63,自由落下からの精密射撃
「くそっ! 魔王復活を阻止できなかった。」
「マジック・キャノンをお見舞いしてやるなり!」
「よく狙えよ! 最後の1発だ! 頭だ! 魔王の頭を狙え!」
「発射なり!」
-----ドゴォォォォォーン!
「着弾!」
マジック・キャノンの砲弾は魔王の頭部を直撃した。
「命中なり!」
砲弾の熱で魔王の体がかげろうのように揺れて見えた。
「やったか?」
「魔王は死んだなりか?」
「いや、生きてるぞ。だが、動けないみたいだ。」
「もう一撃、撃てないなりか。」
「だめだ。砲身が歪んでしまった。それに、魔力の消耗も激しい。」
「共振魔法は魔力を使い過ぎるなりね。」
「仕方がない。バトル・アーマーで帰投するぞ。」
「承知なり!」
***
ドラゴンの月の11日.
魔王は動けないようだ
しかし、魔王に対して攻撃しようとすると自動的に防御が働く。
魔王はバリアを発生させ、このバリアが剣も魔法も跳ね返してしまうのだ。
マドンナは魔族の残党を集結して、城壁の影に隠れているようだ。
「エルキス殿、魔王はどれくらい動けないと思う?」
「さあ、分からんのう。魔王は復活を遂げたばかりじゃ。まだアーレスの体になじんでないのじゃよ。」
「神経回路を接続中といったところか。」
「そこにマジック・キャノンの一撃を食らった。しばらくは動けんとは思うが時間の問題じゃ。」
「マドンナは何をしてるんだろう?」
「魔王に魔力を注入しておると見た。召喚者の強力な魔力を魔王に送って、復活を促進しておるのじゃ。」
エルキス殿との会話に幸村君が割り込んだ。
「それなら、マドンナを討てば、魔王は復活できなくなるなりか?」
「その考え方は、ありだな。」
***
ドラゴンの月の12日。
マドンナが私たちの前に姿を見せた。
8体のオークに周囲を囲まれて、城壁の影から出てきたのだ。
マドンナは私たちに降伏勧告をするために現れたのだった。
「先生、聞いてるかい。
まもなく魔王様がお目覚めになる。
そしたらお終いだよ。
アタシたちはノーザン・テリトリーへ向かう。
そこで魔物や魔獣の兵力を吸収して、再び王家と戦うのさ。
今度は負けないよ。
魔王様は無敵だからね。
今のうちに降伏するんだねぇ。
そしたら命くらいは助けてやるよ。」
勝手なことをほざきやがる。
「幸村君、マドンナを狙撃できないか?」
「オークが邪魔なのだ。マドンナはオークに守られてるなり。」
「幸村君の魔法だ、オークごと吹き飛ばせないか?」
「魔法を使えば、魔王の自動防御が発動するのだ。その隙に、マドンナは逃げるなりよ。」
「確かにな、用心深い奴だ。魔王のバリアが発生している間に、オークを盾にして逃げるだろうな。」
「成功する確率は五分五分なり。」
「もっと確実に仕留められる手はないか?」
幸村君がひらめいたようだ。
「でも、一か所だけガラ空きになっているのだ。」
「どこがガラ空きなんだ?」
「真上なりよ。」
「なるほど、それはありかも知れないな。」
「そのためには、マドンナにもう一度出てきてもらう必要があるなり。」
***
翌13日。
私はマドンナと交渉することにした。
マドンナは再びオークを従えて姿を現した。
私は単身で陣を出、荒野の真ん中でマドンナと向かい合った。
「先生、降伏の意思は固まったかい?」
「先に、降伏の条件を言え。」
「幸福の条件かい。分かってるだろうに。ヒミカとツキヨミを引き渡しな。」
「女王と王女をどうする?」
「決まってるじゃないか。殺すんだよ。アタシが女王になるんだよ。ヒミカとツキヨミには死んでもらわないとね。」
「その条件は飲めない。」
「なら、交渉は決裂だね。」
「その代わりと言ってはなんだが、お前にはイースタリア公爵の地位を与えよう。公爵様で満足しておけ!」
「公爵だって、チンケな爵位でアタシを釣ろうって腹かい!」
「悪くない提案だと思うぞ。」
「アタシは女王になりたいのだよ!」
話が平行線になるのは分かっていた。
私の目的は交渉ではない。
マドンナを引っ張り出し、こちらに注意を引くことだ。
その時、幸村君は紅蓮のコクピットの中にいた。
紅蓮は上空2000メートルまで上昇し、そこから地表に向かっていたのだ。
自由落下である。
バトル・アーマーのエンジンを切り、重力のままに落下中だった。
エンジンを切っているため紅蓮は無音である。ワーバーンさえも気づかないであろう。
オークの目は上にはついていない。オークに見つかることもない。
高度680メートル。
幸村君は魔導ガンの引き金を引いた。
-----ズキューン!
マドンナただひとりを狙っての精密射撃である。
一発の火炎弾が頭上からマドンナを襲う。
その刹那だった。
マドンナの顔がわずかにひきつった。
彼女は私の目を見ていた。
私の目の中の奥の奥、そのまた奥で、私がニヤリと笑うのを感じたのだ。
政治家や財界の大物の顔色を見て、世の中を渡ってきたマドンナである。
マドンナにとって、顔色や目に宿るあらゆるサインを読み取ることは、生き抜くための欠くべからざる技術なのだ。
私の目の奥がニヤリと笑うの感じとったマドンナは恐怖し、その直感が彼女をして飛びのかせたのだ。
マドンナは間一髪で幸村君の火炎弾を避けたのだった。
-----ドドーン!
火炎弾はむなしく地面に突き刺さった。
「外したなり!」
幸村君は悔しそうに叫び、ローターを回転させて紅蓮を再び上昇させた。
「ひゃああぁー! あああぁぁ! ふえぇぇぇぇぇ!」
マドンナは悲鳴を上げ、地べたを転げまわった。
その表情は恐怖と憎しみに満ちていた。
「失敗したなり。」
「幸村君の失敗じゃない。私の失敗だ。」
私はマドンナが狙撃に気付いたことを話した。
「マドンナは恐ろしい奴なりね。」
「まったくだ。」
***
ドラゴンの月の14日、よく晴れた朝である。
魔王の目が赤い輝きを取り戻した。
魔王復活の狼煙であるかのよに、空には黒雲が湧き出し地上を暗く閉ざした。
魔王は大地を踏みしめるように、ノーザン・テリトリーへ向かって移動を開始した。
その後ろには魔族が続き、魔物や魔獣が従っている。
マドンナの姿は見えなかった。警戒してどこかに隠れているのだろう。
私たちは魔王の軍団を見守ることしかできなかった。
ヴァン殿率いるドワーフの兵団は、ノーザン・テリトリーへ戻ることになった。
魔王の侵攻に対して州境を守備するためである。
私たちが魔王に敗北した場合、ヴァン殿はノーザン・テリトリーの照葉樹の森に隠れて、魔王に対してゲリラ戦を挑むつもりだ。
「暗いな」と私は言った。
「あの黒雲は魔王が作っているなりか?」
「おそらくな。」
「魔王は暗いのが好きなりか?」
「幸村君、それだ! 暗いのが好きなんじゃない。魔王は光を恐れているんだ。」
「そういえば、ジュウザ殿が言ってたなり。初代王アマテラスは光の魔法で魔王を倒したなり。」
「光の魔法か…」
私は思考を巡らせた。
光の魔法、そこに魔王を倒すヒントがある。




