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異世界★戦国武闘伝~歴女と歴史学者の異世界戦記  作者: 近森 元
Ⅸ、回天編

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67,マドンナの行方

 戦後処理である。

 レガリアの城と街の再建に着手しなければならない。

 これらの仕事には三成君が適任だ。


 「拙者がイースタリア総督でござるか?」


 「三成君ほどの適任者はいない。」


 「大変な仕事でござるな。」


 「ヴァルデーノ殿とマシアス殿を顧問に据えよう。」


 「お二人とも元はトクーガの家臣でござるな。イースタリアの事情には詳しゅうござるな。」

 

 「レガリアの再建と、疲弊した民衆を安堵させてやらねばならん。」


 「やりがいのある仕事でござるな。承知した。」


 「たのんだぞ、三成君!」


 

 三成君は街の再建に着手した。

 城は後回しでよいという。

 破壊を免れた城の一部を役所として、三成君はどんどん政務を遂行していった。



 ***



 国民軍をイースタリアから引き揚げさせなくてはならない。


 「ゴドー殿、10万の大軍をどうする?」


 「内2万はシーマの兵ですから、ジュウザ殿にお返しいたす。」


 「イースタリアに駐屯する兵も必要だぞ。」

 

 「国民軍のうち、軍族に志願した者を駐屯軍として残すつもりです。」


 「どれほどの兵を残す?」


 「2万くらいは必要かと。」


 「そうだな。」



 国民軍の撤退を指揮するのはゴドー殿である。

 シーマの兵や駐屯軍を差し引いても、6万の大軍である。

 これを本国に戻すのは大変な仕事だ。


 撤退が始まった。

 兵士たちは隊列を整えてセントラルを目指した。


 「ゴドー殿、ご苦労様だ。大軍の撤退には気を付けてくれ。侵攻するときは兵士たちに緊張がある。だから規律が維持されている。今回の撤退は、魔王を倒したことで兵士の気が緩んでいる。」


 「分かってますよ、先生。浮ついた兵たちが隊列を離れて、その辺の民家に悪さしないよう監視しますよ。」


 「6万の兵の監視だぞ。できるか?」


 「冒険者部隊に監視させるんですよ。奴らは元は冒険者だ。一般人あがりの国民軍には恐ろしくあり、たのもしい勇者ですからね。」


 「うまいことを考えたな。それと貴族隊にも注意を払え。一般の兵に貴族風を吹かせて尊大にふるまっている者もいると聞いた。」


 「それも大丈夫ですよ。お(・)貴(・)族(・)さ(・)ま(・)もジュウザ殿に地獄を見せられて、すっかりおとなしくなりましたんでね。」


 「貴族の子弟たちには、いい体験だったかもしれないな。」


 「そうですよ。《《お貴族さま》》も魔族との戦いでは一兵卒にすぎませんぜ。そのことを思い知らされたんですよ。」


 「貴族たちも庶民の痛みを知るいい機会になったということだ。」


 「庶民たちも立派な兵士になりました。見てください! あの誇り高い顔を!」


 誇り高き戦士たちは隊列を整えて、イースタリアの地を後にした。

 これで、戦いの後始末は一段落だ。

 


 ***


 国民軍の撤退を見届けた私は、ツキヨミ殿の馬車へと向かった。

 戦後処理が一応ではあるが、終わったことを報告するためである。


 馬車の周囲には陣幕が張られていた。

 ツキヨミ殿は陣幕の中にいるようだ。


 「あら、先生。ご機嫌はいかがかしら。」


 「機嫌は悪くないが、少々疲れた。それよりツキヨミ殿は大丈夫か。魔王にとどめを刺したのはツキヨミ殿だ。疲れはないか?」


 「わたくしは光の中で立っていただけ。」


 「兵士たちの間では、魔王を倒したのはツキヨミ王女だという話で持ち切りだ。」


 「いえ、わたくしはお手伝いをしただけ。魔王を倒したのは国民のみなさまの力ですわ。」


 「謙虚なのはいいが、ツキヨミ殿には魔王を倒した英雄になっていただく。これからアマテラーザの国を立て直さなくてはならない。人々を勇気づける英雄が必要なんだ。」


 「英雄というのなら、先生や幸村殿がふさわしいのでは? そうでしょ。」


 「いや、遠慮する。私も幸村君も軍師やら英雄やらを引退する。」


 「では、何をなさるの?」


 「スロー・ライフだよ。」


 「それはステキ!」


 ツキヨミ殿はコロコロと笑った。



 「わたくしも、そろそろ帰国いたしますわ。」


 「護衛の兵は?」


 「ジュウザ殿にお願いしました。」


 「それはいい。ジュウザ殿はなかなかの美男子だ。ツキヨミ殿と並んで凱旋なされれば、グランローゼの市民も大いに沸き立つはずだ。」


 「そういうものかしら?」


 「そういうものだ。」



 陣幕の外からギョーム殿がそっと顔を出した。

 内々で話があるようだ。


 私はツキヨミ殿に会釈をして陣幕を出た。

 そしてギョーム殿とひそひそ話をしたのである。


 「先生、こちらにいらっしゃると聞いて…」


 「何かあったか?」


 「マドンナのことです。魔導士たちに魔力反応を探らせましたが、召喚者の強力な魔力は検知されませんでした。」


 「まだ見つからないか?」


 「ええ、まったく行方が知れません。」


 「最後に見たのは幸村君の精密射撃の時だ。あの時、火炎弾《ファイヤーボール》から逃げおおせた後は全く姿を見せていない。」


 「幸村殿の射撃がよっぽど恐ろしかったと見えますな。」


 「それはそうだろう。間一髪で焼き殺されるところだったんだ。」


 「魔王に従った魔族の中にも居りませなんだ。」


 「魔力検知にも引っかからない、魔族の残党狩りでも見つからないか。」


 「打つ手なしです。」


 マドンナが姿を消してから、もう1カ月になろうとしている。

 いったいどこに消えたんだ。



 ***


 秋である。

 さわやかな風が荒廃した大地を吹き抜けていく 


 私はエルキス殿の野戦病院を訪ねた。

 動けるようになった負傷兵は、国民軍の撤退とともに本国に送り返した。

 だが、野戦病院は次から次に治療を求めてやってくるイースタリアの民たちでごった返していた。


 「エルキス殿、魔族の支配は過酷なものだったようだな。」


 「魔族に従わない者らはなで斬りにされたと聞いた。惨《むご》いことじゃ。」

 

