58,グラドスの会戦
フェアリーの月の15日。
ツキヨミ殿は国民軍の兵士たちを前に演説を行った。
白金の冠に戦闘服姿のツキヨミ殿は、兵士と共に戦う意思を示したのだ。
「国民の皆様! 我らアマテラーザの国民軍はこのグラドス高原において魔族を迎え撃ちます。この戦いは王家のためにあらず。あなたがた国民自身とアマテラーザの国のために戦うのです。魔族を退け、世界に平和を!」
王女が姿を現したことで、兵士たちの士気は盛り上がった。
ツキヨミ殿に促されて、私も演説することになった。
「えー、国民軍の諸君、楽にして聞いてくれ。戦いに勝つ算段はできているから安心してほしい。私は元いた世界では歴史学者で、軍事には素人同然だ。だが、この頭の中には古今東西の戦争の記録が詰めこまれている。すべて、書物から得た知識だ。こんなことを聴いて、不安になった者もいるかもしれないな。」
兵士たちの間からクスクスと笑いが起こった。
「笑ってくれてかまわないよ。さて、勝つ算段はしたものの、想定外の事態が発生するかもしれない。その時はどうするか分かるか?」
想定外の事態と聞いて、兵士たちみんなが急に不安げな表情になった。
「想定外の事態になったときはどうするか? 逃げるんだよ。負けた場合はさっさと逃げる。おそらく三成君が『逃げろ!』って言うから、その時は悔しくても逃げるんだ。心配しなくていい。三成君はとても逃げるのがうまい。」
ここで大爆笑になった。
「何がなんでも、生きてこそだ。最後まで生きる希望を失わないことだ。だが、君たちは死なない。戦いには勝つ! 以上だ!」
満場の拍手を得て、私は演説を終えた。
誰も死なせたくない。そして、誰も死なない。
私はそう願った。
***
フェアリーの月の25日、陽が西に傾き始めた頃である。
魔族軍がグラドス高原に姿を現した。
地平線の向こうから20万のゴブリン兵が進軍してくる。
その左翼にはオークの軍団が、右翼には魔族の騎馬隊が配置されていた。
「魔族軍が来るぞ、大挙してくるぞ。」
私は唾を飲んだ。
わずかながらも緊張している。
幸村君は相も変わらず冷静だ。
「戦いになると何故か心が静まり返るなり」と言っていた。
東の空に黒い影が現れた。
ワイバーンの編隊である。
「幸村君、出るぞ!」
「バトル・アーマー、発進なり!」
バトル・アーマー、急速上昇!
紅蓮を背中に乗せた烈風がワイバーンの編隊に向かった。
「敵、ワーバーンはおよそ70体なり!」
「やれるか?」
私がそう叫んだ時、幸村君はすでに一体のワイバーンを炎の剣で斬り伏せていた。
-----ギェェェェー!
断末魔の叫びをあげて墜落していくワイバーン。
-----ズギュン! ズギュン! ズギュン!
魔導ガンが火を噴いた。
「3体、撃墜なり!」
「やるな、幸村君! 上昇するぞ!」
烈風は一気に上昇した。
眼下にワイバーンの群れがあった。
「さすが先生なり! ワイバーンの上を取ったのだ。魔導ガンで狙い放題なりよ。」
-----ズギュン! ズギュン! ズギュン!
ワイバーンは次々に撃ち落とされていく。
「よし、私も風の剣で応戦してやる!」
-----シュオ! シュオ!
風の剣が空を斬り、同時にワーバーンの翼を切り落とした。
翼を失ったワイバーンが地上に向かって落ちていく。
「相変わらず地味な魔法なりね。」
「うるさい!」
私と幸村君の奮戦で、ワイバーンの編隊はまたたく間に壊滅した。
「また、来るぞ!」
西の空に新たなワーバーンの編隊が現れたのだ。
「きりがないなり! 先生、魔力共振を使うなり!」
「よし、魔力を送るぞ!」
紅蓮の両腕が発光し、二本の炎の剣がワーバーンの群れに向けて放たれた。
魔法共振の炎の剣だ。
かつて大公軍と戦った時の幸村君のそれとは段違いの威力である。
一気にワイバーンの編隊を地上に叩き落したのだ。
「まだ来るなりか?」
「マドンナも100体以上ののワイバーンがあっという間にやられるとは思っていなかったはずだ。」
「どこかで様子を見ているなりね。」
「警戒しろ!」
地上ではオークの軍団と冒険者部隊が激突していた。
魔法使いが次々と魔砲弾を撃ち込み、オークが怯んだ隙をついて剣士たちが斬りかかる。
冒険者部隊のフォーメイションを生かした波状攻撃である。
「さすがは冒険者部隊なり、戦いなれているのだ。」
「しかし、あの下品な叫び声はなんだ。」
「『豚どもー、皆殺しだー』って聞こえてくるなり。」
「まっ、強さの証だと思っておこう。」
「オークは見かけより弱っちいなりね。」
「違う。冒険者部隊が強いんだ。我の強い冒険者たちが、我を殺して連携プレイに集中すれば、結果はおのずとこうなる。」
「やるなりね、ゴドー殿!」
安心したのもつかの間、私は異変に気付いた。
魔族の騎馬軍団がおよそ500騎、国民軍の後方に現れたのだ。
私は魔法通信機の回路を三成君につないだ。
「三成君、魔族の奇襲だ!」
「了解です、先生。ジュウザ殿を迎撃に向かわせまする!」
「魔族どもめ、国民軍を後ろから攻撃する作戦だったんだろう。だが、空からは丸見えだ。こちらには通信機もあるんだ。これが近代戦、おまえたちとは戦いの質が違うのだよ。」
「魔族たちは、ジュウザ殿率いる騎馬隊の出現に驚いたみたいなり! まさか、こんなにも早く敵がやってくるとは思っていなかったなりね。」
だが魔族には奥の手がある。
魔族たちの暗黒魔法によってゴーレムが立ち上がったのだ。
ゴーレムは土の中から何体も何体も立ち上がり、その数はみるみる増えていく。
「ゴーレムの数が多すぎるなり。100体はいるなり!」
「まずいな。ジュウザ殿の風の魔法では防ぎきれない。」
ジュウザ殿は風の魔法を繰り出すが、ゴーレムは何度でも再生する。
シーマの武将たちは奮戦したが、ゴーレムにとって人間は地を這う蟻のようなものだ。
-----ドスーン! ドスーン!
