62,攻城兵器マジック・キャノン
ドラゴンの月の10日。
アマテラーザ国民軍はレガリア城を包囲していた。
グラドスの会戦で9割の魔物や魔獣を失った魔族軍は、籠城の構えをとっている。
私は城を見下ろす丘の上にいた。
幸村君とマシアス殿を伴ってだ。
「マシアス殿、壮大な城だな。」
「はい、この城はグランローゼ城と同じく城塞都市。城の周囲には人々が暮らす街があり、街は城壁で守られております。」
「城の北側には街道が走っているな。」
「ノーザン街道にございます。」
「街道はどこへ向かっている?」
「ノーザン・テリトリーへの道です。」
ノーザン・テリトリーか…
「読めたぞ! あの街道はノーザン・テリトリーまでの一本道だ。幸村君、どういうことか分かるか?」
「分かるなりよ。魔物や魔獣を失ったマドンナが魔族軍を立て直すにはどうするかなりね。」
「そうだ。ノーザン・テリトリーへ行きダンジョンに眠る40万の魔物を糾合する。捲土重来! 再びイースタリアからセントラルに攻め上る。」
「マドンナは最初からそうすべきだったなり。先にノーザン・テリトリーを併呑しておけば60万以上の魔物の大群になっていたなり。60万の大群にはさすがの国民軍も勝てなかったのだ。」
「だが、マドンナはノーザン・テリトリーを攻めなかった。暗黒魔法で魔物を呼び出そうとしただけだ。何故だか分かるか?」
「マドンナは女王様になりたいのだ。ノーザン・テリトリーには女王様はいないなり。セントラルを攻めてヒミカ様にとって代わりたかったなり。」
「そういうことだ。マドンナの幼稚な欲望が戦略を誤らせた。」
「そこに国民軍の勝機があったなりね。」
「それなら、さっさとノーザン・テリトリーに行けばいいものを、レガリア城は静まり返ったままだ。マシアス殿、これはどういうわけだ?」
「おそらくは、魔王の復活を待っているかと。マドンナは魔王が復活さえすれば王家など赤子の手をひねるようなもの、とほざいておりました。」
「魔王の復活…」
「まもなくかと…」
「魔王が復活の後、マドンナはノーザン・テリトリーへ向かうつもりだな。」
幸村君が拳を振り上げながら言った。
「魔王が復活する前にレガリア城を叩くなり!」
「敵の残存戦力は2万から3万の間だと見るが、どうだ?」
「そんなところなりね。レガリア城は10万の兵で攻めれば落ちるなり!」
「城攻めの3倍の法則だ。理論的には勝てるはずだ。」
***
私たちは軍議を開いた。
ヴァン殿、ゴドー殿、そしてジュウザ殿は一気に城に攻め寄せる主戦論を展開した。
ギョーム殿、ヴェルデ―ノ殿、両大魔導士は、魔王の動静を探るべきだと主張。
彼らは私に裁定を求めた。
「私の考えを言おう。魔王の復活は気になるところだ。しかし、我々には10万の兵力がある。ここは一気に攻めたいと思う。」
おおー!
主戦派の3人が、我が意を得たりとうなずいた。
そのとき、陣幕の中に急を告げる伝令が入ってきた。
「報告します。ただいまレガリア城の城壁に24柱の十字架が立てられました。十字架に掛けられたるはエルフの魔導士でございます。」
「なんだと!」
ヴァルデーノ殿はそう叫んで、陣幕の外に駆けだした。
私たちもヴァルデーノ殿に続いた。
十字架に掛けられたエルフたちは、レガリア城に残っていた魔導士たちである。
つまり、黒の魔導士ヴァルデーノ殿の部下たちなのだ。
「くそっ、マドンナめ、我が配下を捕らえていたのか!」
いきりたつヴァルデーノ殿にマシアス殿が言った。
「このわたしもエルフの血を引く者。エルフは魔族化できませぬゆえ、捕らえらたのでしょう。そして、人質としての使いようもある。」
「人質か…」と私はマシアス殿に言った。
「そうでございます。マドンナはエルフの人質を盾にするつもりでしょう。」
「汚い作戦だ。だが城攻めは止められない!」
そう言う私に、ヴァルデーノ殿は懇願した。
「先生、1日お待ちください。それまでにこのわたくしが彼らを救出いたします!」
「どうやって救出すると言うんだ?」
ヴァルデーノ殿は絶句した。
この状況で救出の兵を出せば返り討ちにあうだけだ。
「大の虫を生かすには、小の虫を殺さねばならない。戦争の常道だ。」
そういう私にヴァルデーノ殿は食ってかかった。
「エルフは小の虫ですか!」
「ヴァルデーノ殿にも分かっているはずだ。戦争は多くの犠牲を強いる。その犠牲をいかに少なくするかが戦略というものであり、それを判断するのが政治だ。」
私は自分の言葉に嫌気がさしていた。
