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異世界★戦国武闘伝~歴女と歴史学者の異世界戦記  作者: 近森 元
Ⅷ、死闘編

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64,光の魔法

 ドラゴンの月の15日。

 空は魔王の作り出した黒雲に覆われていた。


 私と幸村君は光の魔法の正体を求めて走りまわっていた。

 初代王アマテラスが使ったという光の魔法である。


 「王女様にも訊いてみるなり!」


 「そうだな。ツキヨミ殿は初代王の子孫だ。何か心当たりがあるかも知れない。」


 私たちはツキヨミ殿の馬車を訪ねた。

 馬車にはギョーム殿、ヴァルデーノ殿もいた。


 「ツキヨミ殿、光の魔法について心当たりはないか?」


 「先生、ちょうど今、その話をしておりましたの。」


 「なるほど、だから両魔導士殿が雁首を揃えておられるわけか。」


 私はギョーム殿に水を向けた。


 「ギョーム殿、何か分かったか?」


 「わたくしも腑に落ちない点はありますが、ツキヨミ殿の魔法属性は光だと思います。」


 「ツキヨミ殿は光の魔法が使えるのか?」


 「まずは六大魔法属性です。火、水。風、土、木、金です。光の属性というのはエルフの魔法書のどこにも書かれていません。」


 「初代王アマテラスは召喚者だ。彼が使った光の魔法は召喚者特有の属性だと考えたらどうだ。その属性が世代を経てツキヨミ殿にも現れたとしたら。」


 「その可能性はありますね。我々エルフの魔導士ですら知らない魔法です。この魔法でいかにして魔王を倒すのか見当もつきません。」


 ツキヨミ殿が立ち上がった。


 「論より証拠ですわ。まずはわたくしの魔法をご覧になって!」


 ツキヨミ殿は詠唱を始めた。


 << アラユルモノヲヤキツスセ、アタラシキヨヲツクレ! >>


 「その詠唱は日本語ではないか!」


 「王家に伝わる詠唱です。」


 詠唱が終わると、彼女の手の中に光が灯った。


 「それは火の魔法ではないかね?」


 「わたくしも今までそう思っておりました。でも、ここからが少し違いますの。」


 ツキヨミ殿の手の中からまっすぐに直進する光が放たれた。

 光はテーブルの上の一枚の紙片に注がれ、紙片は「ぼっ!」という音を立てて燃え上がったのだ。


 「これは、レーザーなり!」


 幸村君が目を丸くしている。


 この世界にレーザーだと!


 「ツキヨミ殿、これは火ではない。光の力を集約したものだ。光の魔法とはレーザーだったのか!」


 「レーザー? それが何かわたくしには分かりませんわ。できるのは生活魔法程度の小さな光… これで魔王が倒せるとは思えません。」


 「だが光の魔法の正体がつかめたんだ。初代王はレーザーで魔王を倒したと考えて間違いない。」


 幸村君が腕組みをしながら言った。


 「先生はレーザーがどういうものなのか知ってるなりか?」


 「そういえばそうだな。レーザー・ポインターを使って講義をしたことはあるんだが… はて、レーザーって何だ?」


 「文系知識の限界なりね。三成君は理系女《リケジョ》なり! 三成君に訊いてみるなり!」


 「そうだな。三成君を呼んできてくれ!」



 しばらくして、三成君が姿を見せた。


 「何でござるか?」


 「三成君、見てくれ。ツキヨミ殿、もう一度頼む。」


 ツキヨミ殿はもう一度光の魔法を使った。


 「これはレーザーでござらぬか!」


 「三成君、これが光の魔法の正体だ。」


 「と、いうことは、魔王はレーザーで倒せるでござるか?」


 「そういうことになる。しかしだ、ツキヨミ殿の魔力は生活魔法が使える程度だ、これを増幅することはできるかね?」


 三成君は右手を顎に当てて、しばらく考え込んだ。

 そして、考えをめぐらしつつゆっくりした口調で話し始めた。


 「まず、太陽の光を集めまする。集めた光をエネルギーとしてですな、これをドロワ鉱石で魔力に変換いたす。この魔力を王女様の体に注入し、再び光に戻すのでござる。しかる後、光を集約して発振いたす。」


 「ずいぶん、回りくどいな。」


 「このやり方は、いわば魔法と科学の融合でござれば、いくつもの手順を踏まねばなりませぬ。」


 「できるかね?」


 「大がかりなシステムになりましょうが、理論的には可能でござる!」


 「できるんだな。」


 「でき申す! まずは反射板にございます。反射板を約1000枚並べて凹レンズとします。凹レンズが集めたエネルギーをドロワ鉱石に注ぎ込みます。これが『ソーラー・システム』でござる。大がかりになるでござるよ。」