 「治療を求める民衆の列は、しばらく収まりそうにないな。」


 「わしはのう、しばらくここに残ろうと思う。」


 「残って治療を続けるのか?」


 「助っ人も現れたしのう。」


 「助っ人?」


 「エルフの若い魔導士たちが集まってきよったのじゃよ。わしのヒーリングを学びたいと言うて。」


 「卑怯者のエルキスも捨てたものではないな。今回の戦いで、卑怯者の汚名も返上だな。」


 「わしは卑怯者でいいのじゃ。これからも卑怯者で生きていく。若い魔導士たちも分かっておるはずじゃ。戦うばかりが能ではないとな。」


 「まったくだ、卑怯者のエルキスがいなければ、魔族は倒せなかった。」


 「それは買い被《か》ぶりじゃ。」


 

 そこに兵士が走りこんできた。


 「魔導士様! レガリア市街地で戦闘があり負傷者が出ております。すぐにお越しを!」


 「市街で戦闘だと。 何があった?」


 「マドンナが隠れておりました。捕えようとした3人の兵士が胸をつらぬかれて…」


 「よし! すぐ行こう。エルキス殿!」


 「承知じゃ!」


 私は馬に飛び乗り、市街地に向けて駆け出した。

 背中にはエルキス殿を乗せている。



 ***

 

 レガリアの市街地の半分はマジック・キャノンによって吹き飛ばされ瓦礫の山になっていた。

 その瓦礫の中にマドンナが潜んでいたというのだ。


 3人の兵士は鋭い氷の刃に胸をつらぬかれて倒れていた。

 エルキス殿はヒールの魔法を発動させ、兵士たちを治療した。


 現場には、すでに幸村君が来ていた。


 「マドンナはこんなところに隠れていたのか!」


 「レガリアの街にいたなりよ。見つからないはずなのだ。」


 「灯台もと暗し、だな。」


 「瓦礫ごとマドンナを吹き飛ばしてやるなり!」


 幸村君は火炎弾《ファイヤーボール》の構えをとった。


 「待て、幸村君。殺すなよ、生け捕りにするんだ。」


 「何でなりか?」


 「マドンナは一級の戦争犯罪者だ。裁判にかけて民衆の前で裁くんだ。」


 「承知なり。」



 幸村君はマドンナの隠れている廃墟の屋根に火炎弾《ファイヤーボール》を放った。

 屋根が崩れ落ち、土煙があがった。


 土煙の中に女の影が見えた。

 マドンナだ! マドンナが投降してきたのだ。

 マドンナはうなだれ、両手を上げている。


 「幸村君、気をつけろ! マドンナは召喚者だ。強力な魔法で応戦してくる可能性がある。」


 「承知なり!」


 幸村君は構えを崩さない。



 「大丈夫じゃよ。」


 私の背後でエルキス殿が言った。


 「もうこの女には僅《わず》かな魔力しか残っておらぬ。魔力欠乏症じゃよ。」


 「魔力欠乏症か?」


 「魔王に魔力を注ぎこみ過ぎたのじゃよ。魔王に吸い取られた魔力は回復しないのじゃ。この女は、それを知らなかったようじゃ。魔力が回復しないことに驚いて怖くなったのじゃ。」


 「だから姿をくらまして、隠れていたのか?」


 「魔王を操ろうとした者の末路じゃよ。」 


 確かに、マドンナの足はふらついている。

 少し歩いて、その場に倒れてしまった。


 幸村君は駆け出し、刀の鞘《さや》でマドンナの首根っこを抑え込んだ。


 「捕えたなり!」


 幸村君の指図で兵士たちがマドンナに縄をかけた。



 あっけないものだ。

 マドンナはこの戦いの首謀者でありラスボスだ。

 そのラスボスがこんなにもあっさりと捕らえられたことに、私は脱力した。

 力の抜けた体に、奇妙な笑いが込み上げてきた。


 「あははは、あははは…」


 幸村君が怪訝な顔つきで私を覗き込んだ。


 「どうして笑ってるなりか?」


 「分からん。だが、こんな結末になるとは思いもしなかった。」


 「ラノベなら『ざまあ!』するところなりよ。」


 「『ざまあ!』など、する気にもなれん。」


 「怒ってるなりか?」


 「いや、怒っているわけじゃない。何かが虚《むな》しいんだ。」


 「分かるなりよ。その虚《むな》しさはあたしも感じてるなり。」


 「なんとも、嫌な気分だ。」


 「この嫌な気分が、どこから来るのか分からないなり。」


 「忘れてしまおう。」


 「そんなことができるなりか?」


 

 私には忘れる自信はなかった。

 だが、マドンナに関してはこれ以上考えても無駄なような気がした。

 忘れることが出来なくても、考えないことはできる。

 それは愚かな民衆の思考停止に似ていると思った。

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