第28話
第28話
(イチロウ、ここに出して。)
「毒」が入った荷物を回収した俺とクリスは、「無印」に遭遇する事無く秘密基地に戻って来た。
クリス・モードじゃなかった魔力鎧を解除し、言われた位置に俺は荷物を置く。
早速クリスが荷解きを開始した。
セバスが提供した共有機能である「暗視能力」は、魔力鎧を纏ってなくても俺から60m以内にいれば有効だが、クリスはランプを点灯した。
ポリゴンなので細部は光があった方が見やすいようだ。
2階で荷物をインベントリに入れた時、「ストック」のレベルが上がった。
ストック レベルアップ Lv2 → Lv3
前回は無かったカスタムの余地が、今回はある。
インベントリは40まで拡張、ストック可能距離は5mまで伸びた。
5mはかなりの距離だ。
というか、悪用する用途しか思いつかないんだが!
そしてクリス・モードで小石を「射出」している時、俺は恐ろしい事に気が付いた。
この「射出」スキル、射出口をストックの有効距離から自由に選べるのだ。
射出スキルを「拳銃」に例えると、4m離れた相手の後頭部や頭頂の至近に、俺は「拳銃」を構えることが出来る。
これ、当たるまで絶対気が付かないんじゃ? やっば!
無論素早く動く相手だと厳しい。
だがそれでも至近距離に銃口を移動できるのは、チートと言って差し支えないだろう。
カスタムで距離を伸ばすことも考えたが、インベントリ数との等価交換だった。
……うーむ。
今すぐ決定せず、必要な時まで残しておくのも良い、か。
他に確かめておきたい事も有る。
(クリス。)
床に敷いたラグの上に荷物の中身を出し、食料のケース?を抱えてニコニコしている様子の彼女に声を掛けた。
こらクリス、投入用の「毒」の確認は終わったのか?
(広場の水源に投入する毒なんだが。)
(あ、うん。 ちゃんと確認してるわよ? 本当よ?)
(……そうか。 あー毒なんだが、予備とかはあるんだろうか?)
(ええ。 高価な物じゃないので、量にはかなり余裕があるわ。)
(分けてもらう事は出来るか? 俺の「フィルター」で何が取れるのか見てみたい。)
(了解。 そうね……、固形でもいけそう?)
(分からんが、試してみよう。)
クリスは俺に小さいスプレー缶の様な円柱形のケースを差し出した。
興味があるのか、そのまま俺を見てる。
「ストック」
インベントリに入った。
名前は「ゴブリン水源投入用毒物(予備)」
ここで俺は気が付いた。
そう言えば、インベントリの中のアイテムに「フィルター」を使うのって、初めてだ。
今までは「吸収」のついでに発動するか、クリスに使った場合だけだった。
「フィルター」
「対ゴブリンポイズンLv2」 × 30
アイテムは消え、代わりにこの効果が増えた。
(…………。)
(どうだった? 何か出た?)
俺は答えず、それを一つ摘まんだ。
移動する。 他の効果の上に。
「ディジーズLv2」、「ポイズンLv2」、「グレーターポイズンLv2」
この3つと、合成可能だった。
つまり「ニューロトキシンLv3」と同じだ。
インベントリの枠はかなり増えた。
なら、こうだ。
(イチロウ?)
合成中:「対ゴブリンポイズンLv2」、「ディジーズLv2」
作成:「グレーター対ゴブリンポイズンLv2」
合成中:「対ゴブリンポイズンLv2」、「ポイズンLv2」
作成:「グレーター対ゴブリンポイズンLv2」
合成中:「対ゴブリンポイズンLv2」、「グレーターポイズンLv2」
作成:「デッドリー対ゴブリンポイズンLv2」
「グレーター対ゴブリンポイズンLv2」は他との合成は不可だった。
(イチロウ? どうしたの?)
俺は結果を見て考えた。
「ディジーズLv2」、「ポイズンLv2」は単体では効果が無い、もしくは薄い。
しかし合成で「グレーター」を付与している。
「グレーターポイズンLv2」は他との合成で「デッドリー」を付与。
つまり「ディジーズLv2」+「ポイズンLv2」を他と合成すれば、「デッドリー」を付与出来る。
こうか。
この法則は「ニューロトキシンLv3」との合成でも恐らく同じだろう。
そうでないと困る!
グレーターが付与されてる物の中で、「グレーターポイズンLv2」だけが、合成の材料として使えるのが謎だ。
「デッドリー」の効果は不明だが、「グレーター」よりは上だろう。
これはまた検証が必要だな!
ワクワクしてると体を持ちあげられた。
(イ・チ・ロ・ウ?)
ポリゴンのクリスがジト目で俺を見てた。
(——とっ!たっ! あっ、すまんクリス!)
話しかけられてた気はするが、夢中で返事しなかった!
(ふふ、まあ、いいわ。 それで? 何か分かったの?)
彼女は俺を机の上にのせると、自分も椅子に座り、微笑みながら俺に言った。
少しそれに見惚れながら、俺は答えた。
(貰った毒で新たに検証出来たことがある。 合成の法則みたいな物が見えてきた。 水源への投入はいつ開始する?)
(そうね……今は18時か、夜中から行動したいから、23時位からかな? その前に仮眠を取りたいわね。 今日は色々あったし。)
クリスは可愛いあくびを一つした。
(そう言えばイチロウは何時も起きてる気がするわ。 ちゃんと寝てる?)
おれはギクリとした。
動揺を出さない様、深呼吸をしてから答える。
(ああ、適当に休ませてもらってる。 23時に起こそうか?)
(大丈夫。 自分だけに聞こえる、念話アラームがあるから。 じゃあ準備を済ませて休ませてもらうわね。 イチロウもちゃんと寝るのよ?)
(分かった。 少し考えをまとめてから、そうさせてもらう。)
(うん。)
そういって荷物の方へクリスが移動した。
俺は机の上で動けなかった。
スライムとしてこの世界に目覚めてから、俺は「眠り」を必要としていなかった。
眠れない、訳ではない。
疲労も感じる。
だが、ずっと起きてても何の問題も無く活動できてしまう。
「眠り」は必須ではないのだ。
スライムの中の「俺」は本当に「人」なのか。
その答えを知る者は、俺の手の届く範囲に居なかった。
第28話 完