ゴーレムはシーマの軍団を踏みつぶそうとする。
「死せーぇ! みな死せーぇ!」
ジュウザ殿のはそう叫びながらゴーレムに立ち向かっていった。
彼は配下の武将たちに、ゴーレムを道連れに死ねと言っているのだ。
武将たちは捨て身の攻撃でぶちあたっていく。
「このままではジュウザ殿の部隊が壊滅する。幸村君、救援に向かうぞ!」
だがその時である、ワイバーンの次なる編隊が迫りつつあったのだ。
「ここはあたしに任せて、先生はジュウザ殿の救援に行くなり。」
「大丈夫か?」
「あたしを誰だと思ってるなりか?」
「では、任せた!」
紅蓮はローターを回転させて烈風の背中から上昇した。
私は烈風のスラスターを全開にしてジュウザ殿のもとへ向かった。
「ジュウザ殿、救援に来たぞ!」
「おおー、これは兄上じゃなかと。ゴーレムには少々、手を焼いておりもす。」
この状況で「手を焼いておりもす」はないだろう。
だが、これがジュウザ殿の豪胆さだ。
「ジューザ殿、ゴーレムは私がやる。魔族どもをやってくれ!」
私は風を放った。烈風のスラスターからトルネードを撃ち出したのだ。
風の渦がゴーレムを襲い、ゴーレムは風の中に吹き飛んでいった。
完璧に消滅したかのように見えるゴーレムも、やがて再生することになる。
元凶たる魔族を倒さなければならないのだ。
ジューザ殿の騎馬隊が駆ける。
魔族の騎馬隊を包囲したジューザ殿は魔族たちを睨みつけて言った。
「その首、置いてけ!」
そして、ジュウザ殿が軍配を振り下ろすと、武将たちが一斉に魔族に襲い掛かった。
「チェスト、行けぇぇぇぇぇ!」
戦国の狂戦士とうたわれた島津豊久の子孫である。
その猛攻はすさまじかった。
魔族たちは一人残らず首を討たれた。
一方、上空では80体近いワーバーンが幸村君の紅蓮を包囲していた。
「いかん、幸村君。紅蓮のスピードではワーバーンに追いつかれてしまう。ドローン機能でよたよた飛んでいたところをワイバーンに囲まれたな。」
「幸村君、大丈夫か?」
私は魔法通信で呼びかけた。
「大丈夫なりよ。ワイバーンに囲まれるのを待っていたなり!」
「何だと!」
私の心配など幸村君には無用だった。
「火炎弾、全弾発射なりーぃ!」
私には紅蓮の機体が一瞬輝いたように見えた。
紅蓮はその機体の発射口のすべてから火炎弾を一斉に発射させたのである。
数えきれないほどの無数の火炎弾だ。
紅蓮を包囲していたワーバーンの編隊は、一瞬にして火だるまとなった。
私は、80体ものワイバーンが燃え落ちていく光景に背筋が寒くなった。
幸村君の魔力は、この戦場を得てさらに強くなっている。
私の上空をひときわ大きなワイバーンが飛行していた。
ワイバーンにはマドンナが乘っていった。
「マドンナ、もう降参しろ! これ以上の戦いは無益だ!」
「ほう、先生かい。妙なものに乗ってるんだねぇ。」
「これが魔導兵器の力だ! 魔族に勝ち目はない!」
「何を言ってるのかねぇ。勝負はこれからだよ。見な!」
そう言い残すと、マドンナを乗せたワーバーンは大きく羽ばたき上昇した。
「逃げるつもりか、マドンナ!」
私はマドンナを追おうとしたが、ワイバーンが飛び去って行く地平線はゴブリンの大軍団で覆いつくされていたのだ。
-----ザッ! ザッ! ザッ! ザッ! ザッ! ザッ!
足音を響かせてゴブリンの大軍は国民軍の陣地に迫りつつあった。
私は烈風のスラスターを噴射させ、幸村君と合流した。
「先生、あたしたちもゴブリンを討つなり!」
「魔力をだいぶ消耗しているんじゃないか?」
「大丈夫なり。まだ残っているなり!」
「やめとけ、またワーバーンの編隊が襲ってくるかもしれん。魔力は温存しておくんだ。」
幸村君の唇を噛む音が聞こえた。
ここで戦えないのが悔しいのだ。
「幸村君、ここは三成君の采配に任せよう。三成君が指揮する国民軍がゴブリンの大軍を撃ち砕いてくれる!」
20万のゴブリン兵が大挙して迫りつつあった。
迎え撃つは我らが国民軍、10万の兵士である。
三成君! 魔族どもにその実力を見せつけてやれ!




