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第22話

第22話




(……取り乱して、御免なさい。)



しばらく後ベッドに座りながら、自分に言い聞かせるように彼女は言った。



(想定外に取り乱す、それが人だ。 気にする必要はない。)



俺は椅子上に移動して、クリスを見つめた。


彼女はちらりとこちらを見て、微かに微笑んだ。



(……話せるか?)


(ええ。)



水筒を取り出し、一口飲んで彼女は机の上を見ながら話しだした。


その内容は、こうだ。



「料理システム」を構築する「女王級ゴブリン」はその性質上、人が作った建物跡に居を構えることが多い。


ホブゴブリン等を洗脳して、「厨房」を作らせるのに都合が良いからだ。


建物に階層があった場合「近衛級ゴブリン」”レッドキャップ”は、厨房がある階層と、女王がいる階層にのみ出現することが知られている。



「厨房が存在しない階層に、”レッドキャップ”は出現しない」



これが「女王級ゴブリン」攻略の大前提となっている。


無論戦闘状態になった場合は別だが。



元の建物に、人間が「厨房」として使用していた部屋がある場合、ほとんどが同様に使用される。


この要塞で言えば、1階の例の「厨房」だ。


だが群れの規模によっては1箇所では追い付かず、増設されることもある。



クリスが国から提供された地図には、厨房は1階のみ。


故にクリスの班は、俺と同じルートで建物2階に外部から潜入。


2階に「厨房」が増設されている事を想定にいれつつ、慎重に進んだが”レッドキャップ”と遭遇。


他の”レッドキャップ”との連携を避けるため、侵入口までの撤退戦を開始。


しかし想定外の攻撃力に失敗、クリスを除いて全滅した。



(……つまり2階に「厨房」はあるはずなのよ。 そうでないとおかしい。)


(見逃しは、無いと思う。 変に空いてる空間も無い。 そもそも「厨房」があれば、洗脳ゴブリンが出入りするはずだよな? しかし2階では1匹も出会わなかった。)


(…………。)



俺はクリスから視線を外し、中空を意識しながらしばらく考えた。



(……逆かもしれないな。)


(え?)



彼女が俺を見た。



(2階に「厨房」が無いのがおかしいんじゃない。 「厨房」が無いのに見回っている「帽子」がいる。 そいつがおかしい、そうは考えられないか?)


(……イチロウもその”レッドキャップ”に遭遇したのよね? 何か変わった事に気が付かなかった? 私は突然だったし、暗闇で赤い帽子を被ってる事しか記憶にないの。)


(変わった事と言ってもな……。 帽子に飾りが付いていなかったから、1階で見た奴とは別個体だなと判断した事くらいか。)


(飾りが付いていない? ……妙ね。 ”レッドキャップ”はそれぞれ別の飾りを付けてるの。 理由は分からないけど、人間側はそれを個体識別に使ってるわ。)


(関係は、有るかもしれないな……。)



仮説を作ることは可能かも知れないが、検証する余裕は恐らく無い。



(クリス。 「毒」の回収は一時中止しても良いか? 扉は君に開けてもらう必要があるが、いまの状態で2階に行くのは危険だ。)


(……分かったわ。 何か考えがあるの?)


(ああ、先に俺の「戦力」を確かめておきたい。 聞きたいんだが、「料理システム」の働き手である「洗脳ゴブリン」を直接叩く事に問題はあるか?)


(あるわ。 外部要因での「働き手」損失は、”レッドキャップ”の過剰反応を引き起こすの。 なので外部のゴブリンが減って”レッドキャップ”が「厨房」や「女王級」の傍を離れる段階になってから叩くのが定石よ。 逆に外の低級ゴブリンとはたとえ戦闘になっても、”レッドキャップ”は出てこないわ。)


(分かった。 それから……、)


(それから?)


(あーこれはまあ、その時になってみないと分からないので、また後で。)


(? そう? あ!それとね……えーと。)



彼女は言いにくそうに両手を絡ませてワキワキしている。


癖なのかな、これ。 かわいいかよ。



(うん?)


(その、もし「厨房」に行くなら、材料のみって持ってくることは出来る? 出来れば、で良いんだけど。)



なるほど。


クリスが持っているのはあくまで「非常食」。


長期戦には心もとない。


恐らく2階におきっぱなしの荷物には、「食料」も含まれるのだろう。


食いしん坊のクリスさんには切実な問題でしょう!


ちょっとニヤけてしまった。



(何だか不穏な波動を感じるわ。)


(気のせいだ。 気のせい。 ちょいと行ってくる。)


(気を付けてね!)



イエッサー、司令官殿。


俺は最大限「周辺探査」をのばして慎重に、しかし快速で壁を移動した。


レベルが上がって移動速度が明らかに増している。


障害物の無い直線の廊下に出たら新しく手に入れた最大1km探査、通称「スポット」を起動。


廊下の先まで探査。


敵影無し。


障害物で完全に止まるので十字路等では注意が必要だ。



広間を抜け、ダクトから「厨房」に侵入。


調理に勤しむ洗脳ゴブリンの頭上を通り、材料が置いてあるエリアに移動。


瞬間移動、通称「ワープ」も使い、「ストック」可能範囲内に。



(ほいほいっと。)



ジャガイモやニンジンらしき物体を「ストック」。


何処かで栽培でもしてるんだろうか。


建物内じゃない?


広場のどこかか?



まあいい。


ついでに料理もいくつか頂いておいた。


いそいそとクリスの元に戻り材料を出して彼女を喜ばせてから、俺は1階北にある出口から外に出た。




希望を求めてたどり着いた、外。


絶望しか与えてくれなかった、外。



大量のゴブリンの騒がしい声が聞こえてくる。


だが今回は、お前たちを乗り越えるためにここに来た。


前に進む為に、ここに来た。



インベントリ内のデバフを確認する。


おれは静かに心の中で、反撃の狼煙を上げた。




第22話 完






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