第26話
第26話
双牙流。
短剣を両手に1本ずつ持った、所謂2刀流。
それがクリスの戦闘スタイルだ。
ズバンッ!
彼女が地面を蹴ると同時に、「魔力粘着」の移動も発動。
凄まじいスピードで突っ込んでいく。
「双牙・雷走!」
稲妻の如くジクザクな動きで、ゴブリンの間をすり抜けていく。
短剣が白銀の軌跡を描くたび、ゴブリンの首が宙を舞った。
一気に3匹を抜け、急停止。
体や膝にかかる荷重を軽減。
俺は近づいてくるゴブリン2匹に小石(大)を連続で「射出」。
顔面に命中したゴブリンが衝撃でのけ反る。
「双牙・風来!」
彼女が2匹の間を一瞬で通り過ぎると、両方共胴を半分絶たれながら衝撃波で別方向へ吹き飛んだ。
俺は足元の小石を回収。
(4時、2。 6時、1)
俺の警戒網にクリスが答えた。
(6!)
クリスは左手の人差し指を「魔力粘着」で地面にくっ付けて、そこを中心にコンパスの様に6時のゴブリンへ向かって急旋回。
手、膝、腰、首へ掛かる圧力と衝撃を俺が受け持つ。
旋回中、俺は4時の2匹へ小石(大)を「射出」。
「双牙・烈風!」
3連続で踏み込み、わずかな時間差で3匹の首へ致命の刃が走る。
反応する暇もなく、ゴブリンはクリスの短剣の錆となった。
腰に付けた専用の刀身拭きで刃を拭き、クリスは高さ3m位の壁に左足の先を付け、まるで重力が無いかの如くそのまま垂直に移動した。
壁の上に登ってあたりを見渡す。
周囲のゴブリンは一掃され、近づいてくる奴はいない。
(どうだ? 体に異常はあるか?)
彼女の腕なら「技」を使わなくとも、ゴブリンを屠る事は十分可能だ。
そんなゴブリン相手にスタミナが大きく削れる「技」を連発したにも関わらず、俺のサポートでクリスの体に大きな負担は無いはずだ。
俺の問いに彼女は答えた。
(無い。 最高。 イチロウ、本当に最高よ。)
目を見開いて興奮の真っただ中にあるクリスに、俺は苦笑した。
(それは、良かった。)
頑張った甲斐があるってもんだ。
(そう、頭でくっ付くんだ。 それで足を動かすイメージで、前に進む。)
(あ、足を動かすの? えいえい!)
(本当に動かすんじゃなくて、イメージなイメージ。)
最初は「壁にくっ付く」 「そのまま移動する」に苦労した。
クリスにとっては、というか人間にとっては初めての感覚だろう。
逆によく俺は問題なく出来たな。
変な所に感心しながら、彼女の動きを背中に張り付いたまま見守る。
秘密基地横にある洞窟の天井に頭頂でくっ付いてるクリスは、足をシャカシャカ動かしてる。
超シュールだ。
(笑ってないで! イチロウ!)
断じて笑っていない。
ちゃんとギリギリで堪えている。
(よし、足を止めて……、そうだ。 力を抜いてぶら下がれ。 首に負担は?)
(無いわ。 不思議。 どうしてこんな格好でぶら下がっていられるの?)
(そういうスキルだという事で、納得してくれ。 そこから体が平行に前に進むのを頭の中でイメージしてみて。)
(水平に……、進む。 進む。)
ぐぐぐーとクリスの体が前に動いた。
(よし、良いぞ!)
まだ足が動きかけてるのが、かわいいな、おい!
しばらくすると慣れてきたのか、スムーズに動けるようになってきた。
動きの調整はまだ必要なようで、時々止まり切れずに壁を蹴ってる。
(よっと!)
