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第20話

第20話




そこに感情を乗せてはいけないと自制するかのように、表情を消して彼女は語った。



(女王級となった雌ゴブリンは高エネルギーを糧に、大量のゴブリンを生み出してすさまじい規模の大集落を作るわ。)



俺は要塞の広場を埋め尽くすゴブリンを思い出した。



(そのエネルギーを確保するために女王級はある特異な行動をするの。 ……料理システムの構築よ。)


(料理システム?)



聞きなれない言葉に、思わず聞き返した。



(料理を行うと食材そのものを摂取するより、エネルギー獲得量が大幅に増えるの。 でもゴブリンに料理を行う知性は備わっていないわ。)



回復量の違いは合点がいった。


料理するという行為そのものが、ENG回復を劇的に増やすのか。


しかし、そうであれば矛盾が生じる。


コブリンが作った料理で回復量が増えているんだから、ゴブリンは料理をしているはずだ。



(だからゴブリンの上位種、ホブゴブリン達を洗脳・操作して、料理を作るための環境を整えさせるの。これは全ての女王級が本能的に行ってるわ。 もちろん——)



クリスは先ほどまで料理があった机を見た。



(ここでもよ。)



その瞬間、俺の中で様々なピースがカチリと組み合わさったような感覚が起きた。


そうか、だからあんなに違和感があったのか。


建物内のゴブリン達は、料理をしていたんじゃない。


させられていたのか。


その為に不要な、いやむしろ邪魔になりそうな凶暴性を洗脳で抑え込んで。



用意した(料理)が無くなるといったイレギュラーが、洗脳からの一時開放を引き起こしたんだ。


小部屋で生活せず、広間で雑魚寝しているのもそうか。


文化があって料理をしていた訳じゃ無いんだ。


目的はただ、料理で高エネルギーを生み出して、それを女王級に……。



そこではたと気が付く。


今の俺は、「料理」ありきの生存戦略になっている。


言ってみれば、「女王級のおかげ」なのが皮肉だ。



(どうかした?)



俺が黙り込んでるのを見て、クリスは少し心配そうに聞いてきた。



(いや……今まで感じてきた違和感の答えが分かった気がする。)


(そっか。 ……それでね。)



彼女は再び話し始めた。



(エネルギー獲得に目途が立った女王級はほとんど動かなくなり、ゴブリンを出産することに専念するようになるの。)


(女王アリみたいなものか。)


(まさに女王級のネーミングはそこから来ているわ。 その時から女王級は、特殊なゴブリンを生み出すようになる。 それが……近衛級。)



クリステリアは俺を見た。 


怖いくらいの、眼差しで。



(背丈はホブゴブリンより小さいけど、特徴的な赤い帽子を被ってる。 通称「レッドキャップ」と呼ばれているわ。)



やはり「帽子」のことだ。


俺に色は識別できなかったが、あれは赤いのか。



(桁違いの戦闘能力を持っていて、名のある騎士や冒険者が何人も倒されてる。 通常1匹の女王級が生み出す近衛級は3~5匹。 女王級の危険度が跳ね上がる一因になっているの。)



ふうーと長い息を吐き、(でもね)と言って彼女はベッドに倒れこんだ。


中空を見つめながら、



(戦闘に入ってから、私以外の4人が倒されるのに1分も掛からなかった。 いくら強いといっても、1匹相手に撤退すら出来ないなんてここのレッドキャップは異常だと思うわ。 もちろん直接対決は初めてだけど、想定した訓練とはまるで違ったもの。)



俺は最初「巨大な肉食恐竜」だと思った、レッドキャップ達を思い出した。


遭遇したのは3回、おそらく全て別個体。


あと2匹も追加で存在する可能性があるのか。



(なあクリステリア。)


(……クリスと呼んでくれると、嬉しいわ。)


(分かった。 クリス。)


(なに?)


(討伐隊はいつ頃来るんだ?)


(……遅くとも2週間後には。 その頃には準備がすべて終わって要塞門外に集結してると思う。)


(そうか。 それで……。)


(……。)


(君は、どうす……)


(使命を果たすわ。)



どうするんだ? と問いかけた、俺の言葉に被せる様にクリスは答えた。



(その為に、ここに来たの。)


(そうか……。)


(ふふっ。)


(?)



不思議そうに見ていると、彼女は顔だけをこちらに向けて笑いを堪えるように言った。



(助けてもらって、ベッドまで用意してもらった私が言うセリフじゃないわね、これ。)


(反応に困るわ!)


「アハハハ!」



クリスは念話ではなく、声を上げて笑いかけ、慌てて口を閉じた。



(それで、どうするつもりだ? 潜入後の具体的なプランは?)



ドーム出入口から廊下部分に伸ばしている探査範囲に、異常が無い事を確認しながら俺は尋ねた。


新しく採用したスポットタイプも使いたかったが、本体から視線が通っていないと無理だった。



(計画では最初に外部の低級ゴブリン対策からよ。 水源地に毒素を流し込んで数を減らし、群れの弱体化を図るわ。 急速に群れの数が減ると女王級は補充の為、普段より多くのエネルギーを消費するようになる。 急に消費量が多くなると、システムのリソースが不足するようになってくるの。)


(つまり料理の材料が不足してくる、という事か。 まるで兵糧攻めだな。 毒で直接女王級や近衛級は叩けないのか?)


(駄目ね。 低級には効くんだけど、奴らに有効な毒は見つかっていないわ。 そして毒で群れの数が一定を下回ると近衛級が女王級の傍を離れるの。 全部では無いけど、一部がここの場合だと広場に出てくるようになる。)


(なるほど)


(この時点で騎士団や上級冒険者を広場に投入、近衛級の各個撃破を図る。近衛級さえ倒せれば、女王級の排除は難しくないわ。 ただ……、)


(ただ?)


(近衛級が倒されると、女王級は新たな近衛級を生み出そうとする。 なので近衛級撃破は時間との勝負になる事が多いみたい。 その際莫大なエネルギーを消費するので、それまでにどれほどリソースが削れるかも重要ね。)



思っていたよりずいぶん複雑な工程だ。



(人数揃えて一気にドカーン!とはいかないのか?)


(昔はそうだったらしいわ。 成功はしたみたい。 多大な犠牲を払ってね。 厄介なのが近衛級同士の連携ね。 これを防ぐため考えられた作戦と言って良いわ。)


(……そうか。)



それはヤバい。 1匹でも大変なのに複数の連携とか、絶対に避けたい事態だ。



(じゃ、まずは水源地への毒混入だな。 俺も協力するぞ。)



話を聞いて、いくつか思いついたことがある。


低級ゴブリン撃破は、恐らく俺にとってもメリットが大きい。


あとこの子、協力しないと無茶しそう!



(ありがとう! 正直貴方の協力は何よりも有難いわ! えーーーと、でもね……。)


(うん?)



クリスは目を逸らしながら、指を下腹で組んでワキワキしている。


何だそれ、かわいいかよ。



(その、使う予定の毒ね。 2階にある小部屋に、置きっぱなしなの。)


(今持ってないのに、あんなカッコつけてたの!?)



てへ、という擬音が聞こえてきそうな彼女のセリフに、おれの突っ込みのブレーキは間に合わなかった。




第20話 完



 




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