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異世界★戦国武闘伝~歴女と歴史学者の異世界戦記  作者: 近森 元
Ⅷ、死闘編

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65,魔王死すべし

 ドラゴンの月の17日。

 私たちは王女ツキヨミ殿臨席の下、魔王との最終決戦にむけて軍議を開いていた。


 テーブルの上には地図があった。

 私は魔王の現在地にチェスの駒を置いた。

 キングの駒である。


 「魔王は北へ向かって移動している。そしてツキヨミ殿とソーラー・システムはこの位置だ。」


 私はツキヨミ殿とソーラー・システムの位置にクイーンの駒を置いた。


 「マリータ殿とドワーフの傭兵隊は王女を死守だ。ここを取られれば作戦そのものが崩壊する。」


 「承知だべ!」


 「ギョーム殿とヴァルデーノ殿、両魔導士はソーラー・システムの設置だ。ソーラー・システムをなにがなんでも守り切ってくれ!」


 「承知!」


 両魔導士の位置にはビショップ(僧侶)の駒を置いた。


 「ゴドー殿、冒険者部隊を率いて魔物をけん制してくれ。ソーラー・システムが姿を現せば、敵も気付くはずだ。私たちが光の魔法を使うということにね。魔族はソーラー・システムを破壊しようとするはずだ。奴らを足止めしてくれればいい。」


 「合点承知だ!」


 ゴドー殿にはナイト(騎士)の駒である。


 「ジュウザ殿には遊軍をお願いする。自分の判断で自由に動いてくれ。敵の伏兵や奇襲もある。戦場の空気を読んで危機に対応してくれ。」


 「承知でごわす!」


 ジュウザ殿はルーク(戦車)の駒だ。


 「三成君、君にはレーザーの発射システム任す。頼んだぞ!」


 「承知でござる!」


 

 「私はバトル・アーマー烈風に搭乗して、この丘の上に陣取る。ここで黒雲に大穴を開ける。」


 私の位置にはポーン(兵士)の駒を置いた。


 「それから幸村君。君の任務は最も危険だ。魔王をレーザーの照射線上に誘導してくれ。場合によっては魔王との戦闘になる。魔王に対抗できるのはバトル・アーマーだけだ。頼めるか?」


 「承知なり!」


 私は幸村君の位置に私と同じポーン(兵士)の駒を置いた。


 「ポーン(兵士)なりか?」


 「私たちはひとりの兵士として戦おう。作戦が失敗した場合は、私の烈風と幸村君の紅蓮で魔王に立ち向かうことになる。勝算は薄いが、それしかない。ひとりの兵士として死ぬ覚悟はできている。」


 「そういうセリフは死亡フラグになるなり。」


 「そうだな、取り消そう。」



 私としたことが「死ぬ覚悟」などと、浮ついたことを言ってしまった。

 だが、最悪の場合を想定しておくのが私の立場だ。



 そんな思いの私に、ツキヨミ殿が微笑みかけた。


 「失敗はしませんわ。必ず魔王を倒してみせます!」


 その言葉だけで、私の気分はいくぶん楽になった。



 ***


 ドラゴンの月の19日、日の出の時刻。

 私は風の魔法を発動させ、黒雲に小さな穴を開けた。

 雲の上には青空があり、太陽が輝いていることが確認できた。


 同日、正午をもって作戦開始。

 太陽は私たちの真上にある。


 「太陽よ! 魔王を焼き尽くしてくれ!」


 私はそう祈るしかなかった。


 国民軍は後方に下がらせ待機させた。

 魔王との戦いに国民軍は無力だ。

 ディガン・ドロワは魔王には効かない。

 戦いに負けた場合は逃げるように指示してある。


 「退却ーっ!」


 10万の国民軍は安全な場所に布陣した。




 「ヴァルデーノ殿、やりますぞ。」


 「魔法学園の頃を思い出しますな、ギョーム殿」


 ギョーム殿とヴァルデーノ殿が念動力で反射板を宙に並べていく。

 三成君は両魔導士に指示して反射板の位置を調整している。

 この調整にはしばらく時間がかかる。


 私と幸村君はバトル・アーマーを駆り空に上がった。

 空からは戦場が見渡せる。


 「魔族がソーラー・システムに気付いたみたいだな。魔物たちが動き出したぞ。」


 「ゴドー殿の冒険者部隊が迎撃に向かったなり。そう簡単にソーラー・システムはやらせないなり!」


 「冒険者部隊は魔物との戦いには慣れているから大丈夫だろう。」


 ゴドー殿たち冒険者部隊と魔物たちとの小競り合いが始まった。

 敵はゴブリンとオークの残存部隊である

 冒険者たちは魔物に攻め寄せ、頃合いを見計らって退却する。

 波状攻撃の繰り返しで、魔物を足止めした。



 「まずいのだ! あんなところに魔族の騎馬隊がひそんでいたのだ!」


 「くそっ、伏兵を置いていたのか。魔族の騎馬隊がソーラー・システムを襲うぞ。」


 「マリータ殿たちドワーフの傭兵隊が応戦してるなり!」


 「魔族がゴーレムを生成したぞ!」



 -----うおぉーん! うおぉーん! うおぉーん!


