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異世界★戦国武闘伝~歴女と歴史学者の異世界戦記  作者: 近森 元
Ⅰ、放浪編

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9,勝どきを上げよ

 真田幸村は乾坤一擲《けんこんいってき》の大勝負に勝った!

 城内は沸き返っている。


 「真田殿ーっ、お見事じゃー」

 「幸村殿ーっ、さすがじゃー」


 誰もが勇者・真田幸村を称賛し、その武勇を称えた。

 幸村君は少し照れているようだ。

 

 「幸村君、ここで勝どきだ!」


 私は真田幸村の肩をポンと叩いた。


 「あたしが勝どきをあげていいなりか?」


 「もちろんだ。」


 「では、いくなりよーぉ。  えい! えい! えい!」


 そして、その場にいた全員が声を揃えた。


 「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ-っ!!!」」」」


 天地に轟かんばかりの大音声《だいおんじょう》だ。


 ドワーフの傭兵隊長ヴァン・ダイクン殿が涙を流して幸村に抱き着いた。


 「やりましたのぉ、やりましたのぉ、幸村殿ぉ!」


 この二人が今回の立役者だ。


 縄でぐるぐる巻きにされた大公は、馬から引きづり降ろされ取り押さえられた。

 そして、恨みがましい目で私をにらみつけて居る。


 「魔王め! この裏切り者め!」


 私はフンと鼻で笑って答えた。


 「表返っただけよっ!」


 私のセリフに城内は大爆笑だ。

 大公は笑い者にされ、悔しさで悶絶している。

 そんな大公に幸村君は言った

 

 「ざまぁ、なり!」


 「サナード、お前だけは許さん!」


 大公は、兵士たちに両脇を抱えられ地下牢へと引きずられていった。


 


 おっ、白の魔導士エクストン卿の登場だ。

 今回は城の守りを任されていたのだ。

 黒の魔導士殿を本陣から遠ざけてくれたのはグッジョブだった。


 「幸村殿、おめでとうございます。そして魔王殿、こたびは我らへお味方くださり、ありがとう存じます。」


 エクストン卿は私にペコリと頭を下げた。


 魔王と聞いて、周囲が凍り付いた。

 さっきまでの喧騒が止み、静かになった。


 幸村君が前に進み出て、全員に聞こえるように大きな声で言った。


 「この人は魔王ではないなり! あたしの先生なり! あたしの世界では賢者様なりよ。」

 

 みんなが私を見ている。誰もがとまどっている。

 誰もが魔王を恐れているのだ。

 そこでエクストン卿が再び前に出て言った。


 「こたびの戦い、先生の作戦で勝てました。」


 「私は真田幸村殿を助けただけだ。」


 「幸村殿は先生の策だと申されましたぞ。」


 「歴史チートだ。大したことは無い。」


 その時だ、ヴァン・ダイクン殿がもろ手をあげて叫びだした。


 「せんせー、あんたはサイコーのイカレ野郎だーっ。わっはっはっ!」


 ドワーフの傭兵隊長は今度は私に抱き着いた。

 鼻水を垂らしながら涙を流している。


 よせ、やめろ! スーツが汚れる。


 再び城内に大笑いが広がった。

 そして「せんせー」コールが起こったのだ。


 「「「センセー! センセー! センセー! センセー!」」」


 魔王改め、今日から先生と呼ばれることになった。

 こちのほうが、呼ばれ慣れているからしっくりくる。

 

 「それでは先生、城内をご案内いたしましょう。」


 エクストン卿が私を宮殿の中に招いたのだった。



 ***  


 この宮殿の東と西には塔が立っている。

 私が投石器によって破壊した東の塔は、がれきの山になっていた。

 私たちは西の塔に登った。

 ここからは今回の戦場が一目で見渡せる。


 「先生、大公の軍が退却していきます。大将を失った軍はもはや烏合の衆(うごうのしゅう)です。」


 エクストン卿は静かな口調で言った。

 

