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異世界★戦国武闘伝~歴女と歴史学者の異世界戦記  作者: 近森 元
Ⅷ、死闘編

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61,戦士の休息

 ドラゴンの月の2日。

 太陽はじりじりと大地を焼いていた。

 イースタリア侵攻から1か月になろうとしている。

 魔王が復活する前にガザレリア城を落としたいのだが、兵たちに疲れが見え始める頃である。

 

 ジュウザ殿からも提案があった。


 「ここらで兵を休めもんそう。」


 「そうだな。このバザール盆地は攻めるに難しく守るに易い。ここで3日ほど兵を休ませるか。」


 「そいなら、兵どもに旨かもんでも食わしてやりたいでごわす。」


 「旨いものか…」


 これだけの兵に旨いものを食わせるとしたら、バーベキューか鍋料理だな。


 「なんか目先ん変わったもんでも食わしてやりたいでごわす。」


 「目先の変わったもの?」


 ジュウザ殿にひっついていた幸村君が何かひらめいたようだ。


 「カレーを作るなり!」


 「カレーか、学生時代のキャンプを思い出すな。しかし、スパイスなんかはどうする?」


 「エルキス殿が持ってるなり。エルキス殿はヒーラーなり。いろいろポーションなんかも作ってるのだ。その原料の薬草の中にスパイスみたいなものがあったなり!」


 「ほう、それは知らなかった。では、エルキス殿のところに行ってみよう。」



 ***


 エルキス殿は負傷兵の手当のためにバザール盆地の陣まで来ていた。

 私と幸村君がエルキス殿を訪ねると、そこは野戦病院になっていた。


 「エルキス殿、思ったより負傷兵が多いな。」


 「負傷兵だけではないぞ。魔力欠乏症にかかった者が多くてのう。」


 「魔力欠乏症?」


 「魔力の使い過ぎじゃよ。あのディガン・ドロワとかうい魔道具じゃ。魔力の増幅とはいえ、一般人の魔力は生活魔法程度に最適化しておるのじゃ。あれだけの魔砲弾を撃ちつづければ、魔力が枯渇する者も出てくるのじゃよ。」


 「なるほどな。それで、治るのか?」


 「治し方は簡単じゃよ。魔力の種をほんの少し与えてやる。あとは魔力が回復するのを待つだけじゃのう。」


 「時間がかかるというわけだな。」


 「魔力欠乏症にかかった者には戦闘は無理じゃ。後方に送り返すしかない。」


 私が予想もしていなかった事態だ。

 魔力欠乏症の兵士と、その可能性のある者は本国へ戻すことにした。



 幸村君がエルキス度にスパイスについて訊いている。


 「スパイスはあるなりか?」


 「ああ、気付け薬の原料にする薬草のことじゃな。馬車の中にたんとあるぞ。」


 「先生に見せて欲しいなり!」


 「何に使うのじゃ?」


 「カレーを作るなり。」


 「カレーとな?」


 「美味しい食べ物なり!」


 「気付け薬の薬草で料理を作るのか? それは良いのう。あの薬草には滋養を高める効果がある。魔力欠乏症の予防にも役に立ちそうじゃ!」

 

 

 私はエルキス殿の馬車に行きスパイスを見せてもらった。


 これはクミン、これはターメリック、他にもいろいろあるな。

 これならばカレーができる。



 ***


 次はカレーに入れる具である。

 肉はある。グラドス高原で倒したオークの肉である。

 

 「玉ねぎとニンジンはあるなり。」


 「それだけだと、なんか寂しいな。」


 「みんなに呼びかけて、カレーの材料を集めるなり!」



 最初にやってきたのはツキヨミ殿だった。

 王女として、兵士たちに美味しいものを食わせたいという心がけは立派だ。


 「わたくしの大好物を持ってきましたわ。」


 「ツキヨミ殿、何を持ってきたんだ?」


 「じゃじゃーん、イチゴですわ!」


 そうか、この世界の人々はカレーを知らないんだ。

 しかし、カレーにイチゴだと。

 そんなものが食えるか!


 「却下だ! 愚か者めがーっ!」


  

 「また人格が変わってしまったなり。」


 私は食べ物のことになると人格が変わってしまうことがあるのだ。



 次にやってきたのはゴドー殿だった。


 「この食材は冒険者の滋養食なんだぜ。俺たちの大好物だ!」


 「何だ?」


 「豆を発酵させたものでナトウという。旨いぜ!」


 「うむ、食してみよう。なんだ! これは納豆ではないか。こんなものをカレーに入れられるか! 却下だ!。」


 

 そしてギョーム殿だ。


 「先生、エルフの好む野菜の酢漬けをお持ちしましたぞ。」


 「酢漬けだと。食してみよう。うっ、これはピクルスのような風味だ。」


 「福神漬けの代わりになるなり!」


 「そうだな、付け合わせとしては合格だな。」


 「採用なり!」


 

 ヴァン殿である。


 「ドワーフが食べるノーザン・テリトリーのとっておき食材ですぜ。」


 「これは見ただけで分かる。昆布だな。」


 昆布を見た幸村君がガッカリしている。

 ノースタリアの食事は旨かった。

 ドワーフの食材には期待していたのだろう。


 「これも無いなり。昆布カレーなんて見たことも聞いたこともないなり。」


 「いや、そうででもないぞ、幸村君。カレーはスープだ。昆布で出汁をとる!」


 「昆布出汁のカレーなりか?」


 「インドの南部では魚介で出汁をとる地方もあると聞いた。カレーに昆布はありだ。」


 「採用なりね。」


 「採用だ!」



 亡命者のマシアス殿である。


 「先生、このバザール盆地の名産品でございます。芋をすり潰して固めたもので美味しゅうございますぞ。」


 「バザール盆地の名産だと。芋だと、カレーにはピッタリだ。だが、これは芋を加工してコンニャクにしてある。」


 イモと聞いてぬか喜びした幸村君は肩を落とした。


 「どう考えてもカレーに合わないなり。」


 「却下だ!」



 ジュウザ殿だ。

 ジュウザ殿は食材を積んだ荷車を曳いてやってきた。


 「これはサウスティカのイモでごわす。」


 「サツマイモじゃないだろうな。」


 「見たもんせ!」


 私は荷車の食材を確認した。


 「これはジャガイモだ。」


 「やったー、これでカレーらしくなったなり!」


 「採用だ!」




 こうしてカレーの材料が揃い、大鍋からはスパイシーな香りが立ちのぼった。

 カレーの匂いは兵士たちの食欲をいやがおうにも高めたのである。


 「何と旨そうな匂いだ!」

 「こんな香りは初めて嗅いだ!」


 サウスティカから来たシーマの兵たちは米を炊いている。

 南方のサウスティカでは米作が盛んで、米が主食であることを私は知った。

 一方、セントラル出身の王家の軍は、硬いパンをカレースープに浸して食べている。セントラルの主食は小麦なのである。


 旨そうにカレーに舌つづみを打つ兵士たちを、幸村君は嬉しそうに見ている。


 「先生、アマテラーザでも地方によって食文化が違うなりね。」


 「幸村君。食文化が違えば、おのずと考え方も違ってくる。これからアマテラーザはひとつの国になる。文化や思想の違いを認め合わねばならない。」


 「多様性なりね。」


 「多様なる異世界だ。」


 「さて、幸村君。どっちを食いたい? 米か、パンか!」


 「カレーライスなり!」


 「日本人として当然だな。」




 戦士たちの休息は終わった。

 ドラゴンの月の5日。

 アマテラーザ国民軍は一路、レガリアへ向けて進軍した。

 最終決戦が迫りつつあったのだ。


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