 「反射板は冒険者部隊が使っている盾で代用しよう。彼らの盾は魔法を反射して跳ね返せるように鏡のようなコーティングをしているから反射板として使えるぞ。」


 「問題は、その盾をどのようにして並べるかでござる。1000枚の盾でござるぞ。縦に30枚、横に30枚でござれば、横は30メートル、縦は15メートルに及びますぞ。」


 「兵士たちに肩車でもさせて並べるか?」


 「反射の微調整も必要でござる。不安定な肩車では無理でござろう。」



 「あははは」とヴァルデーノ殿が笑った。


 「よいことを思いつきました。」


 「ヴァルデーノ殿、よいこととは何だ?」


 ヴァルデーノ殿はギョーム殿の顔をみてニヤリと笑った。


 「ギョーム殿、魔法学園の頃の一発芸だよ。」


 ギョーム殿も一発芸という言葉に思いあたったようだ。


 「ああー、アレは我らにとっての黒歴史! アレを使うというのか?」


 なんだ、なんだ、二人は何を言っているんだ?


 怪訝な顔をしている私にヴァルデーノ殿が説明してくれた。


 「我らの魔法属性は火と水。この二つは相反する属性です。つまり反発しあうのです。この二つの魔力を共振させますと、重力の空白が生じるのです。その空白の中で、我らはモノを自由自在に操ることができるのです。つまりは念動力ですよ。念動力で反射板を宙に並べて見せましょう!」


 念動力だと!  

 それに、黒歴史とはどういことだ?


 こんどは、頭を掻きながらギョーム殿が魔法学園の思い出を述懐した。


 「わたしとヴァルデーノ殿は魔法学園のクラス・メイトでした。魔法学園に新校舎が落成しまして、旧校舎からの引っ越しがあったのです。旧校舎の机や椅子を運び出さなくてはならない。生徒たちがひとつひとつ運び出すということでしたが、我らはチートを使ったのです。」


 「念動力チートか?」


 「そうです。旧校舎の窓から机や椅子が宙を飛んで新校舎へ移動していったのです。それを見たクラックス先生が大変お怒りになり。大目玉をくらいました。」


 ヴァルデーノ殿が腹を抱えて笑い出した。


 「クラックス先生の火のついたような顔を思い出した。あはははは! 『魔導不覚悟! 自分たちが楽をしたいがために、魔力を使ったのは誰だ!』ってね。」


 「ヴァルデーノ殿、クラックス先生に口答えしたはヴァルデーノ殿だ。あれでクラックス先生の怒りに油を注いだ。」


 面白い話だな。

 それで、なんと口答えしたんだ?


 「日頃の魔力探求の賜物《たまもの》です! ってね。」


 そう言って、ヴァルデーノ殿は大笑いした。


 魔導不覚悟、魔法を自分の利益のために使ってはいけないというエルフの道徳である。

 エルフたちは彼らが生まれながらに与えられた魔力の強大さに自覚的なのである。

 そのことが、エルフ族をして念動力のような魔力の応用を是《ぜ》としない風潮を生み出してきた。

 だが、今回は魔法学園の珍妙なイタズラが魔王討伐の決定打になったのだ。



 魔法学園の思い出話に、場の雰囲気が砕けた。

 そのなかで、三成君だけは冷静だった。


 「あの黒雲はどうされますか? 魔王は黒雲で空を覆ってござる。あれでは陽の光が地上に届きませぬ。」


 三成君の心配げな声に、私は答えた。


 「そこは心配ない。あの黒雲には、私の風が大穴を開ける!」


 「なるほど」と言って、三成君は表情を崩した。



 それからツキヨミ殿だ。


 「ツキヨミ殿には光の魔法の発射をやっていただくことになる。」


 私がツキヨミ度に言うと、三成君が補足した。


 「つまりは、王女様にレーザーの発振機になっていただくのでござるよ。」


 ツキヨミ殿は笑顔を作っているが、その責任の重大さを理解しているようだ。

 彼女は力強く言い放った。


 「わたくしが、魔王を討ちます!」


 あの暗い顔をして私を見つめていた少女が、魔王討伐に立とうとしている。

 これが最終決戦!

 レーザー、いや光の魔法は、魔王を倒せるか?

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