57、イースタリア侵攻
夏である。
太陽は輝きを増し、大地はあまねく陽の光で包まれた。
この世界の暦では、この月は「フェアリーの月」と呼ばれる。
フェアリーの月の7日。
夜明けとともに王家の軍はバイラス峠を越えた。
イースタリア侵攻の開始である。
長い隊列が山を越え、河を渡り、平原を行軍した。
私と幸村君はバトル・アーマーに乗り、空から行軍を見下ろしていた。
アマテラーザ国民軍の先頭を進むのは、ゴドー殿率いる王都防衛軍、通称・冒険者部隊である。
幸村君の声が魔法通信で聞こえてきた。
「魔法使いに剣士、いかにも冒険者という武装なりね。剣士たちは盾に剣、魔法使いは杖を持っているなり。鎧も頑丈そうなり。」
「彼らが戦う相手は魔獣だ。あれぐらいの重武装でなければ対抗できん。」
「冒険者部隊に続くのは国民軍なりね。軍服も地味な感じなりね。武器は、剣とディガン・ドロワだけなりか。」
「国民軍は運動性を重視だ。戦国時代で言えば鉄砲隊というところだ。」
「これが主力なりね。」
「そう、10万の兵のうち、7万がディガン・ドロワを装備した魔法鉄砲隊だ。」
「あとの3万は何なりか?」
「補給部隊だよ。荷駄を曳き、兵糧と武器を運ぶ。」
「補給部隊に3万人もいるなりか?」
「これだけの兵団を維持するには必要な部隊だ。」
国民軍の後には魔導士部隊が続く。
魔導士部隊は戦場を駆け巡るため、全員が馬に乗っている。
その先頭を行くのは、白の魔導士ギョーム殿と黒の魔導士ヴァルデーノ殿。
「イケメン野郎が轡を並べて、なにやら嬉しそうに会話しているぞ。」
「尊いなり!」
魔導士部隊の後ろをついていくのは一台の白い馬車だ。
「王女様が乘ってるなりね。3頭立ての馬車なのだ。」
「王女専用の馬車だ。ツキヨミ殿が戦場に来たことで兵士たちの士気も上がっている。国民を戦場に送っておいて、自分たちは城に閉じこもっているような王族や政治家は不要だ。ツキヨミ殿は高貴なる者の義務を果たそうとしているんだ。」
「ノブリス・オブリージュなりね。高貴なる者の第一の義務は、戦争にいくことなり。」
「ツキヨミ殿は旗印だ。これを取られると軍勢は総崩れになる。」
「守りは魔導士部隊と、マリータ殿のドワーフ傭兵部隊なりね!」
「そうだ、馬車の前方を魔導士部隊、後方をドワーフ隊が守っている。」
「王女様にとってはマリータ殿のような女性兵士がそばにいてくれることが安心なりね。」
「そうだ、冒険者部隊にも国民軍にも女性の兵士が数多く参加している。」
「女だって強いなりよ!」
「身にしみているよ。」
「来たなり、来たなり、殿軍は男くさい連中なりよ。ジュウザ殿の精鋭部隊なりね。まるで戦国武将みたいなのだ。」
「うん、ジュウザ殿は率いてきた2万の兵のから精鋭2千を選抜して精鋭部隊を編成したんだ。ジューザ殿の相手は魔族とゴーレムだ。精鋭部隊全員が三成君が錬成した魔剣、そしてディガン・ドロワを装備している。」
「魔族と戦うための装備なりね。」
***
フェアリーの月の11日正午。
アマテラーザの国民軍は決戦の地となるグラドス高原に到着した。
グラドス高原は溶岩台地であり、作物は取れない無人の荒野なのだ。
「ここを決戦の地に選んだのは、農民たちに迷惑をかけないためなりね。」
「それもあるが、敵を迎え撃つのには最適な地形だ。この地の選定にはイースタリアから亡命してきたマシアス殿の助言によるところが大きいんだ。」
「亡命者も役に立つなりね。」
かつて火山の噴火が作り出した溶岩台地には、長い歳月が風化させたなだらかな丘が連なっている。
