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異世界★戦国武闘伝~歴女と歴史学者の異世界戦記  作者: 近森 元
Ⅰ、放浪編

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8,乾坤一擲(けんこんいってき)

 寒さが緩み、春の兆しが現れる頃、大公は城攻めを開始した。

 このあたりが戦場になれば、周囲の農民たちにも迷惑がかかるから、春の種まきの前に決着をつけるつもりだ。


 大公はグランローゼ城の南に5万の軍を集結させ、女王ヒミカに降伏を呼びかけたのだ。


 「ヒミカ殿! もはや戦いの趨勢《すうせい》は決まり申した。

 この大公ドメルグ・トクーガ、女王と王女の命を取ろうなどとは申さず。

 ただ、城を退去なされよ。この大公が手厚うもてなして進ぜる。

 返答や如何に!」


 この降伏勧告は既に書状にしたためて、ヒミカ女王に届けてある。

 命は助ける。城を明け渡せ。

 これが、大公の大義名分である。


 一時間ばかりが経過した。

 城からの返答は無かった。


 大公は軍配を高々と天にかざし、叫んだ。


 「この無益なる戦いは我が意にあらず! 

 天下国家の安泰のためやむなきこと。

 神々よご照覧《しょうらん》あれ。

 この大公、正々堂々と戦ってご覧にいれまする!」


 ドーン、ドーン


 陣太鼓の音とともに大公の軍団がゆっくりと前進をはじめた。

 グランローゼ城の周囲には、もはや城壁を失って無防備となった街がある。

 人々は戦火を避けて町を離れ、町はゴーストタウンのようになっていた。

 攻め手にとって一番の障害はこの無人の町だ。ここでゲリラ戦などやられたら、少々てこずることになるだろう。

 兵士たちは、風が吹きすさぶ無人の街に一歩一歩と足を踏み入れていった。



 勝ったも同然。大公は勝利を確信して疑わない。

 この確信ゆえ、余裕の戦法なのだ。

 そして、私の忠告通り王者の戦いをしようとしている。

 大公の兵たちは整然と前進し、陣太鼓は激しさを増した。



 「大公殿、我らはこの丘の上にて高みの見物といたしましょう。」


 「そうじゃ、魔王殿。もはや勝負はついておる。」


 しかしなー、オルス卿がまだ陣にいるんだよなぁ。

 邪魔だなー。

 と、思ったが、その心配はなかった。


 白の魔導士エクストン卿が魔導士部隊を従えて、城壁に仁王立ちとなったのだ。


 『我は白の魔導士ギヨーム・エクストン。

 大公殿、いや王位の簒奪者《さんだつしゃ》ぁぁー!

 和睦をちらつかせ、城を丸裸にしてから攻めるとは、卑怯者の所業なり。

 神々よ、卑怯者に天罰をお与えください!』


 << ヴァルゴ・デラ・マターラ・ウン・ソワカ! >>


 エクストン卿の渾身の詠唱だった。


 -----どおおおおーん!


 城壁から滝のような水が噴き出したのだ。

 水は激流となって大公の兵士たちに襲い掛かり、いく人もの兵が水に流された。


 「オルス卿! 出陣じゃ、白の魔導士を迎え撃って参れ!」


 「しかし、大公様。この本陣の警護は…」


 「よい! 奴らは城の中じゃ、おそらくは籠城《ろうじょう》策、ここまで攻めてはこれぬよ。はっはっは!」


 いいぞ。

 オルス卿を追い払ってしまえば、本陣の守りはわずかな警備兵だけになる。


 「オルス卿、本陣にはこの魔王がおるのじゃ。安心めされよ。 白の魔導士との決着、見届けて進ぜる。」


 「おお、魔王殿。心強い。それではお任せしましたぞ!」


 黒の魔導士、出陣!

 ご苦労さんである。




 「サスケ君、いるか?」


 「はいニャ!」


 「真田幸村はどうした?」


 「昨日から城内にはいないニャ。」


 「まさか、逃げたのか?」


 「わからないニャ。」


 「了解だ。おまえはここにいて、戦いを見届けろ。」


 「魔王様はどうするニャ。」


 「私にはやることがあるのだ。」


 私は本陣を離れた。

 丘を斜めに降りていくと、そこは窪地になっていた。

 本陣を狙うとすれば、この窪地を利用しない手はない。

 ここは本陣からは死角になっている。


 来い、真田幸村、

 おまえが本当に真田幸村なら必ず来るはずだ。

 乾坤一擲《けんこんいってき》、運命をかけたいちかばちかの大勝負だ。

 逃げ道は、私が作ってやろう。


 私は風の中にいた。

 戦場の風が私の心をざわつかせた。

 こんな瞬間を、私は夢の中で何度も見たような気がする。




 馬の蹄《ひづめ》の音だ。

 来た!


 森から突如として現れた騎馬隊が窪地まで一直線に降りてくる。

 赤備えの甲冑に身を固めた真田幸村を先頭に、続くはヴァン・ダイクンを隊長とするドワーフの傭兵隊、そして剣士ゴドー・グリフィス率いる冒険者部隊である。


 私が右手をあげると、真田幸村が微かな笑みを浮かべた。


 「あたしは来た!」


 と言っているのだ。

 騎馬隊は私の眼前を全速力で駆け抜け、丘を目指して駆け上がっていった。


 では、追い風を吹かせてやろう!


