56,バトル・アーマー離陸
イースタリア州境に到着した三成君は、国民軍が引いてきた来た荷駄を見分中だ。
荷駄は武器と兵糧である。
そうした荷駄のなかで異彩を放っているのは、全長5メートルほどもある巨大な2台の荷車である。
荷車に乗っているのはシートをかぶせられた魔導決戦兵器であった。
「三成君、これが例の物かね?」
「さようでござる。先生、幸村殿、さっそくお目にかけましょうぞ。」
三成君は兵士たちのに命じた。
「みなのもの! デッキ・アップじゃ!」
兵士のひとりが素早く荷車に駆け上りシートをめくりあげた。
荷台にはロープがかけてあり、十数人の兵士たちがロープを引いた。
おうれ! おうれ!
兵士たちの掛け声に合わせて荷台はゆっくりと持ち上がり、垂直になったのである。
荷車の上に背丈4メートルほどもある巨人が立っている。
一体は黒のボディーである。
そして、もう一体は真紅のボディーに六文銭のマークが染め抜かれている。
「ロボットなり!」
「三成君はロボット工学を学んだと言っていたな。この異世界でロボットを作ってしまったのか!」
「ロボットではございませぬ。バトル・アーマーにございます。」
「バトル・アーマーか…」
「そう、これは強力なる魔力を秘めた召喚者専用の、いわば鎧にございます。」
「鎧なりか?」
三成君は、フッ、フッ、フッ、と低い声で笑った。
「そうでござる。この鎧を身にまとい、空高く駆け上りますればワイバーンなど敵ではございませぬ。」
「飛ぶのか?」
「バトル・アーマーにはローターが装備されておりまして、ドローンの機能で舞い上がります。」
「乗ってみてもいいなりか?」
幸村君は満面の笑みで言った。
「よろしかろう、幸村殿、まずはバトル・アーマーに乗ってみられるがよい。」
幸村君は勇んで荷車に駆け上がった。そして赤いバトル・アーマーを見上げた。」
「幸村殿! そこのレバーを引くのでござる。さすればハッチが開き申す。」
「これなりね!」
幸村君がレバーを引くと「グワン!」という音を立ててハッチが開いた。
コクピットに座った幸村君はコンソール・パネルに並んだスイッチを見て困惑している。
私と三成君も荷台に登り、コクピットを覗き込んだ。
「このスイッチを右から順番にオンにしていくでござる。」
幸村君がスイッチをパチ、パチと跳ね上げていく。
おっ、このパチ、パチというのが戦闘機みたいでかっこいい。
「スイッチをオンにすると搭乗者の魔力が回路を通じて機体の隅々まで流れていき申す。バトル・アーマーの動力は魔力なのでござるよ。」
「魔力で動くロボットか!」
「ロボットではござらん! バトル・アーマーでござる。機体には16個のドロワ鉱石が各箇所に配置されており搭乗者の魔力を増幅させ、また、魔力を機体の隅々に伝達する回路の役目も果たし申す。これにより、自在に操ることができますぞ。」
三成君の説明どうり、幸村君の魔力がバトル・アーマーに流れ込み、機体がうなるような音を立てた。
「もう起動できるなりか?」
「起動には詠唱が必用でござる。ひとたび起動すれば、その後の詠唱は不要でござる。つまりは無詠唱で魔法を繰り出せますぞ!」
「やってみるなり!」
<<臨! 兵! 闘! 者! 皆! 陣! 列! 在! 前!>>
-----グオン!
真紅のバトル・アーマーが起動した。
胸の排気口から空気が吐き出され、頭部にある目に光が宿った。
「幸村君、動かせるか?」
「大丈夫なり、先生! 意外と簡単なりよ。魔力が意思を伝達してくれてるみたいなのだ!」
「考えただけで思い通りに動くのか?」
「そのとおりなり!」
バトル・アーマーがゆっくりと腕を動かす。
「三成君、ロボットの腰のあたりについている鉄砲のようなものは何だ?」
「ロボットではござらん、バトル・アーマーでござる。あれは魔導ガン、お察しの通り鉄砲でござる。魔法の力を一点に集めて打ち出す魔導兵器でござるよ。」
幸村君はさっそく魔導ガンを構えた。
「撃ってみるなり!」
-----ズギューン!
紅い弾光が山を飛び越え、空のかなたに消えていった。
すごい!