クリスは「魔力粘着」を剥がして地面に降り立った。
足裏にクッション、滑り止め、膝の負担を軽減。
(慣れてくるとびっくりする位、体が軽いわ。 動いた時の負担を感じない。)
ふむふむ
(身体強化スキルを覚えた時より感動してるわ、この魔力鎧)
結局「クリス・モード」は却下され、「魔力鎧」という名前に強制変更された。
なんとやらの国の聖騎士がまとう「聖魔力鎧」なるものがあるみたいで、そこから取ったとのこと。
ええー、クリス・モードで良くない?
ダメですか、そうですか。
まあ性能が気に入ってくれたのなら、良いか。
(粘着移動が無意識に出来るようになったら、外に出て実戦投入だ。 まずは東の山岳部と城壁の近くにいく。 あそこらへんはゴブリンの密度が低い。 初実戦にはうってつけだ。)
(分かったわ。 あ、それならね。)
(ん?)
(パーティを組まない? メリットは色々あるけど、経験値共有が一番大きいわ。)
(なるほど、クリスが倒したゴブリンの経験値が俺にも入る、か。 いいね、どうすればいい?)
(えっとね……、)
そう言って右上辺りをみたクリスは、はっとした表情になった。
(…………。)
彼女はしばらくそこを見つめていた。
?
(どうした?)
クリスは答えず、椅子に座ると机に自分の手帳を出して広げた。
時々右上を見て、何かを書き込んでいる。
俺の「周辺探査」は平面に書かれたものを判別できない。
だが文章というより、短い単語を箇条書きに書いているようだった。
何だろう?
名詞? いや、名前、か?
クリスは手帳を閉じた。
(私ね。)
(ああ。)
(この国の隣にカーマイン王国っていうのがあるんだけど、そこにあるクランに所属しているの。)
彼女は椅子の背もたれに体を預けた。
(斥候兼アタッカーとして活動してたんだけど、今回の女王級ゴブリンの討伐作戦の事を聞いて、この国にやって来た。)
机の上のランプを見つめながらクリスはそう呟いた。
(潜入班に志願して、彼らと出会った。 パーティを組んで、この要塞に潜入したわ。)
(今書いたのは、そのメンバーの名前か?)
(そう。 私には解散できなかった。 私以外死亡のパーティを。 彼らと過ごした時間は長くはなかったけど、それでも背中を預けあった。 私には、)
彼女はうつむいた。 涙が数滴、零れ落ちた。
(解散、出来なかったの。)
クリスはぐいと左手で涙を拭った。
(だから、残しておくの。 彼らの名前を。)
彼女は右手で空中を操作した。
(前に進む為に、貴方と。)
そう言って、クリスは静かに笑った。
ピコン!
左上にメッセージが出た。
パーティ要請 クリステリア y/n
俺は黙ったままyを押した。
右上に彼女の名前と、一番左に「BP」という文字のある白いバーが表示された。
(僭越ですが。)
(きゃあ!)
彼女にどう声を掛けるか迷っているといきなり念話にセバスの声が聞こえ、クリスが叫び声を上げながら椅子から30cm程飛び上がった。
(な、何? 誰!?)
あっ! そういやクリスとセバスって直接会話した事なかったっけ!
(お初にお目に掛かります、お嬢様。 わたくしの名前はセバスチャンと申します。 どうぞセバス、とお呼びください。)
(お、お嬢様!? そういえば、喋るペンダントってあなたの事なのね。 私とも喋れるんだ。)
(はい。 機会が御座いませんでしたのでお目通り出来ませんでしたが、これからよろしくお願い致します。)
(そう、ふふ、よろしくね。 私はクリステリア。 クリスでいいわ。)
(どうしたセバス? 何か用事か?)
(はい。 修復シークエンスの途中では御座いますが、お二人がパーティを組まれましたので、最優先で回復させた機能が御座います。 それをお知らせしようかと。)
(うん? どんな機能だ?)
(時刻の同期機能、メッセージ機能、そして……)
(そして?)
(旦那様の「周辺探査」スキル、その一部共有機能で御座います。)
第26話 完