 ゴーレムのうなりが地上にこだました。

 土から生成されたゴーレムが、次々に立ち上がっていく。

 


 「マリータ殿が苦戦してるなり! 先生、救援に行くなり!」


 「大丈夫だ。ほら、ジュウザ殿の遊軍が魔族の騎馬隊の背後に現れた。」


 「ひょー! さすが戦国武将なのだ。神出鬼没なり!」



 マリータ殿はゴーレムを相手に奮戦している。


 「一歩も引ぐなー! ゴーレムさ、ここでくい止めるだべー!」


 ゴーレムは倒しても倒しても再生する。



 しかしだ、ジュウザ殿は魔族の騎馬隊を背後から襲ったのだ。


 「魔族ども! その首おいてけぇ! チェスト、行けぇぇぇぇぇぇ!」


 シーマの騎馬隊が魔族の首を次々にはねていく。

 魔族が死ねばゴーレムは消失する。

 

 「魔族がマリータ殿とジュウザ殿に挟み撃ちになった。」


 「魔族がぼ(・)こ(・)ぼ(・)こ(・)にされてるなり!」


 「ソーラー・システムを守り切ったみたいだ。」



 黒雲のなかに稲妻が走った。

 ソーラー・システムがキラリと光った。


 「幸村君、まもなくレーザーの準備が整う。私たちの出番だ!」


 「承知なり!」



 私は烈風を降下させ、丘の上に着陸させた。

 ハッチを開けて外に出ると、頭上には黒雲が渦巻いていた。

 ここで黒雲に大穴をうがつ!


 << 人間五十年、

下天《げてん》のうちを比ぶれば、

夢幻《ゆめまぼろし》の如くなり 

ひとたび生《しょう》をうけ、

滅《めっ》せぬもののあるべきか >>


 私は両手を空へ向けた。

 風が舞い上がった。

 

 「風よ! 黒雲をつらぬけ!」


 -----ドォーン!


 トルネードである。

 巨大な風の渦が黒雲に大穴を開けた。

 魔王復活以来、暗闇に閉ざされていた地上に陽の光が降り注いだ。

 そして、ソーラー・システムが太陽を浴びて輝き始めたのだ。



 幸村君の乗った紅蓮は魔王との戦闘を繰り広げていた。

 炎の剣が魔王を斬りつけた。


 「ちぃ! 魔王には効かないなり!」


 続いて火炎弾《ファイヤーボール》の連射である。魔王の体が爆発に包まれ見えなくなった。

 だが、その爆発をものともせず魔王はその歩みを止めなかった。


 「大丈夫か! 幸村君!」


 「まだまだなり!」

 

 幸村君は紅蓮で魔王に白兵戦を挑んんだのである。

 魔王にくらいついた紅蓮は、右腕を振り上げ魔王の頭を殴りつける。

 魔王は紅蓮の右腕をつかみ、へし折った。


 「幸村君、魔王から離れろ!」


 「承知なり! 右腕を切り離すなり!」


 「ガゴン!」という鈍い音とともに紅蓮は右腕を捨てた。

 後退する紅蓮に向かって、魔王は口から黒い炎を噴き出したのである。

 すさまじい炎だった。

 

 「紅蓮が直撃を食らったなり!」


 「動けるか?」


 「動けるなり! 魔王に全弾発射をお見舞いしてやるのだ!」


 「無茶をするな、幸村君!」


 「行くなりよぉー!」


 紅蓮は魔王に向けて、ありったけの火炎弾《ファイヤーボール》を撃ち続けた。


 -----ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!


 全身に火炎弾《ファイヤーボール》を受けた魔王は、砲煙に包まれた。


 「やったか?」


 「手ごたえはあったなり!」


 だが、白く煙る砲煙のなかで魔王の目が赤く光ったのだ。

 火炎弾《ファイヤーボール》の全弾発射でさえ魔王を傷つけることすらできない。


 砲煙の中から現れた魔王が、紅蓮につかみかかろうとしている。


 「幸村君! 逃げろ!」


 「手遅れなり!」


 幸村君の救援に向かいたいが、私はこの空の大穴を維持しなくてはならない。

 私は烈風の自動操縦《オートパイロット》のスイッチを入れた。


 「烈風、特攻だ! 幸村君を助けてくれ!」


 -----ギューン!


