第31話
第31話
クリスは「ロード級ゴブリン」から「魔石」を取った。
心臓に近い場所にある。
所謂換金アイテムというやつだ。
予想通り、魔道具の燃料等に利用される。
ENGの塊みたいなものか?
低級ゴブリンにもあり安価だが、駆け出しの冒険者が解体で苦労する、最初の試練らしい。
俺達は取らない。
手間だし、数が多すぎる。
(イチロウ。)
彼女は4cm位の「魔石」を手のひらに載せた。
「ストック」で回収。
魔石(ロード級ゴブリン)×2
ふむ。
「帽子」からも取れるんだろうか?
クリスは屋根から地上に降り、水路の水を確かめた後手を洗い出した。
2本の短剣もさっと洗い、布で拭き上げた。
その時になって、俺はクリスがニマニマしているのに気が付いた。
(なんか……嬉しそう?)
聞くと彼女はビクッと体を震わせた。
(つっ!……あ、えっとね。 単独で……、やっ、単独じゃ無いんだけど! その、ロード級ゴブリン撃破、しかも2連続なんて初めてで。)
(もちろんパーティで戦ったことはあるのよ? でもデュオでしたのも初めてだし、えへへ、イチロウとの連携ならいけると思ったんだよね。)
(コンボもばっちり決まったし、思い出したらこう、自然に笑いが……。)
なんだこいつ。
かわいいかよ。
かわいいかよ!
悶絶していると、一息ついたクリスが言った。
(よし! 注入装置を取り付けてしまうわね。)
彼女は広場中央のタンクに、スルスルと登り始めた。
予定のタスクを終え、南下して秘密基地に帰投しつつ、範囲毒でゴブリンを仕留めていく。
クリスが少し前に言っていた通り、俺の……いや俺達のレベルアップも重要な要素だ。
作戦を完了させても、「帽子」に出会いましたはい終了!では目も当てられない。
あれ?
そんな事を考えていると僅かな、しかし鋭い光を西方向に感じた。
クリスも気が付いたようで一度止まり、付近の崩れかけた壁面の上に移動した。
「スポット」で光のあった付近を観察してみる。
お、また光った。
何か動いてるな。
ゴブリン……じゃ、ない!
人間!?
(セバス。)
(お呼びでしょうか、旦那様。)
クリスがピクッと動いたが、何も言わなかった。
(「スポット」の共有は可能か?)
(情報の伝達は可能で御座います。 ただしお気を付けください。 範囲を広げるとクリスお嬢様の負担が大きくなります。)
(分かった、やってくれ。 コマンド名は「スコープ」だ。)
(了解致しました。)
(クリス、見えるか?)
(うん。 遠くが目の前みたいに見れるのよね。 ……またお嬢様って言われたわ。 何だか照れるわね。)
俺は若干モヤモヤした気持ちを抑えて、クリスに尋ねた。
(あの光、人間か?)
(ええ。 多分別の班。 一応彼らの担当は西側だから。)
(合流は、した方が良いのか? 情報交換は? クリスの班の事は知ってるのか?)
俺は若干興奮気味で、矢継ぎ早に彼女に聞いた。
(…………合流は、しなくて良いわ。 班の事は、知らないと思う。 知っても気にしないでしょうけど。)
うん?
(でも情報交換は、しておいた方が良いかもね。)
したくは無いけど。
そんな続きが聞こえてきそうなほど、クリスの言葉は硬かった。
(…………。)
(…………えっとね。)
聞こうか迷っていると、彼女の方から躊躇いがちに言い出した。
そして右手で髪をかき上げて、俺に「耳」を見せた。
意識のないクリスを運ぶ時に、見たことはある。
俺が知る人間のものより、上部の先が少し尖っている。
(……私、「亜人」なの。)
秘密基地に着いた後、クリスはランプに火を灯した。
カーテンの様にラグを使っているので、ドーム側の入口に光が漏れることは無い。
(……あまり驚かないのね?)
ベッドに座ったクリスが聞いてきた。
(耳の事か? 確かに俺の世界にはそういった人種は存在しなかったが、物語の中では普通に出てきたし。 君を2階から運ぶ時に見つけて、「おお、異世界だな」と思った位か。)
(し、知ってたの!? 私が普通の人族と違う事?)
(違うといわれても、普通に会話は成立するし、かわ……、いや尊敬、そう尊敬できる部分は多くあるし。 逆に何か違いがあるのか? 夜中に油を舐めるとか?)
(どういう状況でそんなことするの!? ……いえ、そうね。 貴方にはこの国の常識なんか、関係ないわよね。)
(この国の、常識?)
(私もこの国に来て初めて、目のあたりにしたのだけれど。)
クリスは俺を見て言った。
(ここグランディーハ王国は、「人族至上主義」なの。)
彼女の話を要約すると、こうだ。
この世界、少なくとも認識できる範囲では、意思疎通が可能な人間は大きく2種類に分けられる。
人族と、亜人だ。
エルフやドワーフ、獣人、ホビット、魔族なんかは「亜人」にカテゴライズされる。
純粋な人間が、「人族」だ。
元の世界で言うところの「人種」みたいなものだな。
そしてこの違いをどう扱うかが、国によってかなり差がある。
クリスが元々活動していた隣国「カーマイン王国」は亜人に寛容、というよりは積極的に取り入れてるそうだ。
対してこの要塞がある「グランディーハ王国」は真逆。
迫害はしていない。
だが不文律として、亜人への差別が存在する。
就ける職業が、違う。
給与が、違う。
扱いが、違う。
胸糞悪いが、この国で生まれた時から暮らす人間にとっては、「当たり前」の日常なのだろう。
「女王級ゴブリン」討伐のため冒険者ギルドを介して傭兵を募集。
そして作戦の一環として破壊工作の潜入班を結成。
そこにクリスは応募した。
危険な仕事だ。
結成できたのは2チーム。
人族のみのチームと、亜人のみで構成されたチーム。
クリスは後者に配置され、西側の城壁より潜入開始。
人族チームはそのまま西側を担当。
クリスのチームは俺が最初に入った崩れた外壁から2階へ潜入。
厨房や近衛級の情報を探りつつ、東側の低級ゴブリンを担当する。
こう聞くと、「亜人チーム」の危険度が高すぎることが分かる。
因みに「人族チーム」の装備や食料は、「亜人チ-ム」より遥かに良い物が用意されたようだ。
なるほど「人族至上主義」、か。
チームを結成させて送り込んだ方は、「亜人チーム」は「うまくいけば儲けもの」といった感覚なのだろうか。
失敗しても広場東は「人族チーム」がフォローするといったシナリオが見て取れる。
(クリス。)
(うん。)
(情報交換、止めても良いと思うが。)
(……ううん、討伐犠牲を少なくする為にも、必要だと思うわ。)
(そうか。 ……セバス。)
(はい、旦那様。)
(念話の距離は30mだったな?)
(はい。 障害物が無ければ。)
(よし、クリス。 会話は姿を見せず念話で行うと良い。)
(?うん、まあその方が良い、かな?)
(俺に考えが、ある。)
俺はにやりと笑った。
しかし表面状なにも変化が無いスライムの体を、クリスは不思議そうな表情で見つめていた。
第31話 完




