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第21話

第21話





十字路を東へ、か。



1階の天井崩落部分から2階に上がり、最初の十字路を「調べる君」で調べ終わった。


クリスの記憶する破壊工作班の侵入ルートを辿って、彼らの荷物の確認と回収が今回の目的だ。


無論2階部分の探査とMAP作成も兼ねてる。



実をいうと、要塞のMAPをクリスは持っていた。


まだ人間が利用していた頃のものだが、潜入するなら持ってて当然か。


だが俺には利用できなかった。


見れなかった、と言った方が正確か。


紙に書いてある内容を、ポリゴンである俺の「周辺探査」は認識できなかったのだ。



だからガラクタ置き場から適当に拾ってきた木片を、彼女が机の上に並べて説明してくれた。


回収は彼女も同行したがったが、たまにふらつく事がある。


却下した。



目標はクリス達が要塞に持ち込んだ「毒物」の回収だ。


俺のインベントリにも「ポイズンLv2」等があるが、広場にウジャウジャいるゴブリン相手だと圧倒的に数が足らない。


そもそも効くかどうかも、分からない。


もし荷物が「帽子」に回収されていれば、その時はまた別の手立てを考えよう。



……ククッ。



十字路を東に折れた後、まっすぐ進みながら俺は何となく笑ってしまった。


クリスの話を聞いて散々「近衛級」だの「レッドキャップ」だのとインプットしていたのに、自分で付けた「帽子」という呼び名に戻ってしまう。


何故だろう、呼びやすいからか?



そんな事を考えながら両側にずらりと並んだ小部屋を無視して、


正面の大きい出入口の手前で立ち止まり、その向こうを「調べる君」で探査していく。


1階によく似た広間だが、広さははるかに小さい。


東側の壁もすぐに見つかり、天井を進んでそこまで移動した。



今来た所から、まっ直ぐ東に進んだ場所に同じような出入口。


中を探査後、進んで行く。


十字路をさらに東。


あれか。



広間を中心にとして俺がクリスと出会ったドームの反対側に、同じ構造がある。


慎重に中に入る。


ドームの天井まで移動しつつ、探査で……あれ?


中央にバッグが一つ、ぽつんとあった。



聞いていた「毒」の運搬用のものではない。


このドームでクリス達は「帽子」と戦闘になった。


倒された4人の誰かの個人的な持ち物だろう。



回収しようと降りかけた所で、俺は止まった。



死体は無い。


「帽子」が持ち去ったのか。


あるいは1階にいた洗脳ゴブリンが片付けたのか。



だが何故この荷物だけがここに置いてある?



「料理システム」を構築する「女王級ゴブリン」。


知性はかなり高いだろう。


ではそれが生み出す護衛の「帽子」は?



嫌な予感がした。


このバッグを回収するのは、「クリスの生存の証」となる気がしたのだ。



彼女が毒に侵されていたのは、恐らく「帽子」も分かっているだろう。


人知れず息絶えていれば良い。


しかし荷物が回収されれば?



流石に考えすぎかとも思った。


このバックに入っている携帯食は、確実に彼女を喜ばせるだろう。


だが……。



結局俺はこのバックをそのまままにする事に決めた。


「毒」は彼らが荷物置き場として使っていた、小部屋にある。


ドームから南に出ると両側に小部屋が並んでいる、その中の1つだ。


ここからは全ての小部屋を「調べる君」で徹底的に探査してから前進した。



クリスの言葉を思い出す。


(いくら強いといっても、1匹相手に撤退すら出来ないなんてここのレッドキャップは異常だと思うわ。)




異常なのはこの要塞の「全ての帽子」か?


それとも、2階で見た「帽子に飾りが付いていない」あの個体?




俺は予定の部屋を通り過ぎて、通路端までの全ての部屋の探査を終えた。


…………。


「帽子」の気配は無かった。


その事には安心したが、大問題が一つあった。



「毒」のバックが置いてある部屋。


そこには「扉」があったのだ。


ノブを回して開けるタイプだ。


回さないと、開けられない。



話の中で触れてはいたが、クリスは人間だ。


「俺には”手”が無く細かい作業は出来ない」事など、忘れていても無理はない。


まあ俺も忘れていたんだけどね!



