。
料理以外にもっと回復量が多い物って無いのかね?
あったら「女王級ゴブリン」がやってるか。
そう思いつつ、何の気なしにまた変換をやってしまった。
おっと、勿体ない。
BP:2851/2850(上限突破状態)
えっ?
「ENG:BP相互交換 交換割合 10:1」
「上限突破 交換割合 2倍消費」
!?
上限突破!?
2倍、消費?
じゃあ。
操作すると、ENGが20減って、BPがまた1追加された。
俺は頃言葉が出なかった。
こんな機能もあったのか!
もっと早く……いや。
この「交換」、レベルが上がってENGが飛躍的に伸びたからこそ、意味が出てくる機能だ。
「上限突破」がどこまで上げられるか分からないが、「一撃でBPを全損させて致命打を与えてくるような、攻撃力の高い敵」。
つまり「帽子」に対しては非常に有効だ。
莫大なENGとその補給手段が用意できれば、現在BPを底上げし、減った場合も即時回復が可能だろう。
問題は補給手段だな。 即時回復を目指すなら、料理だけでは不十分かも。
もし「帽子」から逃げられない状況になったら、この機能が最後の砦になる可能性が高い。
クリスを守るためにどう使うべきか。
俺は池に沈みながら、その事だけを考えていた。
第34話 完




