第33話
第33話
(ちょっときいてりゅ~?イヒロウ!)
(…………。)
どうしてこうなった。
くそったれ貴族から食材を頂戴して戻って来た後、クリスは椅子に座って上機嫌にワインを飲み始めた。
つまみのような物を時々食べながら、クピクピと調子よく飲んでいたが、すぐに様子が怪しくなってくる。
明るく振舞っていたが、大分ストレス溜まってたんだろうなと微笑ましく見ていた。
しかし段々心配になって来た。
(あークリスさんや、お酒はほら、楽しく飲んだ方が良いと思うから、その辺で……。)
(…………。)
寝ちゃってるよ、この子!
机に突っ伏す前に素早くクリスをくっ付けて、若干アクロバティックにベッドに横たえた。
ふう。
ワインの残りを「吸収」してみる。
ENG +1200
たっか! すごいなおい。
料理だけでなく、こうした加工品も高くなるのか。
そのうち「女王級ゴブリン」は酒造りを始めるかもな。
なとなく本当にそうなりそうで、笑いが込み上げてきた。
(ううーん……。)
クリスが抱き枕でも探すように手を動かす。
そこに飛び込みたい衝動に駆られたが、深呼吸をして耐えた。
アルコールで酔う事は無かった。
便利な体だと思う一方、寂しさも込み上げる。
(さて。)
夜は長い。
俺はいつもの様に、思考の渦にその身を落とした。
前方のゴブリンに石を射出しつつ、側面に範囲毒をばらまく。
クリスが移動した後は、帯状にゴブリンが倒れている。
「双牙・風陣!」
ゴブリンの一団の真ん中に飛び込み、両手を広げるように短剣を振るうと、周囲を切り裂く不可視の刃が広がった。
所謂「範囲攻撃」だ。
最近クリスはよくこの技を使う。
範囲毒でゴブリンを仕留める俺への、対抗意識でもあるのだろうか?
殲滅速度が高いお陰で、本来夜中に行う「持続注入装置」の設置が日中にできてしまう。
それは本日2か所目の設置が終わった時だった。
要塞の広場を東西で分ける中央の広い石畳。
それを挟み込むように大きな水路があるが、そこから「巨大な肉食恐竜」の気配を「周辺探査」が感知した。
俺が「帽子」と名付けた、近衛級ゴブリン「レッドキャップ」。
俺は叫んだ。
(クリスッ! 9時、「帽子」だ!! 距離60m!!)
(確かなの!? 出てくるにはまだ早すぎる!)
(あんな奴見間違えるかよ! 撤退だ!)
だがクリスも俺もどちらに移動するか、一瞬迷った。
南方向が秘密基地だが、同時に「厨房」のある、言わば「帽子」達の本拠地だ。
そのまま建物内にもつれこめば「帽子」同士の連携が始まる可能性が高い。
中央付近なので城壁も遠い。
それでも一番近そうなのは北の巨大な門と城壁だ。
(クリス北だ! 城壁を登って、奴をまく!)
(コピー!)
クリスは北に向かって猛然とダッシュを開始した。
「魔力粘着」も利用して、スピードスケートのようだ。
「スポット」を「帽子」に向けて俺は総毛立った。
ついてきてる!早い!!
いや、スピードだけじゃない! 時々位置がいきなり前にズレてる。
俺のワープみたいだ。
広間でエプロンゴブリンの首を落とした時に見せた瞬間移動。
くそ、やっぱりあれはスキルだ!
「帽子」にマークが付く。
数字は「1」
飾りは、ある! 十字かあれは!?
(ついてきてる! 早い! 帽子に十字の飾り! 識別は「十字」! 急げクリス!)
(精一杯よ!)
俺は前方に意識を集中した。
最初はクリスを抱えて発動したんだ。
「ワープ」!
その瞬間、景色がずれた。
クリスの動きに合わせて発動、だがクールタイムがある。
短時間での連続使用は出来ない。
それでも使えるようになったら使用。
ENGがモリモリ減るが、全体からは大した量じゃない。
壁が近づいてきた。
「十字」は20m後方。
くっそ!これでも向こうの方が早いのか!!
射程ギリギリだが、向かってくる相手なら十分当たる!
「デッドリー対ゴブリンポイズン」射出!
不可視のはずのそれを。
「十字」は横に躱した。
嘘だろう、お前!
何で躱せる!?
奴が消えた。
ボッ。
10m後方に出現!
まずい。
あと数回で追い付かれる。
合成を操作。
合成「ニューロトキシンLv3」、「グレーターポイズンLv2」
完成 「死神の宣告 Lv3」
なんだこれは!? いや、考察なんか後にしろ!
(クリス! 合図したら右へ飛べ!!)
(コピー!!)
奴が、消えた。
(GO!)
クリスが右へ飛ぼうとする。
その後方に短剣を突き出した「十字」が出現した。
やらせるかよ!!
とっさに俺の体でクリスを庇う。
短剣が俺の体に突き刺さり、BPが2830から140まで急減した。
だが同時に奴の後頭部に俺が「射出」した「石」が至近でヒット。
さらに背中に「死神の宣告 Lv3」が吸い込まれた。
ありえない真後ろからの攻撃に奴の行動が遅れる。
追加で「デッドリー対ゴブリンポイズンLv2」も射出。
真後ろからの至近だ。 躱せるもんなら躱してみろ。
クリスは右に移動した後、城壁に向かって走り続ける。
(イチロウ!? 攻撃を受けたの!?)
(問題ない! デバフ付与は成功だ! だが効果は不明! 予定通り壁まで走れ!)
(コピー!)
「十字」はどうだ?
「スポット」で見る奴は、しばらくそのまま動かなかった。
こちらを見た。
消えた。
だが、何かに躓いたかのように短い距離で姿を現した。
片膝をつく。
効果は、ある!
俺は迷った。
これはチャンスだ。
奴は明らかにデバフで弱っている。
——戻って止めを。
……いや。
減ったBPを見た。
攻撃力が高すぎる。
クリスも恐らく2撃は耐えられないだろう。
討伐軍はもうすぐ来るのだ。
ここで無理をする必要は無い。
壁に着いた。
そのまま上に上がっていく。
城壁を登り切って、奴を見下ろす。
「十字」はしばらくこちらを見ていたが、立ち上がると水路の方へ歩いて行った。
そのまま水路に消え、マークも外れた。
あぶなー。
結構足取りはしっかりしている。
戻らなくて良かった。
「スコープ」でそれを同時に見ていたクリスは、乱れた息を整えながら俺に言った。
(なんとか逃げ切れたわね。 屋外であんなに速いとは思わなかったわ。)
(肝が冷えたな。)
(ほんとね、ってイチロウ貴方! BPが殆ど残っていないじゃない!)
パーティメンバーのBPは数値こそ出ないものの、白いバーと共に割合として%で表示されてる。
俺のBPは残り5%になっていた。
クリス曰くBPは時間で回復するそうだ。
確かに魔力粘着を取得した時に天井から落ちて減ったBPは、いつの間にか回復してた。
もしかしなくても、これ回復に結構時間かかる?
まあスライムだし、何か無いかな?
(もう無茶して。 ……今日は戻りましょう。 どっと疲れたわ。)
(同感だな。 池に浮かびたい。)
(ちょっと何よそれ、ずるいわよ。 私も水浴びしたいわ。)
なるほど? たしか洞窟の奥に出来そうな場所があったな。
(まあ帰るか。 ゆっくり行こう。)
(はぁい。 コピー。)
疲れ切った俺達は、トボトボと城壁の上を歩きだした。
第33話 完
投稿ミスしてました!




