第1話
初めての作品、初めての投稿、ドキドキしますね。
第1話
体を震わせるような振動で、沈んでいた意識がゆっくりと浮かび上がってきた。
大量の水が勢いよく流れているかのような、音が聞こえる。
その音は何度も反響し、辺り1面を満たしていた。
……洞窟?
音の正体を確かめようと、意識をそちらに向けた。
だが、視界に広がるのはどこまでも続く暗闇だけだった。
光源は一切ない。
平衡感覚を失いそうな、完全な闇。
……俺は、寝転がっているのか?
いや、立っている?
自分の今の体勢が、分からない。
足裏が地面に触れている感覚も、背中を床に預けている感覚もない。
手探りで、自分の周囲を探ろうとする。
……ん?
手足が動かない。
いや、違う。
手足が、無い。
混乱した俺は、周囲を見渡そうと首を動かそうとした。
……動かない。
首も、頭も無い!?
恐怖に駆られ、叫ぼうとした。
……声が出ない!
口が、口が無い!?
俺はパニックになった。
何だこの状態は!
落ち着け、とにかく、落ち着け。
深呼吸を試みる。
出来ない。
息を、していない。
行おうとした確認がことごとく失敗して、
逆に俺は少し冷静になった。
俺は、どうなった?
ひょっとして、死んだのか?
意識が戻る前の事を、思い出してみる。
思い、出せない。
名前、住んでた場所、家族の顔。
そういったものが、思い出せない。
ただ、現代日本に暮らしていた。
それは何故か、覚えている。
そこで得た知識や文化は、記憶にある。
ここは、どこだろう?
死後の世界、だろうか?
しかし違和感がある。
体だ。
俺は意識を、自分の「体」へ向けてみた。
おっ?
なんとなくだが、自分の体の形が分かる。
直径30センチほどの、丸みを帯びた饅頭型。
…………。
——はぁ!?
いやいやいや、待て待て待て!
どういう事だ?
材質は……何だこれ?
ゼリー?
固形物のようでもあり、液体のようでもある。
それでいて表面は濡れておらず、不思議とさらさらしていた。
どう考えても、人間の体じゃないぞ。
いや、この特徴。
まるでゲームに出てくるスライムだ。
もう一度、体を動かそうと試みる。
スライムが動くように。
スライムになった経験も、
スライムを動かした経験も、
勿論ないが。
だが、おお……動くぞ。
足は無いが、地面を滑るようにスーッと進んでいく。
意外と滑らかだ。
少し、坂になっている所も、滑り落ちない。
ちゃんと踏ん張れる。
というか、くっ付いてる?
試しに軽く跳ねてみた。
いける、まだ高く跳べそうだ。
……っと、いかん。
完全な暗闇の中で動き回るなど、自殺行為だ。
うーむ。
死んだ訳では、無いらしい。
スライムだって生き物だろう。
生き物だよね?
生きたスライムなんて、実際見た事は無いが!
少なくとも動けるのだ。
しかし、どうしたものか。
動けるといっても真っ暗闇だ。
視界が確保できないと、どうしようもない。
何か光を出す手段は無いか?
光あれ!
両手を広げた気分になって、
天に向かって叫んでみた。
ダメだ、光は来ない。
俺に天地創造は出来ないらしい。
何か持ち物は……。
暗闇の中、慎重に円を描くよう移動してみる。
手は無いが、体に触覚はある。
何か落ちていないか、地面に接した体で探す。
…………。
無い。
少量の砂と、砂利。
それだけだ。
じわじわと俺の心に影が差す。
嫌な想像が頭をもたげて来た。
ひょっとして。
もう、終わっているのか?
努力や工夫でこの状況を乗り切る機会は、
俺が意識を失っている間に失われ、
失敗した結果だけが、終わりの時を待っているのか?
先程までの楽観的な気分が、急速に冷えていった。
おい待て。
何か、あるだろう!!
おい!!
待ってくれよ。
何に失敗したか位、教えてくれ!
せめて持ち物の1つくらい……。
暗闇の中で絶望に飲み込まれそうになったその時、俺ははっと気が付いた。
ゲームに出てくるスライム。
持ち物。
まさか。
俺は深呼吸をしたつもりになって、
その「言葉」を心の中で唱えた。
ステータス。
パッ。
その瞬間。
まるで「やっと気が付いたか」と言わんばかりに、
真っ暗だった視界へ、白く光るウィンドウが次々と浮かび上がった。
★ステータス
名前:未定
種族:ケイブスライム
レベル:4
ENG:500/500
BP:100/100
状態:通常
ステータスポイント:4
★スキル
「周辺探査Lv1」
「吸収Lv1」
「ストックLv1」
「フィルターLv1」
★インベントリ(所有枠)
なし
…………。
ステータスが、あった。
これは、ゲーム?
いや、
異世界転移?
そんな知識が俺にはある。
しかもかなり好きなジャンルだ。
こんな形で、自分が放り込まれるんじゃなかったらな!
はぁはぁ……。
まあ良い。
暗闇の中で何の手段も無い。
そんな風に、いきなり詰ませる気は無いらしい。
それだけでも、今の俺には有難かった。
白く光るウインドウが見えるが、その光は周りの景色や地面を照らさない。
恐らく頭の中にだけ見えてる感じか。
スキルに目を向ける。
「周辺探査Lv1」
これだ。
恐らく今の俺に、最も役に立ちそうなスキル。
使うのは、どうすれば良い?
スキルに集中。
「周辺探査」
その瞬間。
体の中心から、何かが波紋のように周囲へ広がった。
範囲は、およそ半径2m。
見えた。
……いや、感じる。
視覚とは異なった感覚。
それなりに平らな地面に所々岩が突き出ている。
左側はなだらかに下っており、その先の水音が1番大きいように思える。
多分進んだ先は川、というよりは急流だろう。
上につららみたいなものが見える。
ここは鍾乳洞のような場所らしい。
光が現れた訳では無い。
それなのに周囲の地形が頭の中へ、自然と浮かび上がってくる。
この感覚を表すなら、「見える」ではなく、「感じる」が一番近い。
でもまあ「見える」で良いか。
「感じる」を連呼してたら、ちょっと危ない人だ。
人じゃなくてスライムだけどな!
そう思いながらも、感動はした。
光源無しで半径2mの地形が把握できる。
これは素直にすごい事だ。
……ただし。
色は無い。
白と黒の2色のみだ。
おまけに解像度が低い。
まるでローポリゴンで作られた、ゲーム画面のように全体的に粗い。
……まあ、それでも十分だ。
周囲が分かれば移動できる。
移動できれば探索できる。
探索ができれば、この状況を打開できる可能性は一気に高くなるはずだ。
何1つ解決した訳じゃない。
自分が何者なのか、
この世界が何なのか、
まだ何も分からない。
それでも――
暗闇の中に、小さな希望が確かに灯った。
第1話 完