国民軍総司令・石田三成は小高い丘の上に陣地を築くことを兵士たちに命じ、兵士たちは剣を木槌に持ち替えて杭を打ち陣幕を張った。
同日、陽が傾くころ、高原に魔族の騎馬部隊が姿を見せた。
「斥候だ!」
「偵察に来たなりね。」
「まさかイースタリアに侵攻するなどとは、マドンナも夢にも思っていなかっただろうな。」
「敵は20万、こちらは10万、半分の戦力で攻め入るとは普通は思わないなり。」
「こんなことが可能になったのは、ディガン・ドロワあったればこそだ。」
「ノーラ殿に感謝なりね。」
「ノーラ殿といえば、今ごろはポセイドゥス殿の公爵叙任が終わった頃だな。」
「新しい公爵の誕生で、ブルーベルはお祭り騒ぎになっているなりね。」
「お祭り騒ぎはない。ウエスピアの貴族や民衆も魔族との戦いのことは知っている。だからこそ、これだけの食料をこの戦いに提供してくれたんだ。」
「兵糧や補給はウエスピアが請け負ってくれてるなりね。ウエスピアにとっても大出費のはずなのだ。」
「ノーラ殿の判断だ。彼女だってこの戦いに魔族が勝てば、どういう事態を引き起こすのか分かっている。」
「ノーラ殿には足を向けて寝られないなりね。」
翌12日早朝、私たちの頭上をワイバーンが飛行した。
火炎弾で撃ち落とそうとした幸村君を私は制止した。
「まて、幸村君。あのワーバーンは偵察に来たんだ。マドンナも国民軍の侵攻にあわてている証拠だ。」
「あえて、国民軍が侵攻したという情報を与えるわけなりね。」
「そうだ、この情報でマドンナは焦るだろう。だが、気づくはずだ。」
「王家の兵は10万だということなりね。」
「マドンナはどうすると思う?」
幸村君はマドンナの声真似をして答えた。
「ほほほ、こちらには20万のゴブリン兵がおるのだ! 王家の軍など叩き潰しておしまい!」
「わはは、うまいな、マドンナの真似か。」
「ちょっと練習したら、できたなり。」
「いまごろレガリア城は上を下への大騒ぎだろう。」
「出兵の準備で大忙しなりね。」
「では、幸村君、こちらも偵察に出るか。」
「承知なり!」
バトル・アーマー、起動!
「魔導エンジン、ワン、ツー、スリー、オンだ!」
「フォー、ファイブはオフなりね。」
「そうだ、これは偵察だ。できるだけ静かに飛ぶ。」
「離陸するなり!」
バトル・アーマー紅蓮がローターを回転させ舞い上がった。
私は烈風で飛び立つ。
烈風は高度500メートルで飛行形態に変形すると、まもなく紅蓮に追いついた。
「幸村君、烈風の背中に乗れ。」
「背中を借りるなり!」
紅蓮を乗せた烈風は一路、東を目指した。
「マドンナも、あたしたちが空から来ることは知らないなりね。」
「そう、私たちが魔導兵器を手に入れたことは、まだ伝わっていないはずだ。」
私と幸村君のバトル・アーマーはレガリア城の上空を2000メートを飛行した。
「ゴブリン兵が集結してきてるなり!」
「魔族たちが馬に乗っているぞ!」
「オークの豚野郎がいるなり。」
「よし、偵察は十分だ。ワイバーンが来る前に帰投する。」
「バトル・アーマーはまだ見せたくないなりね。」
「そうだ、バトル・アーマーは決戦兵器だ。小競り合いに使うのはもったいないからな。」
私は烈風を旋回させた。
魔族軍が出兵の準備を終えるのに3日、グラドス高原までの行軍には10日を要するだろう。
そこから計算すると、魔族との決戦の日はフェアリーの月の25日となる。
決戦の日まで、あと13日。
グラドス高原において、アマテラーザ国民軍と魔族軍が激突する!