扉の隙間から「調べる君」で中は探査済だ。


荷物の存在は確認している。


だが「ストック」の範囲外だ。


そしてこう……ダメだな。


たとえ範囲内でも「ストック」する対象が移動できるスペースが無いとインベントリに入らない。


扉のすぐ傍に箱のようなものがあるが、動かせない。



(セバス。)


(お呼びでしょうか、旦那様)


(念話の届く範囲は?)


(障害物のない状態で、およそ30mで御座います。)


(分かった、有難う。)


(…………。)


(? どうした?)


(今日はつっこみは、されないので?)


(今の会話の何処に突っ込む要素があるんだよ!?)


(失礼いたしました。 それでは。)



俺を何だと思ってるんだ、奴は。


さて、ここは一旦置いといて先にMAPを埋めてしまおう。


「帽子」を警戒しながらは正直疲れる。


だが、焦る必要はない。





だはー!


ちかれた!



思った以上にへとへとになりながら、俺は秘密基地に戻ってきた。


2階は全て探査し終えた。


一番南には上下に続く巨大な階段があった。


下に行けば、恐らく1階の広間の奥、つまり南側に出る。


なるべく近寄らない様にしながら探査した。



「帽子」には出会わなかった。


何ならゴブリンには一匹も出会わなかった。


恐らくあの「洗脳されたゴブリン」は特別なことが無い限り、2階には来ない。



(ただいま戻ったー。)


(……! お帰りなさい!)



クリスは椅子に座り、机に紙を広げて何やらメモを書いていたが、俺の念話を聞いて立ち上がった。


壁には俺が用意したラグが掛けられ、模様は見えないものの、殺風景な空間が華やいだ感じがした。



(無事? ケガとかはしてない?)


(大丈夫だ。 「帽子」に出合う事も無く、2階の探査は全部終わった。 「毒」の位置も確認できた。)


(そう、良かった。 ……位置を確認? 何か問題があったの?) 


(あーえっとね……、)



俺は正直に扉の事を話した。


こういうのは変に胡麻化さない方が良い。


顔色が見えたなら、真っ青になっていたであろうクリスは平謝りだった。



(御免なさい! 話では聞いていたはずなのに……。)


(気にしない、気にしない。 そもそも今回俺自身もドアの事なんて忘れていたんだ。 それに、2階の探査はどの道必要だった。)



彼女はホッとした様子で椅子に座りこんだ。



(そう、有難う。 ……あなたは本当に頼りになるわ。)



おいよせ。


そんなこと言われたら、張り切ってしまうだろう!



(2階は探査したのよね? じゃあ……「厨房」はどのあたりだった? やっぱり階段近く? 1階の位置は予想通りだったんだけど、2階に増設されている事は事前に分からなかったの。)



クリスは要塞の地図らしきものをを広げながら尋ねて来た。



(うん? 2階には無かったぞ。 今の所1階のみだ。 確認はしてないが3階にも多分無い。 洗脳ゴブリンの行き来が全く無いからな。)



俺は探査した結果を思い浮かべながら、何の気なしにそう答えた。



机から筆記道具が落ちた。


俺が用意した羽ペンではない。


彼女が自分で持ってきたマイペンだ。


ストックで回収して机の上に置く。


俺はそこで、クリスがガタガタ震えているのに気が付いた。



(おい! どうした!?)


(そんな、そんなはずは無いわ! ならどうして私たちは「レッドキャップ」に出合ったの!?)


(おい、クリス! どうしたんだ?)



俺の言葉に反応せず、視線をさまよわせて彼女は呟いた。



(どうして……。)



彼女の疑問に、おれは答えを持ち合わせていない。


机の上のランプのほのかな光が、困惑に揺れる彼女の横顔を照らしていた。




第21話 完



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