 自動操縦《オートパイロット》の烈風は、魔王に向かって飛んだ。

 烈風が魔王に激突する寸前、魔王は両腕を振り上げて烈風を叩き落した。


 ----- グアン!


 胴体を破壊された烈風は残骸となって地面に転がった。


 「烈風! すまん!」


 だが、これで魔王に隙ができた。

 幸村君は間一髪で魔王の手を逃れたのだ。



 「幸村君、ここはいったん退却だ!」


 「悔しいなり!」

 

 幸村君は紅蓮を後退させた。

 魔王の目が紅蓮を、幸村君を睨みつけている。


 「いいぞ、幸村君! 魔王が紅蓮を追ってくる、そのまま逃げて、魔王をレーザーの照射線上におびき出すんだ!」


 「承知なり!」


 紅蓮は魔王の直撃を受けて不安定になっていた。

 幸村君は紅蓮をかろうじて操作しながら魔王を誘導した。

 怒りに燃えた魔王は紅蓮を追っていく。


 -----うおおおぉぉぉぉぉーん!


 魔王が唸り声をあげた。

 背筋が凍りつくような禍々(まがまが)しい声だった。




 ソーラー・システムが太陽の光を浴びて輝いている。

 怒りに我を失った魔王が、紅蓮を追ってレーザーの照射線に飛び込んだ。


 「ツキヨミ殿、たのむ!」


 ソーラー・システムの前にはツキヨミ殿の姿があった。

 ツキヨミ殿は巨大な光を背負っている。


 << アラユルモノヲヤキツスセ、アタラシキヨヲツクレ! >>


 初代王アマテラスより王家に伝わる詠唱である。

 詠唱とともに、光がその輝きを増した。


 「魔王、死すべし! その怨念と共に地上から消えなさい!」


 ツキヨミ殿は叫び、その姿が光の中に消えた。


 そして次の瞬間、魔王に向けて一直線の輝きが放たれたのである。


 幸村君が紅蓮のコクピットで絶叫した!


 「か・が・や・く、なりーぃ!」


 ツキヨミ殿から発振された光の束が魔王に向かって直進した。

 輝きは無音である。


 -----ぐわあぁぁぁぁぁ!


 魔王の断末魔の声が戦場に響き渡った。

 その恐ろしげな声に誰もが戦慄した。

 魔王の体はレーザーの熱量のなかで静かに蒸発していった。


 


 ゆっくりとレーザーが消滅していく。

 

 戦場は静まり返っていた。

 黒雲がゆっくりと消えて行き、太陽の光はあまねく大地を照らした。

 誰もが、しばらくの間、何が起こったのかさえ分かっていなかった。




 ジュウザ殿がただひとり、馬を走らせている。

 そして、魔王が消失した地点で何かを見つけたようだ。


 「魔王の首、討ち取りもしたーぁ! 王女様! お見事でごわしたぁー!」


 ジュウザ殿が魔王の首を掲げた。

 魔王の体はレーザーの熱によって蒸発したが、首だけは黒焦げになって残ったのである。

 

 「将門《まさかど》の首か…」と私はつぶやいた。



 しばらくして、「うわぁー!」という歓声が上がった。

 歓声は兵たちの間を伝わり、後方の国民軍にまで達した。


 「やった、魔王が死んだぞ!」

 「これで故郷に帰れる!」

 「平和が戻ってきた!」


 兵士たちの喜びの声が聞こえてくる。


 そして、兵たちが勝どきをあげている


 「えい! えい! おー!」

 「えい! えい! おー!」

 「えい! えい! おー!」


 終わったな、と私は思った。



 そういえば、幸村君だ。

 今回は命がけの任務だった。

 幸村君をねぎらってやらねば。


 そこに、ローターを回転させながら紅蓮が降下してきた。

 右腕を失い頭部が大きく破損している。

 

 「大丈夫か! 幸村君!」


 返事はなかった。

 私は飛ぶように紅蓮に駆け寄った。


 紅蓮のハッチが魔王の熱線に焼かれて開かなくなっているようだった。

 私はバールを使ってハッチをこじ開けた。

 コクピットの幸村君はぐったりとしていた。

 頭からは血が流れていた。


 「大丈夫か、幸村君!」


 私は幸村君を抱きかかえてコクピットから出した。

 私の腕の中の幸村君は指一つ動かそうとしない。


 「幸村君! 幸村君!」


 わたしは呼び続けた。


 「たのむ、幸村君! 目を開けてくれ!」


 大地には轟くような勝どきの連呼がこだましていた。

 喜びの声で満ち溢れた空の下で、私だけがうろたえ、涙を流して叫んでいた。


 「誰か! 助けてくれ! 幸村君を助けてくれ!」

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