私の正義は、仮そめの正義に過ぎない。
「心配ご無用!」
三成君の大らかな声だった。
「心配ご無用にござるよ。先生、ヴァルデーノ殿。攻城兵器を持って参った!」
「攻城兵器? 投石器じゃないだろうな。私は投石器を使ったが、あれはヒミカ殿を脅すためだ。マドンナには通用せんよ。」
「投石器ですと。そのような原始的なものではござらん!」
兵士たちが一台の荷車を曳いてきた。
三成君は荷車に飛び乗りシートを払った。
そこには、巨大なライフル銃のような物体が鎮座していた。
「マジック・キャノンにござる!」
「マジック・キャノン?」
「そう、魔法の大砲でござるよ。先生と幸村殿の共振魔法の件を聞きましてな。召喚者が二人がかりでぶっ放す超強力な大砲を作ったでござるよ。まだ試作品にて、3発も撃つと砲身が歪んでしまいますがのう!」
「3発しか撃てないのか?」
「山を崩すほどの火炎弾を、ドロワ鉱石で増幅するのでござる。強力な火力で砲身が溶けてしまうのでござるよ。しかし、威力は抜群! レガリア城など一撃で吹き飛ばしてみせましょうぞ!」
また、とんでもない物を作ったもんだ。
***
私たちはレガリア城を見下ろす丘へ登った。
バトル・アーマーに乗り込んだ私たちは起動スイッチを入れた。
「バトル・アーマー起動!」
「魔導エンジン始動なり!」
バトル・アーマーが大地を踏みしめ唸りをあげた。
烈風が膝をつき、紅蓮が烈風の肩にマジック・キャノンの砲身を置く。
「背中を借りるなり!」
紅蓮の右腕が烈風の背中に接触する。
「魔力共振!」
「魔力充填50%なり!」
「70%!」
「90なり!」
魔力の共振が高まり、空気を震わせた。
「マジック・キャノン、発射!」
-----ドゴォォォォォーン!
巨大な火炎弾がレガリア城に向かって飛んだ。
「着弾!」
-----ドドーン、ドドドドドド!
火炎弾はレガリア城の宮殿を、塔を、一瞬にして吹き飛ばしたのだ。
-----ゴゴゴゴゴゴゴーン
すさまじいい轟音とともにレガリア城が崩れ落ちていく。
「もう一発つぞ!」
「こんどは城壁を狙うなりね!」
「エルフたちの十字架に当てるなよ!」
「分かってるなり! 城壁の右半分を吹き飛ばすなり!」
「撃て!」
-----ドゴォォォォォーン!
「命中なり!」
「城壁の半分が吹き飛んだぞ!」
「もう一発なり!」
「よせ! マジック・キャノンは3発しか撃てない。1発は温存しておくんだ。」
「承知なり!」
城は吹き飛ばされ、城壁の半分が崩壊した。
土煙の中を魔族たちが逃げ惑うのが見えた。
その混乱に乗じて、ギョーム殿とバルディーノ殿が率いる魔導士隊がエルフの救出に向かった。
城壁の上ではエルフたちが縄をほどかれ、十字架から降ろされるのが見えた。
私たちがほっとしたのもつかの間、レガリア城のがれきを跳ね上げて黒い影が現れたのだ。
「何なりか、あれは!」
「アーレスだ。レガリア城に居たんだ!」
「でかいなり! 5メートルはあるなり!」
「もはや人ならぬものになり果てたか!」
「魔王の首を抱えているなり。」
「ということは、魔王はまだ復活していない。」
「アーレスにマジック・キャノンを叩きこむなり!」
「やるか、幸村君!」
その時だった。私たちの頭上をワイバーンがかすめた。
ひときわ大きなワイバーンである。
「先生、お久しぶりだねぇ!」
「マドンナ! ワイバーンに乗っているのか!」
ワイバーンは私たちを飛び越え、魔王の首を抱えたアーレスを目指して飛び去った。
そして、大きく旋回するワイバーンの背中でマドンナが詠唱する。
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「氷の刃がアーレスに向かって放たれたなり!」
「何をするつもりだ! マドンナ!」
「氷の刃がアーレスの首を斬り落としたなり!」
アーレスの首がゴロリと地面に落ちた。
首からは血しぶきが噴き出し、空を赤く染めた。
「アーレスを殺したなりか?」
「違う! アーレスの胴体は動いている。」
胴体は両手で魔王の首を天に掲げ、そのままアーレスの胴体に据え付けたのだった。
-----ギギギギギギギ!
魔王の首からアーレスの体に神経が張り巡らされていく。
「魔王の首はアーレスの体を支配しようだ!」
「魔王の目が赤く光ったなり!」
「くそっ! マドンナめ!」
ワイバーンから高笑いが聞こえてくる。
「ほぉーほっほっほっほ! 刮目しな! 魔王様の復活だよ!」




