53,戦争は計算してやるものだ
王都には大量の志願兵たちが押し寄せていた。
先日、ディガン・ドロワを試し撃ちした少年の噂が王都から同心円を描くように、周辺の村々からさらに遠くまで広がっていったからだ。
まさにあの少年は、静まり返っていた湖に落とされた一滴の水であり、その波紋は歴史を動かしつつあるのだ。
三成君とゴドー殿は、大量の志願兵を迎えておおわらわだ。志願兵の数は6万を超えようとしている。
「三成君、大盛況だな。」
「これほどの志願兵になるとは思いもかけませなんだ。この兵たちをグループに分けます。50人をもって小隊とし、3つの小隊が集まって中隊とする。さらに3つの中隊が大隊を構成し申す。」
「近代軍の基本的な編成でというのはナポレオンの頃から変わっていないな。」
「ナポレオンがいかに優れた軍人だったかの証左でござる。」
小隊は職業別に編成された。
農民隊、商人隊、職人隊である。
「芸人隊というのもあるなりよ!」
「とりあえず職業に関係なくディガン・ドロワを撃てる者はすべて兵になる。だが、同じ職業で編成しておくと仲間意識も目覚めやすいからな。」
「高杉晋作の奇兵隊なりね。」
「そうだな、奇兵隊は早すぎた国民軍と言われているからな。」
幕末、長州藩において奇兵隊を創設したのは高杉晋作である。
武士だけで構成された藩の正式な軍隊を「正兵」すれば、庶民で構成された軍隊は「奇兵」だという発想だ。
奇兵隊は志願兵であり、職業や出自によって様々な諸隊の寄せ集めであったが、自ら戦う意思を持った集団であり、戦いにおいて連戦連勝だった。
「向こうにいるのは貴族隊なりね。貴族の子弟で構成された部隊なり。」
「貴族というのはいわば庶民の納める税金で食わしてもらっている身分だからな。有事には戦闘に参加する義務がある。これがノブリスオブリージュ、『高貴なる者の義務』だ。彼らは先陣を受け持つ。戦争で死ぬ確率は庶民たちよりも高い。」
「当然なりね。どこかの国の政治家には戦争を煽っておいて、自分は戦争に行かないような奴がいるなり。」
「国民国家が誕生し市民が力をつけると貴族は弱体化する。同時に『高貴なる者の義務』も廃れていくということだ。」
「戦国武将の気概を感じられる政治家なんて居なかったなり。小粒な官僚ばかりだったのだ。」
「私たちの元の世界は、そういう無残なところだったかもしれんな。」
「つまんない世界だったなり。」
***
この志願兵たちを訓練しなくてはならない。
一役買ってくれたのはジュウザ殿である。
国民軍の基本的な動作は行進である。隊列を整えて司令官の命令通りに動くことだ。
庶民は行進なんてしたことがない。しかし、見たことはある。
先日のジュウザ殿の行列である。
ジュウザ殿の兵は訓練を積んだ熟練の兵士たちであり、彼らが庶民に行進を教えた。
「兄者、オイは驚きもした。またたく間に7万にも及ぶ軍団が出来あがっと。その7万がすべて火炎弾を撃てるっとか。凄まじきことでごわす!」
「ああ、だが魔族との戦いはできたてホヤホヤの国民軍だけでは無理がある。敵の主力はゴブリンの大群だ。これは国民軍の担当になる。しかし、国民軍には脆弱な面もある。戦況が悪化した場合、戦いなれていない分、パニックに陥る可能性を考えておかないとならない。」
「そん場合は、オイたち精兵が国民軍を守らんといかん!」
「そうだ、それから魔獣の相手は私たち召喚者と魔導士、そして精兵がやることになる。」
「魔獣でござっとか?」
「ワイバーンにオーク、魔族たちはゴーレムを操る。」
「魔獣の相手は足軽どもには無理でごわす。サウスティカの2万の兵から精鋭を選び抜かにゃならんごつ!」