 << 人間五十年!! 下天のうちを比ぶれば!! >>


 「風よ、丘を駆け上れ!」


 -----ごごぉぉぉぉぉっ


 風は幸村を迎撃しようとした護衛兵の一団を吹っ飛ばし、本陣の陣幕を天高く舞い上げた。

 突風に狼狽した警護兵たちに、真田幸村は奇襲攻撃を仕掛けたのである。


 << 臨《りん》! 兵《ぴょう》! 闘《とう》! 者《しゃ》! 皆《かい》! 陣《じん》! 列《れつ》! 在《ざい》! 前《ぜん》! >>


 ------ギュイィィィィィィィィィーン


 丘の上に閃光が走った。

 幸村君の炎の剣が本陣を薙ぎ払ったようだ。


 「討ち損じるなよ、幸村君!」


 大公を警護していた兵士たちが逃げ惑うのが見えた。

 本陣は大混乱のようだ。



 「えい! えい! おおおーっ!」


 丘の上で勝どきがあがった。

 やったか、幸村君!


 「大公ドメルグ・トクーガ殿、生け捕りにしたなりぃぃぃっ!」


 なんと、生け捕ったというのか!


 真田の騎馬隊がこちらをめがけて駆け下りてきた。

 ドワーフの傭兵隊長ヴァン・ダイクンが縄でぐるぐる巻きにした大公を馬の後尾に縛り付けている。


 これは大変だ。

 大公を討ったとなれば、そこで戦いは終わりだ。

 しかし、捕らえたとならばそうはいかない。

 大公を奪還するために、兵たちは次々に真田幸村に襲い掛かかってくるだろう。

 どうする幸村君!


 私の懸念を知ってか知らずか、 真田隊は一直線にこちらへ向かってくる。

 幸村君、こんなときに、君は笑っているのか!


 ----ドドドドドド!


 馬の蹄の音を轟かして、日の本一の兵《ひのもといちのつはもの》が私の前を通り過ぎようとしていた。

 私はその美しい姿にしばし見惚れた。


 そして、真田幸村は疾走する馬上から私に向かって手を差し出したのだ。

 私はうっかり、その手をつかんでしまった。


 幸村君が馬を反転させると、遠心力で私の体が浮き上がった。

 あっ、と思った時には、私は空を飛び、幸村の馬の背にそのまんま着地したのだ。

 私は真田幸村の後ろに跨り、馬上の人となっていた。


 幸村君はスピードを緩めない。



 「いけぇぇぇ! 幸村君、逃げるんだ!」


 「先生! 馬を全力疾走させてる間は、魔法が撃てないなり!」


 「大丈夫だ! 私の風魔法がある! いくぞ!」


 << にぃんげーん、ごじゅううううねーん! >>


 ----グォォォォォォッッ!


 邪魔をする敵は私の風魔法で撃退してやる。

 目指すはグランローゼ城の城門だ。

 だが、城門にたどり着くためには敵中を突破しなければならない。


 無茶な作戦だ。

 まっ、ダメなときは、大公の首を跳ねればいいだけだ。

 これは面白い。逃げ切れば大公を捕虜にしたまま大勝利となる。


 「先生、今度は左から来るなり!」


 「まかせろ!」


 << げーてんのーうちおおお、くらぶれぶぅわー >>


 -----ゴオォォォォォォッッ!


 「先生、後ろから追ってくるなり!」


 << ゆめ、まぼろしのーぉ、ごとくなりぃぃぃぃ! >>


 -----ビヨォォォォォー!


 真田隊は駆けに駆け、ゴーストタウンに入った。

 町の中に入れば、家並みがこちらの姿を隠してくれる!

 もう少しだ、幸村君がんばれ!


 << ひーとーたびぃー、しょうをうけぇぇー >>


 -----グオーォォォン!


 私はゴーストタウンのど真ん中に風を放った。

 細く入り組んだ町角を風が走り、町中を突風が吹きぬけた。

 ゴーストタウンに潜んでいた大公の兵たちは、風の勢いに動きを止めた。


 いける、城門はすぐそこだ。


 だが、城門の前には大公の騎馬隊が集結していた。

 その数、100騎を超える。


 「先生! 今度は正面突破するなりよ!」


 「おう!」


 「先生、できるなりか?」


 「できーでかい。私は第六天魔王だっ!」


 「いくぞー!」


 << 滅っせぬぅー、もののぉー、あるべきくわぁぁぁー! >>


 魔法粒子がものすごい速度で集結している。

 苦しい! 胸が焼けるようだ。

 私は魔法粒子に体を焼かれながら、渾身の力で風を解き放った。



 滅 ! ! ! 


 -----ドーンンンンン!


 私は左右に開いた両の手から風を放ったつもりだった。

 だが、敵の騎馬隊を襲ったのは風ではなく衝撃波だった。

 騎馬隊は衝撃波の爆裂にはじかれて城壁に叩きつけられたのだ。


 私の風が音速を超えた。

 ソニックムーブといやつだ。


 映画なんかで見た人もいるだろう。

 音速の戦闘機が海面ぎりぎりのところを飛行すると、水面が爆発したようにドーンと空に向かって水しぶきを上げる。

 騎馬隊はソニックムーブに吹っ飛ばされてしまったのだ。


 「先生、今のは何なりか?」


 「そんなことは後だ! 城門が開くぞ、飛び込め!」


 「開門ーん! かいもーん!!」


 幸村隊は全力疾走のまま一列に並んで城門に突入した。

 全員が帰還すると、幸村君は城外に向けて炎の剣を一閃した。

 逃げまどう大公の兵士たちの前に、城門は硬く閉ざされたのであった。

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