この威力は、かつて幸村君が私と魔力を共振させノックス山を破壊したそれに匹敵する。
あの時の私と幸村君の渾身の力を、バトル・アーマーは軽々と再現して見せたのだ。
「三成君、このロボット、飛べるんだよな?」
「ロボットではござらん、バトル・アーマーでござる。むろん、飛べます。」
幸村君はローターのスイッチを入れた。
機体にいくつも取り付けられたローターが回転し、バトル・アーマーはゆっくりと上昇を開始したのだ。
「山が下の方に見えるなり! どんどん上がっていくなりよ。」
幸村君が大声で叫んでいる。
三成君がニヤリと笑った。
「これが真田幸村殿専用バトル・アーマー『紅蓮』でござる!」
「紅蓮か…」
「そして、もう一機、あの黒いバトル・アーマーが先生の専用機『烈風』でござる。」
「あれが私専用か?」
「烈風のドローン機能は補助的なものにて、基本は先生の風の魔法で飛行しまする。」
「私も乗ってみたい。」
「先生、どうぞ。」
私は「烈風」に乗り込んだ。
スイッチをパチ、パチと跳ね上げ、詠唱で起動させる。
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「よし、ロボ、起動だ!」
「ロボではござらぬ。バトル・アーマーでござる! 攻撃を主力とする『紅蓮』に対し、『烈風』は高速での飛行を可能にした機体でござる。先生、飛んで見せられよ!」
「了解だ! ロボ、発進!」
「ロボではござらぬ!」
「烈風」をドローンのローターで5メートルほど上昇させる。
「先生、『烈風』を変形させられよ、右のレバーでござる!」
「変形するのか!」
「飛行形態でござる!」
右のレバーを引くと、「烈風」がきしむような音を立てて戦闘機の形状へと変形した。
私はスラスターから風を一気に噴出させた。
「烈風」の翼が風を切り、ぐんぐんと上昇していく。
私の体は重力で押しつぶされそうになったが、耐えて見せる!
「先生、空を征く気分はいかがでござろうか?」
おっ、コンソール・パネルから三成君の声が聞こえるぞ。
「これもドロワ鉱石の機能をつかった魔法通信でござるよ。我ら召喚者にしか使えませんかな。」
「三成君にも、私の声が聞こえるのか?」
「聞こえてござる!」
「こっちにも聞こえてるなりよ。」
幸村君の声だった。
「幸村君、追いついたぞ。コンビネーションをやる! 私の背中に乗れ!」
「承知なり! 背中を借りるなり!」
私は「烈風」の機体を「紅蓮」の下に寄せた。
幸村君は「紅蓮」をゆっくりと下降させる。
「スリー、ツー、ワン!」
「接触なり!」
軽い衝撃が伝わってきた。
「紅蓮」が「烈風」の背中に乗ったのだ。
「このままイースタリアの州境を越えるぞ!」
「領空侵犯なりよ。」
「かまうもんか! ワイバーンでも来ない限り、この空は私たちのものだ。」
「ついでに偵察していくなり。」
眼下にはイースタリアの大地があった。
ここが、やがて戦場になるとは思えないほどの美しさだった。
幸村君は地上を見下ろしながら言った。
「こうして空から地上を眺めると、なんだか優しい気持ちになるなりね。」
「そうだな、人々の営みが、まるで箱庭の中にあるようだ。」
「哀しいほど美しいのだ。」
「幸村君、感傷に浸っている暇はない。グラドス高原が見えてきたぞ。」
「あそこが決戦の地なりか?」
「我々はグラドスに侵攻し、ここで魔族軍と会戦する。」
「いよいよなりね。」
「いよいよだ。さあ、帰投するぞ!」
「承知なり!」
「旋回するぞ、振り落とされるなよ!」
「先生こそ、失敗して墜落しないよう気を付けるなりよ。」
「生意気を言うな。」
私は「烈風」の機体を上昇させ大きく宙返りした。
背面飛行になると幸村君の「紅蓮」が両腕を固定した。
頭上に大地があり、眼下に空があった。
「幸村君、次は上昇する!」
「どこまで上昇できるか試してみるなり!」
バトル・アーマーは高度5000メートルまで上昇した。
重力が私の体を押しつけ、空はその濃度を増していった。
「なんという空の色だ!」
私は感嘆した。
空は、泣きたくなるような蒼さだった。