「ならば、精鋭を除いた足軽たちを、国民軍に合流させてくれ。」
「分かりもした。オイたちは少数精鋭で軍を編成しもす!」
「助かる。我が弟よ!」
ジュウザ殿のの2万が加わることにより、国民軍は10万の大台を超えた。
「敵は幾万ありとても、撃ちてしやまん勝つまでは!」
などと言うつもりはない。
戦争とは計算してやるものだ。
ゴブリン兵の数はおよそ20万。対する国民軍は10万。
数では確実に負けるのだが、戦力の質は全く違う。
いわばこれは、槍と鉄砲との戦いだということだ。
勝つための算段はできている。
私とジュウザ殿が話していると、幸村君がいそいそとやってきた。
戦国武将にあこがれる幸村君にとってジュウザ殿はまさに大好物なのである。
「ジュウザ殿、国民軍の調練はどうなりか?」
「これは幸村どん! まずまずでごわす。」
「10万なりか。大軍なのだ。」
「オイたちの相手は魔獣でごわす。幸村どん、魔獣との戦い方を教えてたもんせ。」
「魔獣は魔法と剣で倒すなり。ジュウザ殿、魔法は使えるなりか?」
「うむ、召喚者や魔導士とはいかんが、けっこう使ゆっと。」
「なら、ジュウザ殿もディガン・ドロワを使うなり。魔力が増幅されるなり。魔法を操りながら、剣でとどめを刺すなり。」
「剣と魔法の二刀流でごわすな。幸村どんもディガン・ドロワを使いもすか?」
「三成君は言ってたなり。召喚者の魔力でディガン・ドロワを使うのは魔力の暴走につながるのだ。」
「召喚者殿の魔力はたまげたものらしいのう。」
「それで召喚者用の魔導兵器を開発中らしいなりよ。」
「召喚者用の魔導兵器っとか、恐ろし気なものが出てきそうじゃのう。」
「楽しみにしてるなり。」
幸村君とジュウザ殿は意気投合している。
ジュウザ殿の少年のような目に幸村君は惹かれているようだ。
ジュウザ殿も幸村君のキラキラした目を嬉しそうに見ている。
案外に似合いの… いや、いや、いや、
しかしだぞ、幸村君とジュウザ殿が結ばれるとなると、幸村君は私の妹ということになる。
いいかもしれんな。私にもこの異世界で家族が持てるということなのか。
まっ、それも魔族を倒したらということだ。
私は幸村君とジュウザ殿の会話に割り込んだ。
「ところでジュウザ殿の魔法属性は?」
「オイは風じゃ。」
「私と同じだな。」
「兄上も風でごわっとな。よか、よか。」
「風の魔法は土属性に対して強い。ジュウザ殿にはゴーレム退治を担当してもらおう。」
「ゴーレムとな…」
「ゴーレムは魔族が暗黒魔法を発動して生成する土人形だが、その破壊力は岩をも打ち砕く。倒し方は風の魔法でどってっぱらを撃ち抜くんだ。そうすればゴーレムは風の中に崩壊する。」
「兄者、ちょっとやってみて良かか?」
「うん、見せてくれ。」
ジュウザ殿は腰を落として身構えた。
そして詠唱だ。
<< チェストー! >>
-----ドン!
風圧が押し出されるように空気が振動した。
威力は私の半分以下だが、ゴーレムの足を止めるには十分だ。
ゴーレムは魔族が生きている限り何度でも再生する。
私はジュウザ殿にもうひとつアドヴァイスしておいた。
「ゴーレムを生成するのは魔族だ。いったん倒したゴーレムも、魔族の魔力が回復すれば蘇る。ゴーレムを倒すには魔族を倒さねばならない。」
「魔族を倒すでごわすか。魔族の倒し方はどげんすれば良かか?」
「魔族の戦闘能力は人間とさして変わらない。身体強化はしているがな。だが、三成君のこしらえた魔剣で一刀両断にできる。」
「この剣でごわすな。」
ジュウザ殿は魔剣をスラリと抜いた。
「三成どんは、この魔剣を『雷雲』と名付けられもんした。オイはこの雷雲で魔族を断ちもんそう。」
魔族との決戦はもうそこまで近づいている。




