第18話
第18話
怒涛の「帽子」連続遭遇でヘロヘロだったが、何とか「秘密基地」にたどり着いた。
彼女をそっと煉瓦の床に横たえる。
バックもすぐ横に置いた。
…………。
考えることが多すぎる。
複数の「帽子」。
フィルターの新機能。
新たなデバフ「ニューロトキシンLv3」。
そして2階で「帽子」から隠れる時、最後に発動した短距離ワープ。
最後のは、完全に新機能。
そして、「異質」すぎる機能だ。
秘密基地の洞窟部分に出る。
少し先をを指定して集中。
「ワープ」
音もなく一瞬で移動完了。
最大移動距離は3m。
ENGの消費は50。
燃費は、悪い。
しかし料理が大量にあれば、運用に困ることは余り無いだろう。
「周辺探査Lv4」で追加された機能だ。
秘密基地の出口から下に降りる。
ドームの出入口から、常に「周辺探査」を廊下に広げている。
「周辺探査」というスキル。
スライムが目の代わりに周りを認識するスキルだと思っていた。
実際そう作動した。
だがこの「ワープ」は、全く異なる能力だ。
スライムって何なんだ。
ガラクタの山の前に立つ。
まあ今はそんな事より、喫緊にやるべきことがある。
最優先事項だ。
(セバス。)
(お呼びでしょうか、旦那様。では駄洒落を一つ。)
(前は下らんとか言ってすまんかったけど、根に持ってんじゃねーよ! そうじゃなくて、お前に相談がある。)
(お伺い致します。)
(女性を連れてきたが、意識が無い。このまま煉瓦の床に寝かせとくのは、さすがに気が引ける。 どうすれば良い?)
(なるほど。 ではこのガラクタの山から使えそうなものを、と?)
(そうだ。)
(承知いたしました、それでは……。)
ベッドの上で彼女が身動ぎしたのを感じた。
俺は考察を止め、じっと彼女を観察する。
彼女が目を、開けた。
良かったー、このまま意識戻らなかったらどうしようかと思ってた。
部屋は2階のドームと同じく真っ暗闇だ。
ランプを使いたかったが、細かい作業は出来ないので諦めた。
今は設置した机の上に置いている。
彼女はしばらくボーっとしていたが、自分がベッドに寝かされていると分かったらしく、暗闇の中手探りで周りを確認してる。
すぐそばに置いていた自分のバックに気が付いた。
起き上がろうとして、首のあたりに何か異常を感じたのか、手でさすってる。
運ぶときに首ガクンガクンしてたからね。
ごめんよ。
バックを開け、ごそごそと中を漁ってる。
あーでもない。
こーでもない。
といった感じだ。 かわいい。
やっと目的のものを見つけたのか、何か細長い物を操作した。
次の瞬間小さな光が、小部屋を照らし出した。
キョロキョロと周りを見渡してる。
俺が用意したのはベッド、シーツ、ラグ、小さな机、イス2つ、ランプだ。
筆記用具もある。
壁掛け用のラグもあるが、掛けることは出来なかった。
しばらくして、彼女は椅子の上に乗ってる俺に気が付いた。
ポリゴンでも、美しい女性だと分かる。
肩まで伸びたサラサラのストレートの髪。
年齢は、幼い感じではない。
成人はしている気がする。
「……スライム?」
綺麗な声だ。 かわいい。
……じゃない。
(セバス。)
(お呼びでしょうか、旦那様。)
(発声モードを頼む。)
(現在修復シークエンス進行中につき、ご利用できません。)
(えっ。)
ちょっとまて!
この瞬間の為に契約したんだぞ!
当てが外れた俺は混乱した。
仕方ない、身振り手振りで……、
手は無いが!
俺は小さく跳ねた。
びくっとする彼女。
大丈夫だよー心配ないよ!
俺良いスライム!
もう一度跳ねる。
リズムよく。
ポンポンポーン!
「スライム、よね? でもかなり大きい。 リズムがある? ……知性が、ある?」
バッ!
彼女はベッドの上で片膝立ちになり、腰から短剣を取り出して構えた。
彼女から感じるのは敵意というよりは、恐怖?
ええええ!?
なんで?
(旦那様。)
(何だ!? 俺は今忙しい!)
(念話は、お使いにならないので?)
…………。
(早く言えよ! どうすればいい?)
(少々お待ちを。)
警戒MAX状態の彼女の顔が、驚愕に変わった。
「念話要請!?」
しばらく逡巡した後、
「承諾するわ。」
そう言った。
うはー緊張する。
(あーテステス。)
(…………。)
(初めまして、だな。 俺の名はイチロウという。 気分はどうだ? 痛むところや、体の不調は無いか?)
彼女の顔が、困惑に満ちる。
(もしかして、目の前のスライムが話しかけてる? そんな訳無いわね。 どこに居るの?姿を見せて。)
(そんな訳ある。 話しかけてるのは、君の目の前にいるスライムだ。)
目を見開いて、俺を見る。
穴が開きそうだ。
(そんな、まさか……。 知性のあるスライム? いえ、むしろ人間と会話しているような……。)
(驚くって事は、そういうスライムは珍しいって事かな。 ただまあ……。)
彼女が信用できるかは、分からない。
情報は、あまり出さない方が良いのかもしれない。
でも。
ダメだったらそれでも良いかと、俺は腹をくくっていた。
人間との会話。
彼女との会話。
それに縋り付きたかったのかもしれない。
論理的ではない何かが、俺を突き動かした。
(中身は、人間なんだけどね。)
暗闇の中、ポリゴンで表された彼女が俺を見る。
長い話に、なりそうだ。
第18話 完




