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異世界★戦国武闘伝~歴女と歴史学者の異世界戦記  作者: 近森 元
Ⅶ、戦略編

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52,国民第一号

 その翌日から三成君はディガン・ドロワの量産に着手した。

 

 「三成君、まずはドロワ鉱石だな。」


 「希少な鉱石ではござりまするが、金の魔法の錬成術にかかれば容易《たやす》いことでござる。」


 「さすが三成君だ。召喚者の強力な魔力は瞬く間に大量のドロワ鉱石をこの世界に生成したようだな。」


 「先生、ドロワ鉱石を収めるディガン・ドロワ本体の作成は、グランローゼの職人ギルドが請け負うこととなり申した。」


 「三成君、魔導兵器をどれだけ作り上げようが、それを使う兵がいなくては無用の長物となってしまうぞ。」


 「兵を集めるのでござるな。ならば民の中から徴兵をいたしまする。」


 「いや、無理やり徴兵した兵では魔族に勝つことはできない。国民軍は国民自身が自発的に戦うのでなければ傭兵と同じだ。」


 「なるほど愛国心なき国民は傭兵と同じでござるな。」


 「愛国心と言っても二種類ある。ナショナリズムとパトリオティズムだ。前者は国粋主義や民族主義と結びつくが、後者は純粋な国家への忠誠心だ。戦いに必要なのはパトリオティズムだ。」


 「難しゅうござるな。国民が自ら忠誠心を持って国のために命を懸けるには、それなりの動機が必要でござる。」


 「そのためにツキヨミ殿に一役買ってもらうことにした。」


 「ツキヨミ殿にござるか?」


 「明日、王都グランローゼにはジュウザ殿の軍が到着する。ジュウザ殿の軍は、王家や大公家の軍のような西欧式の装備ではない。日本の戦国武将のきらびやかな軍装だ。」

 

 「この大行列の見物にグランローゼの街の衆だけでなく、周辺の村々の農民たちもこぞって見物にやってくるでござるよ。」


 「このチャンスを最大限に活用して募兵を行うのだ。」


 「民衆の気分が高揚したところで、なにやら恐ろし気な事を仕掛けるのでござろうか?」


 「ちょっとした見世物だよ。」


 そう言って、私は自嘲した。



 ***


 私とツキヨミ殿はは塔に登り、窓から西の方角を眺めていた。

 地平線の向こうから戦国武将の軍団が列をなしてやってくるのが見えた。


 「ツキヨミ殿、手はずはいいな。」


 「すぐに準備をはじめますわ。」


 ジュウザ殿の行列は、物見高い周辺の村々の農民たちを引き連れてグランローゼの街に到着した。

 街の衆も大騒ぎである。

 魔族の復活に怯えていた人々は、たのもしいジュウザ殿の援軍に希望を見出したかのようだった。

 萌黄色の直垂《ひたたれ》に金糸銀糸を散りばめた黒い陣羽織を羽織ったジュウザ殿の姿は、まさに軍神であった。


 行列がゼーランディア城の城門に到着すると、ジュウザ殿は馬上から大音声《だいおんじょう》をあげた。


 「シーマ伯爵が甥、ジュウザ・シーマ、2万の兵を従えて到着しもした! 我ら女王様に従い、魔族を討ちもんそう。いざ、開門ーん!」


 よく通る、さわやかな声だった。

 しかも、ノーラ殿が言うように「ごっつエエ男」なのだ。

 その男ぶりに民衆は沸いた。


 「カッコいいぞー、ジュウザ様ーぁ!」

 「ジュウザ様、ステキー!」


 街は歓声につつまれた。

 さすがは我が弟、民衆の心を瞬時にしてつかみおったわい。


 

 そして城門がギギッと音をたてて開いた。

 城門の中には白馬が一頭。

 白馬は城門を駆け出た。

 馬上にはツキヨミ殿の姿がった。例の白い戦闘服を身にまとい、頭上には白金の冠をいただいている。

 ミニスカ、ノースリブの鎧に身を包んだ戦闘美少女が民衆の前に登場したのだ。

 その姿、まさに異世界のジャンヌ・ダルク!


 -----うおおぉぉぉぉぉぉ!


