59,刮目しろ、信長戦法だ!
-----ザッ! ザッ! ザッ! ザッ! ザッ! ザッ!
足音を轟かせて、20万のゴブリン兵が押し寄せつつあった。
バトル・アーマーに乗った私と幸村君はその上空にあった。
「ゴブリン軍団の一番後ろにいるデカブツがキング・ゴブリンなりね。あれを討てばゴブリン軍団は壊滅なり!」
「エルキス殿の話では、キング・ゴブリンの命令ですべてのゴブリンがコントロールされているわけではない。キング・ゴブリンがワイズ・ゴブリンに命令してゴブリン軍団が動くんだ。キング・ゴブリンが死ねば、いずれかのワイズ・ゴブリンがキングに昇格するらしい。」
「まるで近代軍みたいなりね。なかなか手ごわいのだ。」
「来たぞー! ゴブリン軍団が走り始めた。国民軍の陣地まで一気に攻め込むぞ!」
「まるでゴブリンの津波なり! あたしたちは見ているだけなりか?」
「刮目しろ! 信長戦法だ!」
国民軍の陣地は静かだった。
馬防柵の向こうに国民軍が整列している。
三成君が号令する。
「総員、ディガン・ドロワ装着!」
カチャ、カチャという装着音が響き渡る。
「第一列、前へ!」
第一列の兵士たちが馬防柵の前へ進み出た。
「構え!」
兵士たちが一斉にディガン・ドロワを構える。
「詠唱!」
<< ストルク・ダルゴ・ファイエ >>
国民軍の兵士たちが一斉に詠唱を始め、戦場は詠唱の声で包まれた。
「撃てぇー!」
-----ダムダムダムダムダムダムダムダムダムダムダムダム!
一斉に火炎弾の射撃が始まった。
先頭を切って攻め来るゴブリンたちが火炎弾の餌食となった。
それでも、ゴブリン兵は仲間の死体を踏み越えて前進を止めない。
「第二列、前へ!」
第二列は既に詠唱を終えている。
「撃て!」
-----ダムダムダムダムダムダムダムダムダムダムダムダム!
第二列が火炎弾を放つ。
地上では炎が明滅し、閃光が起こるたびにゴブリン兵がバタバタと倒れていった。
-----ギエェェェェ!!
ゴブリンたちの禍々しい断末魔である。
「第三列、前へ!」
「撃て!」
-----ダムダムダムダムダムダムダムダムダムダムダムダム!
第三列も同じくゴブリンに火炎弾を浴びせかけた。
そして再び第一列が前へ出た。
-----ダムダムダムダムダムダムダムダムダムダムダムダム!
間断ない火炎弾の連続射撃が続いた。
キングゴブリンの命令を受けたゴブリン兵は前進し続けるのみである。
ゴブリンの大軍団は一方的に撃ち砕かれていった。
それは虐殺であった。
火炎弾の連続射撃は、虐殺機械と化していた。
「見たか、幸村君!」
「長篠の戦いの再現なり!」
「そうだ信長戦法だ。鉄砲の三段撃ちだ。これで詠唱のタイム・ロスはチャラだ!」
「火縄銃の弾込めのタイム・ロスを解消するために信長様が編み出し戦法なりね!」
「それを魔法に置き換えたんだ。詠唱から魔法の発動までにはちょっとした時間が必用だ。だから第一列から第三列までが順番に火炎弾を撃ち続けるんだよ。」
グラドス高原にはゴブリンの死体が積み上げられていった。
国民軍は魔力の続く限り火炎弾の射撃を止めなかった。
地上には砲煙が立ち込めている
「紅蓮のモニターが真っ白なり! 何も見えないのだ!」
「火炎弾の砲煙だ。すさまじい煙だ!」
私たちには地上の様子が見えなかった
火炎弾の炸裂音が聞こえてくるのみである。
-----ダムダムダムダムダムダムダム、ダムダム、ダム、ダム、ダム… ダム…
炸裂音は次第に小さくなり、やがて止んだ。
地上は静けさを取り戻し、砲煙が風に流されていく。
「モニター回復なり!」
「戦況はどうだ?」
「ゴブリンの死屍累々なり。」
眼下にはゴブリンたちが折り重なるように死んでいるのが見えた。
火炎弾の直撃で、ほとんどのゴブリンは即死だったようだ。
「20万のゴブリン兵が30分足らずで壊滅したようだな。」
「信長戦法、恐るべしなりね。」
「歴史が変わった瞬間だよ。」
陽は傾き、丘の向こう落ちようとしていた。
幸村君の紅蓮が夕日を背負って飛んでいる。
「終わったなりね。」
「終わった。そして勝った!」
***
私と幸村君はバトル・アーマーを着陸させた。
私たちを出迎えようと、三成君が走ってくる。
「三成君、やったな。」
「先生、幸村殿、空での活躍、見ておりましたぞ。」
「バトル・アーマーのおかげだ。これがなければワイバーンは防げなかった。」
「そうでござろう。」
三成君は嬉しそうに鼻をふくらませて、バトル・アーマーの蘊蓄を傾けはじめたのである。