 中世の戦争とはこういうものだ。敵の大将の首を取ればそれで終わる。

 近代の戦争ではこうはいかない。

 大将が戦死すればその副官が、副官が戦死すればそのまた副官が指揮を執り、どちらかが相手を叩きのめすまで継続することができる。

 カール・フォン・クラウゼビッツの著書「戦争論」を引用すれば「絶対的戦争」なのである。


 私がそんな話をするとエクストン卿はきょとんとした顔をした。

 中世を生きる人間に、いきなり近代戦争の話をしてもな…


 「すまんな、エクストン卿・・・」


 「先生、これからはギョームとお呼びください。我らは友人です。」


 友人かぁ…

 友人などと呼ばれたのは何年ぶりだろう。

 学者の世界などというものは競争と猜疑心の世界だ。我も我もと出世を目指し、あわよくば他人を貶《おとし》めようとする。

 それに比べて、この世界の人々は良くも悪くも純粋に思えた。


 「ギョーム殿、よしなに。」


 私とエクストン卿、いやギョーム殿は硬く握手を交わした。


 おっ、幸村君と傭兵隊長も塔に上がってきたぞ。


 「先生、戦いは終わったなりか?」


 「今回はな。だがトクーガ大公家が滅びたわけではない。このまま和平を継続できるか、それとも再び戦いになるのか、我々は慎重に見定めなくてはならない。」


 「どうなるか先生にもわからないなりね。」


 「そうだ、和戦いずれになっても大丈夫なように準備しなくてはならない。」


 傭兵隊長殿が横から口を出した。


 「それほど心配しなくても大丈夫でさぁ。何しろ大公の身柄はこちらの手にありますからな。」


 「傭兵隊長殿、その通りなのだが予断は許されんのだ。大公には後継者がいる。ガストン・トクーガ、この男がどう出るかだ。」


 「意気地なしのガストンですかぁ。奴はもともとこの戦いには反対だったでさぁ。大公を人質にすれば、なぁーんにも出来ないと思いますぜ。」


 「ほーお、意気地なしのガストンか…、傭兵隊長殿、あとで話を聞かせてくれ。」


 「先生、その傭兵隊長殿というを止めてくださいまし。我が名はヴァン・ダイクン。ヴァンとお呼びください。」


 「それではヴァン殿、よしなに!」


 私にまた友人ができた。


 真田幸村が塔から町を見下ろしている。

 町は戦火に焼かれ、住む人もいない。

 街を囲む城壁は破壊され無残な姿をさらしていた。


 「幸村君、次にやるべきことは何かね?」


 「再建なり。民を豊かにして、国を富ますなり。強い国を作るのだ。」


 我が意を得たりだ。


 この数年でトクーガ大公家が勢力を拡大し、諸侯や領主も大公に味方した。

 王家の重臣たちにも優秀な者がいたはずなのだが、大公の調略にはまり王家を離れたのだ。

 

 「だけど、今回の戦いと、大公を捕虜にしたことでトクーガの威信はぼろぼろなり。貴族たちも再び日和見《ひよりみ》をするはずなり。」


 「そうだな。パワーバランスが完全に変わったんだ。このバランスをうまく利用するのがこれからの戦いの肝になる。」


 「和戦いずれにしても、なりか?」


 「そうだ、戦いだけが我々の仕事ではない。」


 幸村君がニマリと笑った。



 ***  


 息を切らしながら、塔に登ってくるものがある。

 

 「これはこれはウード卿、いかがなされた?」


 ギヨーム殿が迎えたのは軍服を着た老人だった。

 軍服はきらびやかな勲章で飾られている。

 ダリウス・ウード卿、かつてヴァルゴ王の七本槍に数えられた剣士である。

 ヴァルゴ王に従ってアマテラス王家継承戦争を戦った勇者であったが、今は年老いて女王の取り巻きの一人となっている。


 ウード卿は私たちに言った


 「真田幸村殿、そして魔王殿、女王ヒミカ様からのお達しじゃ。ヒミカ様に謁見なされよ。これは名誉なことにござるぞ。」


 なるほど、幸村君と私、召喚者二名を平伏させて勲章でも授けようというわけか。

 だが、第六天魔王は簡単に跪《ひざまず》いたりはしないのだよ。

 そんなことすれば、本家本元である織田信長公に申し訳が立たん。

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