第25話
第25話
「装備」と言われて、彼女の目が光ったように俺には見えた。
(イチロウ。)
彼女は俺の名前だけ言うと、ベッドから立って机の上を片付け始めた。
椅子を引いて座り、机の上をポンポンと叩いた。
「ここに来て」かな?
ワープしても良かったがクリスの目の前にいきなり現れるのもどうかと思い、対面のイスから机の上にぴょんと乗った。
彼女は机の上に両肘をつき、手のひらを組んで俺を睨みつけた。
(詳しく。)
怖い位食いついてきた!
いやいやいや、クリスさんや!
この提案、ちょっと問題もありましてですね!
(早く。)
片言なのが怖いよ! 分かったよ!
(えっとだな、君を2階からここに運んだ話を覚えてるか?)
(ええ、天井や壁にくっ付いて運んでくれたのよね? 得難い経験だったでしょうね。 気絶していたのが勿体ない位。)
(あの時俺は君の背中に張り付いていた。 そこが一番無難な位置だったからだ。)
(ええ。)
(その時考えた。俺自身が形を変えて君の背面全部に張り付ければ、もっとスムーズに移動できるに、と。)
(……まあ、そうね?)
(俺は2つ目の「オリジナルスキル」を作る権利を得た。)
(……敢えて言わなかったけど、その「オリジナルスキル」って本当に不思議。 人間にそんなシステム無いもの。 イチロウ、その事他の人には言わない方が良いかも。)
(お、おう、そうか。)
(で、装備の話は?)
(ああ、えーとつまりだな。 取れるようになったらこれを取ろうかと考えていたスキルがあるんだ。 俺は「魔力吸着」というスキルで壁や天井にくっ付くことができ、移動も自由自在だ。)
(…………。)
(クリス。 この力、君も使ってみたくないか?)
クリスは目を閉じた。
しばらくそのまま考え込んできたが、不意に話しかけてきた。
(つまり……貴方が変形して私の背面全体にくっ付く、それで私は天井や壁を移動可能になる。 運ばれるんじゃなくて、自分の意思で動けるようになる。 あなた自身が装備になるスキル?)
(そうだ。 もっとも運用には慣れが必要になると思う。 外で実戦を兼ねたテストが必要だ。 あーただし問題もある。 最も大きいのは「俺が君にずっとくっ付いてる」と言いう事だ。 つまり、何だ。 背中に男性がずっとくっ付いてる訳で、その、心理的に、な?)
彼女はいささか虚を突かれたように俺を見た。
それから右手を伸ばしての指先で俺の体に触れ、そのままつつーと指を滑らせた。
ひゃぁぁぁ! クリス、おいクリス!
(そうね。背中を全て預けられる相手は、限られてくるわ。 特に異性なら、そうかな? でもね。)
クリスは今度は手のひらで俺に触りながら、微笑んだ。
(性別より「誰に」預けるか、が重要よ。 貴方は私に全てを話してくれた。 もちろん言ってない事も有るだろうけど、それはいいの。 私がどう感じたかが全てよ。)
左手でも俺を触る。
(貴方を信頼する。 ふふ、今まで生きてきた中で一番かも。)
彼女は両手で俺を包み、こう言った。
(答えはもちろんオッケーよ。 乗るわ、その案。)
(…………。)
くそう。
なんでこの娘は、こんなに簡単に俺を泣かせるのか。
(それで! どうするの!? もうスキル取ったの? 今から試運転、いく?)
ノリノリだ。
ちょっと涙が引っ込んだよ。
俺が選んだオリジナルスキル。
装備:外骨格。
実は「体の変形」は種族レベルが上がった事でかなり出来るようになっていたので、そこを補強。
足や手を含めた人体の背部にぴったりと引っ付く。
そしてその一部が壁や天井にくっ付いていれば、「魔力粘着」で張り付ける。
最も重要なのは「意思疎通」だ。
クリスが右!と言ってから動いても遅い気がしたのだ。
そもそも右にどれだけ動くかもか分からない。
故に俺は移動や粘着操作のほとんど全てを装着者に渡す。
彼女が装着すると、壁へ張り付く・離れるといった操作は、装着者が自分の手足を動かす感覚で行える。
クリスの「意思」を動きにどれだけ伝えるかを最優先にカスタムした逸品だ。
故に「クリス専用」の装備になった。
そうすることでやっと機能を実現したのだ。
おれはデバフや「射出」、「周辺探査」による索敵などを担当する。
さらにクリスが動く際の、体への負担を軽減する。
こちらは俺もまだ手探り状態だが、そういった用途を組み込んだ。
当然コストも跳ね上がり、「ENG上限 3,500」を削る途方もないスキルとなった。
だが、11,000という無駄とも思える高ENGが運用を可能にした。
本当は視覚情報の共有もしたかったが、その機能を入れることは無理だった。
(イチロウ?)
彼女の声に我に返り、俺は心の中でオリジナルスキルの決定ボタンを押した。
(っと、すまん。 スキルの方は準備完了だ。)
(じゃあ早速やってみましょう! 服は脱いだ方が、いい?)
脱ごうとするクリスを慌てて止めた。
(脱がんでいい! 脱ごうとするな! 鎧の上から良いから!)
(そう? じゃあ)
いそいそと鎧を着だす彼女を見ながら、深呼吸を一つ。
(後ろを向いてくれ。)
(了解。)
彼女の背中を見ながら、俺は思った。
彼女の信頼に、俺は全身全霊をもって応える。
(よし、いくぞ……「クリス・モード」!)
俺は変形し、ピタリとクリスの背中に張り付いた。
背中から肩、両腕、腰、脚へと広がり、全身の背面を覆っていく。頭も頭頂まで包み込む。
これは外骨格だ。 当然体重を支える際のサポートも行う。
(ねえ、イチロウ。)
実際に張り付いた後で彼女に無理な力が加わっていないか確認していると、クリスが声を掛けてきた。
(どうした? 何か問題ありそうか?)
(えっとね、今のスキル名、何?)
(「クリス・モード」の事か? クリス専用のスキルだから、こう命名した。)
(!! このスキル、私専用なの!?)
(ああ。 何か問題あるだろうか?)
(ええっと、その、専用って、あ、いや。)
なんだ? どうしたんだ、クリスは。
挙動不審だ。
(ええーと、名前ね、その……その名前に、するの? スキル名。)
言いにくそうに彼女は聞いてきた。
(ああ、いい名前だろう?)
俺は胸を張って答えた。
(そうかな……? そーかなぁ!?)
俺には理解できないクリスの困惑が、叫びとなって念話を震わせた。
第25話 完




