第16話
第16話
要塞建造物の南西部、山岳部と融合している部分の手前に人が通れる程の穴が開いていた。
高さも2階部分と思われる段差からすぐだ。
えーと、何だったかな。
……そう、これだ。
「調べる君」
中は小部屋だ。
穴から入って正面、東側に出口。
その先は廊下の様だ。
小部屋に入ってみる。
家具等は無い、がらんどうの部屋。
廊下の手前で止まる。
ここは1階で言えばどの辺だろう?
進んだ経路と地形を整理して……。
あれ?
視界の右上の方に小さい円のような物がある。
こんなのあったっけ?
何の気なしに押してみる。
ポチ。
その途端小さい円は広がり、地図の上空からの俯瞰図がそこに表示された。
!!
ミニマップか、これ!
中心に自分の位置が表示されてる。
これは良い!
今までのMAP機能は進んだ地形が記録されるという物だったが、俯瞰的に見れるものではなかった。
おおお、深度も変更できる! すごいな立体対応か!
恐らくこれ、「周辺探査」Lv4の追加機能だな。
それによると、ここは1階で言えば秘密基地のあるドームよりも少し南側だ。
廊下は南側は行き止まり、北に向かって伸びている。
両側に小部屋が並び、50mほど先に大きな出入口。
小部屋には朽ちかけているが、扉が付いてる物もある。
廊下の天井は1階と同じく6m。
部屋から出て壁を登り、天井を進んでいく。
先程から感じていた事だが、「調べる君」の展開が明らかに速い。
しかも複数同時に出来る。
レベルアップの恩恵だろう。
ゴブリンの気配は全くない。
小部屋を探査しながら、一番北の大きな出入口へ。
中は、かなり広い。
ドーム型の巨大な部屋、高さは20mくらいあるか。
入ってすぐ壁面を上に移動。
天井近くで止まる。
今入ってきた南側の他に、東側に大きな出入口。
意匠なのか天井近くに外側に向かって窪みがあり、ぐるりと床と平行に部屋を囲っている。
北側の床近くの壁は大きく剥がれ、その塊が床に落ちている。
……うん?
その塊と壁のわずかな隙間に、見逃してしまいそうな位薄っすらと「生体認識」のピンクの色が見えた。
そろりと近づく。
形は細長く、長さは1.5mを越えてる。 幅は50cmくらいか。
いやそれより!
そんなに大きいのに、ポリゴンが表示されていない。
「周辺探査」自体には空白しかないのだ。
???
まず頭に浮かんだのは、幽霊。
やめてくれよ!
俺苦手なんだよ!
いやしかし、幽霊に生体反応ってどうなんだ。
人工知能に反応したのは良いが、幽霊はやめて!
というか、かなり遠くから反応拾ったな。
これ生体認識の範囲、スキルレベルと共に上がってるな?
泣きそうになりながら、ゆっくり近づく。
2mの詳細範囲に入ると、違った反応が現れた。
!?
箱?
いや箱というより、個人用テントみたいな形だな。
透明だが、存在を感じる。
薄っすらとした「生体反応」を包み込むように展開されている。
……これ、遮蔽の魔道具か何かか!?
中身の存在を隠す用途の。
じゃあ中身は!
透明テントの内側に体が入った。
抵抗は無い。
物理的なものでは無いみたいだ。
そして中には、小柄な人間が横たわっていた。
…………。
髪の長さは長くいない、肩までだろう。
革鎧を着てる。
すらりとした体形だが、鎧の胸部の膨らみが女性であることを示している。
……人間だ。
人間だ!!
声を掛けようとして、俺は彼女の様子がおかしい事に気が付いた。
目を瞑って、息が荒い。
ハッハッハッと短く息を吐いている。
意識があるように見えない。
病気!? あるいは毒か?
俺はアワアワした。
俺が持ってるのは病気や毒を「付与」するもので、治療する能力ではない!
動揺して傍に置かれている黒い箱に体が当たった。
テントが揺れる。
これがテントを作り出してる魔道具のようだ。
その横にカバンがある。
しかし開いてない!
きっちりと閉まっている。
空中に投げて開けるのは無理だろう。
何かないか!?
自分のスキルを見る。
関連がありそうなのは、
「ストック」「吸収」「フィルター」
この三つか。
「ストック」はLv2で近距離が可能となった。
他の二つはどうだ?
まずは彼女を蝕んでいるデバフを、
「ストック」
…………。
ダメか。
「吸収」
……反応なし。
「フィルター」
これで、どうだ!
フィルター: ニューロトキシンLv3 ×5
しゃっ!
思わずガッツポーズ。
「フィルター」は体外で作動可能だった。
物凄く不穏な名前の効果が、インベントリに入った。
自分でやっといて何だが、この機能やばくないか?
味方が受けたデバフを吸い取って、敵に付与できる?
強すぎない?
と、それより彼女だ。
ポリゴンの目には顔色は分からない。
だが呼吸の頻度が緩やかになっている。
危機的状況は脱したか?
俺は安堵でへたり込みそうになった。
その瞬間——、
ドームの東出入口から伸ばしていた「周辺探査」が、
「巨大な肉食恐竜」を感知した。
「帽子」だ。
存在しない心拍数が跳ね上がった。
ゆっくりだが、まっすぐ近づいてくる。
どうするっ!?
この「テント」は安全か?
ここに入っていれば、やり過ごせるか?
——無理だ。
理由は無い。
論理的ではない。
だが俺に発見できて、奴に発見出来ないはずはない。
本能的な閃きで、俺はそう判断した。
彼女のカバンを「ストック」。
一瞬迷い、魔道具の黒い箱はそのままにしておく。
彼女を押して背中を向けさせ、そこに「魔力粘着」。
さらに壁に粘着、彼女を引っ付たまま上を目指して登る。
ぐぐぐ……。
重さで剥がれることは無い。
だが無理はENG減少加速という形で、俺に示された。
進む度にENGが減少していく。
料理を「吸収」。
やばい、もうすぐ部屋に入ってくる。
屋根近くの窪み、あそこに行ければ。
あと3m。
くそ、間に合わな——。
そうやって窪みに意識を集中した途端フッっと景色が変わり、おれは彼女と共に窪み部分に音もなく移動していた。
!?
いや動揺してる場合じゃない。
検証は後だ。
奴が、
入ってきた。
息を殺す。
ぺたぺたという足跡が聞こえるようになった。
周辺探査が姿をはっきり映し出す。
やはり「帽子」だ。
そう思った瞬間俺は凍り付いた。
帽子の形が以前と違う。
帽子の先にあったボンボンが、無い。
まさか。
別個体!?
そいつは迷う事無く北側にある「透明テント」に向かってくる。
数メート手前で立ち止まり、消えた。
次の瞬間、右手に持った短剣でテントを上から串刺しにする姿で現れた。
そのままの姿で少し固まっている。
僅かに「当てが外れた」といった困惑が伝わってきた。
奴が周りを見渡す。
上も見た。
だが俺と彼女は、奴の真上にある窪みの中だ。
視線は通らない。
おれは音を立てない事に、全神経を使う。
やがて「帽子」は南側の出入口に進み、出ていった。
死神の手は俺と彼女に触れる無く、すぐそばを通り過ぎて行った。
第16話 完




