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第30話

第30話




持続注入装置の設置は二か所目まで順調に終わった。

その間、タスクをこなしながら考えていた。


確かに俺は日本でそれなりに平和に生きていた。

だが「他の生物の犠牲の上に」だ。


食べるために、殺す。

脅威だから、殺す。


俺は本質的にこの二者は、同じだと感じた。

殺される方からすれば、理由が違うだけだ。


結果は変わらない。

俺は「自らの手で」殺す必要が無かっただけだ。


クリスは自分の為に力を使えといった。

だがそれではダメだ。


俺は自身の願いの為に、力を使う。

自分が強くなるために。

そして、クリスを守るために。



本日最後の設置場所は北側に解放部がある、コの字型になった2階建ての建物の中庭にあった。

建物を左右に2分するように水路があり、中央部に巨大なタンクがある。

中庭にはゴブリンがひしめき、ほとんどが眠らずに興奮状態でその部分だけ異様な活気があった。


2階建ての建物の上からそれを見下ろしているクリスに、俺はインベントリ内でデバフの合成を行ないながら言った。


(クリス、範囲毒を使う。 コの字の建物の端から端へ移動してくれ。 ややゆっくりめで頼む。)


(——了解。)


一瞬だけ黙り込んだクリスはそれでも頷き、移動を開始した。


(クリス。)


(なに?)


(俺はこの力を「自分自身の願いの為」に使う。 そう決めた。)


(……そう。)


(その事で、君に迷惑を掛けるかも知れない。 だから先に謝っておく。 すまん。)


(ふふ、じゃあお互い様ね。)


端から移動を開始する。

合成毒の材料はかなり余裕がある。


「ディジーズ」 は羽虫、「ポイズン」はゴブリン料理からそれぞれ「吸収」の時に取れたが、今は「フィルター」が外部発動可能だ。

ゴブリン達の間をすり抜ける時に範囲で発動させれば、何から取れたかは考えたく無いが、両方共ごっそり取れた。


クリスの移動に合わせて範囲毒「デッドリー対ゴブリンポイズン」を効果が重ならない様な位置に射出。

生体反応を認識できる範囲は、20mといった所か。

ピンク色がどんどんと消えていく。


コの字の建物を回りきる前に「射出」のレベルが上がった。



「射出」 レベルアップ Lv1 → Lv2



来た。

ヤバいのがレベルアップした。

カスタムは……うわぁ、あるのか。


熟練度は「射出数」なんかでは絶対にない。

そんな甘いスキルじゃない。

俺の予想はこうだ。


「射出」スキルを使って与えたダメージ。


或いは、殺した、数。


レベル2になって飛距離が伸びた。

約15m。


これで限界質量も増えていれば、危険度倍増だ。

そして多分、増えてる。

最初のオリジナルスキル取得時に「銃」をイメージして、「初めからある」と言われたスキル。


ああもう毒といい、このスキルといい。

もうちょっとスマートに、物事を解決できそうなスキルにしてもらえませんかねえ!


心の中で愚痴りながら、やれる範囲は射出し終わった。

ゴブリンの残りは僅かだ。

クリスは地上に降り立ち、静かに残りを駆除し始めた。


その時俺の「周辺探査」が建物の影から素早くこちらに迫る存在を感知した。


大きい。

そして2体。


(クリス! 8時、2。 大きい!)


大きさは2m近い。

そして体格に似合わず素早い。

なんだこいつは!?


クリスはその方向を見た後、後ろに飛び退りながら俺に言った。


(ロード級よ!)


ロード級ゴブリン! 通常ならこいつが群れを率いる最上位か。


(迎え撃つわ! この建物の高さじゃ安全地帯にならない! ここで倒しておく!!)


(了解! 射程に入り次第毒を使う。 初めは距離を取れ!)


(コピー!)


(棍棒と、剣を持ってる! 剣なんか使うのか! 識別は「棍棒」、「剣」だ!)


(良い名前ね! イチロウ!)


建物を垂直に駆け上がる。


屋上に出た。

2体は眼下だ。


立ち止まり、こちらを見ている。

ジャンプする気だな。


飛んだ。 いい的だ。


「デッドリー対ゴブリンポイズン」を2つ射出。

「ストック」の範囲5mから射出されたデバフは2体に吸い込まれた。


ついでに小石(大)を「剣」の手に射出。

「剣」が屋根の縁に掴るのを失敗し、下に落下。

「棍棒」はそのまま屋根に上がって来た。


「棍棒」は得物を構えたが、口から吐血した。


「ゴフッ!」


そのまま経過を観察しても良いかとも思ったが、クリスは突撃した。


「双牙・空裂!」


かなり手前で両手の短剣を水平に振ると、「棍棒」の腹部にばっくりと裂傷が出来た。

衝撃波が後から「棍棒」を襲う。


鮮血を飛び散らして、後ろに吹き飛ばされる。

クリスはさらに踏み込んで、「棍棒」の首を一閃。

半分ほど切り裂いたのを見て、離脱した。


息をつくクリスに、再び上がって来た「剣」に小石(大)を射出しながら俺は叫んだ。


(「剣」が来た! 2時!)


(コピー!)


屋根の上を素早く移動するクリス。

屋根に上がって来た「剣」と対峙した。


吐血の跡がある。

だが呼吸は安定している?


もう一度「デッドリー対ゴブリンポイズン」を射出する。

吸い込まれたが、変化が無い。


むっ!? 同じ相手に複数回のデバフは無意味か?

或いはクールタイムみたいなものがある?


「グレーター対ゴブリンポイズン」 射出。

変化は、無い。

下位の毒は、効果が無いか?


(クリス! デバフはこれ以上無理みたいだ!)


俺は「ニュートロキシンLv3」に手を掛けながらクリスに叫んだ。

いざとなれば、これも使う。 合成する準備を整えた。


(十分よ。)


クリスは短く息を吐いた。

「剣」が前にでる。


(イチロウ、コンボ1。)


(分かった。)


ドン! という音と共にクリスが飛び込んだ。


5m、ここだ。

クリスの動きを目で追う「剣」の側頭部に「小石(大)」が命中。

想定外の一撃に目線が外れる。


「ストック」


その眼前にボロ布が出現。

顔全体を覆う。

視界が封じられる。


「双牙・烈風!」


すかさずクリスの3段攻撃が両足と剣を持つ手にヒット。

腱を断ち切られ、得物を手放して「剣」はガクンとよろめいた。


クリスの刃が届く位置に、首が下がった。


彼女の次の一撃は、弧を描いてロード級ゴブリンに静かな「死」をもたらした。





第30話 完







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