「これは長くなるな。退散しよう。」
「退散するなり。」
おっ、ジュウザ殿だ。
「おー、兄上。先ほどは助かりもしたぁ。ゴーレムがあれほどの数になるとは思わなかったでごわす。」
「幸村君の判断だ。幸村君のおかげで救援に行けた。」
「幸村どん、かたじけのうごわす。そいよか、さっきの攻撃はすさまじかったでごわすな。オイはたまげもしたわ。はっはっは!」
確かにあの火炎弾の全弾発射はすさまじかった。
「あれには私もたまげた。どこであんな戦法を思いついたんだ。」
「昔、アニメで観たのをやってみたなり!」
「なんか不吉そうなアニメだな。」
そんな話をしているところにゴドー殿がやってきた。
「ゴドー殿、オークの手ごたえはどうだった?」
「冒険者をやってた頃はオークには何度も苦戦を強いられましたが、こたびはそれほどのこともなかったですぜ。」
「集団戦法だよ。ひとりの冒険者の力が二倍にも三倍にもなるのが集団戦法だ。」
「ふふふ、先生に集団戦法を教えられた時には想像もできませんでした。」
「そういうことだよ。ゴドー殿。」
そうだ、ツキヨミ殿にも報告をしておかねば。
「幸村君、ツキヨミ殿のところへ行こう。」
「そうなりね。王女様は総大将なり。総大将への報告は武将の義務なり!」
私たちはツキヨミ殿の馬車へ向かった。
その道中でギョーム殿とヴァルデーノ殿に出会った。
今回の戦いで、両魔導士はツキヨミ殿の守りに就いていたのだ。
「おお! ギョーム殿、ヴァルデーノ殿、お揃いか。」
ギョーム殿は興奮を隠しきれない様子で言った。
「史上初の大魔法戦でしたな。あれほどの魔砲弾が一斉に放たれるなど、前代未聞の光景でした。」
ヴァルデーノ殿はやや冷静だ。
「あんなものを見せられると、我々魔導士の存在意義について考えざるを得ません。」
「魔法の歴史が変わったんだよ。」と私は言った。
向こうからツキヨミ殿が駆けてくる。
「先生、勝ちましたね! おめでとうございます!」
「ほぼ計算どおりです。」
「戦争は計算してやるものですものね。」
そう言って、ツキヨミ殿はコロコロと笑った。
ツキヨミ殿の後ろには護衛のマリータ殿がいた。
「我の出番は無しだったべ。」
「不満かね、マリータ殿。」
「そうではない。我も暴れてみたかったんだべ。」
「マリータ殿が暴れるということは、ツキヨミ殿が危険にさらされるということだ。できるだけ、暴れないでいてくれ。」
「ふん、つまらんべ。」
そう言いながらも、マリータ殿も勝利を心から喜んでいるようだ。
「それでは、わたくしは参ります。」
「ツキヨミ殿、どこへ行くんだ?」
「兵士たちをねぎらいに行くのですわ!」
「そうだな。ツキヨミ殿は総大将だからな。」
「お飾りの総大将ですけどね。」
「そのお飾りが輝けば輝くほど軍というのは強くなる。」
「ならばわたくしもお飾りとして、せいぜい輝かせていただきますわ。」
ツキヨミ殿は総大将の役割をよく心得ている。
この勝利の場所に、王女が姿を現せば兵士たちは感激し、士気はいやがおうにも上がる。
兵士たちの前に王女ツキヨミが姿を現すと、誰もが歓声をあげた。
王女は「ご苦労様、ご苦労様」と兵士たちにねぎらいの声をかけながら、三成君が指揮を執っていた高台に登って行った。
高台の上から兵士たちを見下ろしたツキヨミ殿は、両手を広げて勝利を宣言した。
「国民のみなさま、勝ちました。大勝利です!」
王女を見上げる兵士たちの中から声があがった。
「王女様! 勝どきを!」
場が静まり返る。
皆が王女の勝どきを待ち望んでいるのだ。
「それでは皆様、ご唱和ください!」
ツキヨミ殿は拳を振り上げて、高らかに勝どきをあげた!
「えい! えい! えい!」
ツキヨミ殿は両の拳を握りしめて、声の限り叫んだ。
「おおーっ!」
これに兵士たちの全員が唱和する。
-----おおおおおおおおおおおおおおっ!
兵士たちの勝どきは大地を轟かさんばかりだった。
戦いには勝った。
魔族は9割以上の戦力を失ったはずだ。
数では圧倒的に我々が有利になった。
これよりアマテラーザ国民軍はイースタリア奥深くに侵攻し、州都レガリアを目指す。
レガリア城。そこにはマドンナとアーレス、そして魔王の首が待ち構えている。
「この戦いにアーレスは姿を見せなかったな。」
「それは魔王がまだ復活していないことを意味するなり。」
「そういうことだ。私たちは魔王復活を阻止し、マドンナを討つ!」