 民衆の歓声は街を揺るがさんばかりに轟いた。


 王女の姿を捉えて、下馬しようとしたジュウザ殿をだったが、


 「そのままで」

 

 と、ツキヨミ殿はジュウザ殿を馬上に留めた。


 そう、この美男美女が馬上にあって民衆たちから見える高さにあることが重要なのだ。人々は美しきものを崇め奉る。

 アイドルの誕生だ。

 これがプロパガンダ、政治的な宣伝であり演出なのだ。


 -----ツーキヨミ! ツーキヨミ! ツーキヨミ!

-----ジュウザ! ジュウザ! ジュウザ!


 シュプレヒコールである。



 私と幸村君はその様子を城壁の上から見ていた。


 「プロパガンダにアイドルを使うのは独裁者の手口なりね。」


 「ああ、私はアコギなことをしているのかもしれない。」


 「あとはツキヨミ様がうまく事を運んでくれるのを祈るのみなりね。」


 「そうだな。」



 ツキヨミ殿は大きく両手をあげ、その両手をゆっくりと下ろした。

 民衆に鎮まるように言っているのだ。


 「ジュウザ殿、こたびは2万の援軍、心強く思います。」


 「はは、王女様、このジュウザ、命に代えまして魔族を討伐いたしますど。」


 「頼もしく思うぞ。」


 「はは!」


 

 そしてツキヨミ殿は民衆に向けて語りかけた。


 「みなさま! こたびはサウスティカより2万の援軍を得ました。ノーザン・テリトリーのドワーフたちも、我らと同心して魔族を挟撃いたします。ウエスピアは魔族との戦いの兵糧を用意してくれます。なれど、魔族は20万の魔物を従え、我ら人族を再び奴隷とするべく攻めて来ましょう。」


 民衆たちは静まりかえり、その表情には不安の影がさした。

 ツキヨミ殿は沸き立つ民衆に冷や水を浴びせかけたのだ。


 「兵が足りませぬ。魔族と戦うにはもっと多くの兵が必用なのです。わたくしは民衆のなかから兵を募ろうと思っております。」


 民衆たちはたじろいだ。


 「オレたちに戦えるはずないだろ!」

 「王家は私たちを守ってくれるんじゃなかったの?」


 民衆たちの中からヤジが飛んだ。


 民衆の気持ちはわかる。このアマテラーザの国は王侯や貴族のものであり、自分たちは税金を納めるだけの奴隷のようなものだと思っている。魔族の世になれば魔族に税を納めればよいとさえ思う者もいる。

 しかし、民衆にとっても魔族は恐ろしいはずだ。魔族がアマテラス王家ほどの善政を敷くとは思えない。

 民衆にとっても考えどころだ。


 私はツキヨミ殿に、民衆がどう考えるかを教えておいた。

 さあ、ツキヨミ殿、反論だ!


 「みなさま、この国は王侯貴族だけのものではありません。あなた方、ひとりひとりがアマテラーザの国民なのです。この国は国民の手で守らねばなりません。」


 民衆の一人が叫んだ。


 「いいかげんなことを言うなー! オレたちから税金だけむしり取りやがって! オレたちを守るのは王家の義務じゃないのか!」


 ツキヨミ殿は民衆の鋭い指摘に、慌てず答えた。


 「そのとおりですわ。そのことについては詫《わ》びを申しましょう。なれど、歴史が動いたのです。その流れは、もはや何人《なんびと》にも止めることはできません。」


 「だからどうしたと言うんだ! あんたら王族がふんぞり返ったその下で、オレたちは汗を流してきたんだ。王女のあんたにそれが分かるか!」


 「分かりますとも。あなた方の心はこのツキヨミが引き受けましょう。魔族を倒した暁には、この国に議会を開きます。我ら王族、貴族、属州の代表、そしてあなた方民衆の代表も議会の一員となり、この国の政治に参加するのです。」


 この発言には民衆も驚いたようだ。


 「議会だと! オレたちが政治に参加するのか…」


 民衆が顔を見合わせている。


 「そう、あなた方は国民なのです。そしてこの国はあなた方のものでもあります。」


 -----おおー!


 民衆の中にどよめきがあがった。




 「しかしのう…」


 民衆のなかからひとりの老人が前に進み出た。


 「しかしのう、ワシは武器を持ったこともなく訓練もしておらん。そのワシらに戦いができるとは思えんがのう。」


 「ご老人、心配はいりません。我らは魔導兵器を手に入れました。」


 ----カチャ!


 ツキヨミ殿はディガン・ドロワを装着した。


 「これはディガン・ドロワ、魔導兵器です。魔法を増幅させ、誰でも魔砲弾を撃つことができます。論より証拠!」


 << ストルク・ダルゴ・ファイエ >>


 そう詠唱したツキヨミ殿は、空に向かって火炎弾を放った。


 -----ズギューン!


 民衆は空を見上げ、火炎弾《ファイヤーボール》は空のかなたに消えていった。



 民衆の中に震えが生じた。

 それは恐れからなのか、それとも武者震いなのか…

 たぶん、両方だ。



 こんどは少年が進み出た。

 ツキヨミ殿と同じ15歳くらいの少年である。


 「王女様、そのディガ、ディガ…」


 「ディガン・ドロワです。」


 「そのディガン・ドロワをオレにも撃たせてもらえますか?」


 民衆たちがざわめいている。

 農民の少年が王女に直接ものを言ったのだ。

 それだけで驚きである。

 そんな民衆の反応も意に介さず、ツキヨミ殿は、


 「勇気ある少年にディガン・ドロワを。」


 と言い、王女の命に従い兵士が少年にディガン・ドロワを渡した。



 -----カチャ!


 少年がディガン・ドロワを装着する。


 「少年! あの的(まと)を撃ちなさい! 詠唱は『ストルク・ダルゴ・ファイエ』です。」


 ツキヨミ殿は城壁の上を指さした。



 「おっ、幸村君、的の用意だ。」


 「承知なり、的を上げるなり。」


 幸村君は長い棒を立てた。棒の先には赤い日輪《にちりん》を描いた扇がくくりつけてある。


 「扇の的か! 源平合戦だな。」


 「那須与一(なすのよいち)なり!」


 扇の的、源平合戦は屋島の戦いのエピソードである。

 平家の女性が船の上に扇を掲げる。

 この的を射抜いてみよ、ということだ。

 源氏からは弓の名手、那須与一が立ち、見事に扇を射抜いた。

 幸村君は那須与一の故事にのっとって、扇の的を用意したのだ。




 少年はディガン・ドロワを構えた。


 << ストルク・ダルゴ・ファイエ >>


 -----ズキューン!


 少年の放った火炎弾《ファイヤーボール》は空の彼方だ。扇にかすりもしない。


 「少年、今一度、撃ちなさい!」


 「はい!」


 -----ズキューン!


 またハズレだ。




 「まだまだ未熟なりね。」


 「いいんだ、国民軍には英雄豪傑のたぐいは必要ない。最低限の技術と、一糸乱れず命令に従う規律があればいいんだ。」


 「そういうものなりか?」


 「そういうものだ。」




 ツキヨミ殿は、さらに少年に命ずる。


 「今一度!」

 

 「はい!」


 「今一度!」


 「はい!」


 -----ズキューン! ズギューン!



 そして5発目に放たれた少年の火炎弾はみごとに扇の的を射抜いたのである。


 「やったー!」


 少年がガッツポーズを作ると、ツキヨミ殿がほほ笑んだ。


 「お見事でした! そなた、名は…」


 「はい、セグル・グルース、農民です。」


 「褒美をつかわす。」


 「ありがたき幸せ!」


 褒美を受け取る少年の顔は、誇り高き戦士のそれだった。


 民衆の中に「パチ、パチ」と拍手が起こった。

 拍手は民衆の中を伝染するように広がっていった。

 やがて、すべての民衆が少年に拍手を送った。



 「王女様、よかもんを見せてもろうた。」


 ジュウザ殿がツキヨミ殿に言った。


 「ええ、少年の勇気が歴史を変えたかもしれません。」


 「そいじゃ無か、魔道兵器のこつじゃ。凄かもんじゃのう!」



 なるほど、ジュウザ殿にはディガン・ドロワの価値が分かるらしい。

 天性の戦略家のようだ。

 だが、あの少年が意味するものは理解していない。



 「あの少年、いい面構えをしてるなり!」


 「分かるか?」


 「歴史が変わるなりよ。」


 「幸村君には想像できるようだな。未来が…」



 この少年こそ、アマテラーザの国民第一号なのである。

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