51,魔法軍をもって主力と成す
「魔族との決戦は魔法軍をもって主力とする!」
私の言葉に座がどよめいた。
私の予想どおり魔導士のギョーム殿が反応した。
「まってください、魔法戦は小規模な戦いでしか通用しません。たとえば魔獣を倒す場合などは数人の魔導士や冒険者にて行います。しかし、こたびの敵は魔族と、魔族に操られし魔物の大軍と聞いております。たとえ魔導兵器ディガン・ドロワを装備した魔法軍であっても、大挙して襲い来る魔物の群れに勝てましょうか?」
そしてゴドー殿が続く、
「先生は民百姓に魔導兵器を持たせて戦場に送るおつもりですか? 戦いとは戦士が行うものです。戦士は常に武芸を磨き、死ぬ覚悟をしております。素人同然の民百姓に魔導兵器を持たせたとても役に立つとは思えません。」
魔導士と勇者という、彼らの立場からすれば当然の反応だ。
だが常識に囚われすぎている。
私はマリータ殿に水を向けることにした。
「マリータ殿はどう思われる?」
「我らドワーフは狩猟がら食料を得ておりまずから、すべての民を兵力どすることがでぎる。ドワーフは獲物を追って馬に乗り、野を駆け、剣を振るい、弓を射りますべ。それらは戦いの技術と等しいべ。しかし、王都へ参り、この地の百姓たちを見て驚ぎましたべ。彼らは畑を耕し麦や野菜を作るのみにて、戦いに耐えうるものではねぇ。」
魔導士の常識、勇者の常識、ドワーフの常識、
それらをまとめてひっくり返す!
「幸村君」と、私は幸村君を指名した。
「幸村君、鉄砲について説明してくれ。」
「鉄砲なりか…」
幸村君は部屋の隅に置いてあったほうきを持ってきた。
そしてほうきをライフル銃のように構えて見せた。
「鉄砲はあたしたちの世界の武器なのだ。こんな形の鉄の筒に鉄の弾丸を込めるなり。そして火薬に火をつけると…、弾丸が飛び出すなり!」
ズドン!
幸村君が鉄砲の発射音を口真似すると、三成君が胸を押さえて倒れるふりをした。
「私はこの鉄砲をこの異世界で作れないかと検討したことがある。結論から言えば、できなかった。この世界には火薬の材料となる硝石が存在しないからだ。硝石が無いことは、三成君の金の魔法で物質探査をかけてもらったから確かだ。私は鉄砲の製造を諦めざるを得なかった。」
三成君が私の言葉を補足した。
「そのとおりでござる。鉄砲があれば魔族を倒すことも容易でござるよ。」
「三成君、君はディガン・ドロワを見て、すぐに鉄砲を連想したんだな。」
「まさに、ディガン・ドロワはこの異世界における鉄砲でござる。」
さて、私はディガン・ドロワが何故、鉄砲と同じなのかを説明しなければならない。
「鉄砲を使うには、剣や弓のような長期にわたる訓練は必要ない。誰でもが操作法を覚えるだけで一撃必殺の銃弾を放つことができる。ディガン・ドロワもそうだ。エルフの魔導士や冒険者の魔術師のような才能がなくとも、誰でもが魔砲弾が撃てる。」
ゴドー殿が反論する。
「先生、百姓や商人が放った魔砲弾が敵を倒せるのでしょうか。それに、彼らが戦場に赴くことを是としましょうや?」
「そうだな。しかし、今、魔族を倒さなければこの国の人々すべてが奴隷になることを覚悟しなければならない。王侯貴族はもとより、商人も百姓も、アマテラーザの国民が魔族の奴隷となるのだ。それを是とするか、非とするか、この国民に問うてみたい。」
「面白い!」と、マリータ殿が言った。
「国を挙げて魔族と戦うだべ。先生は国民と申されたべな。我もアマテラーザの国民の一人だべ。国民!、なんとも勇気の出る言葉だべ!」
「この異世界では戦いは貴族や傭兵、それに冒険者たちの専売特許だった。戦いを民衆に開放するのが国民なんだ。国民は国を守るために戦う義務がある。そして、国民は国民としての権利を行使することができる。これが国民国家というものだ。」
幸村君が口をはさんだ。
「先生、この異世界の人たちには近代国家の話は分からないなり。」
おう、そうだったな。
ナポレオンが国民国家を創設するのは19世紀のことだ。ようやく中世の出口にさしかかったばかりの異世界の人々には、まだまだ先の歴史だ。
「もうひとつ話をしておこう。400年前、私たちの世界には織田信長という戦国武将がいた。彼は鉄砲を軍事に取り入れた先駆者だった。信長は鉄砲の威力をもって天下を統一した。」
ギョーム殿が信長の話に思いあたったように言った。
「400年前と言えば、初代王アマテラスが魔王を倒した時代ですな。」
勘がいいな、ギョーム殿。
ならば、ここで種明かしをしておこう。
「そう、400年前、この奇妙な附合は偶然ではない。織田信長はこの異世界に召喚されて初代王アマテラスとなった。ツキヨミ殿のご先祖様は戦国武将・織田信長公だ。」
ツキヨミ殿が目をまん丸にしている。
「わたくしのご先祖様が、召喚者…」
「だから三成君がデザインしたその戦闘服には織田家の家紋『織田木瓜』が刻まれているんだ。」
ツキヨミ殿の鎧の両胸には「織田木瓜」が輝いていた。
「わたくしは、先生のいらした別の世界のことなど想像もできません。けれど、たったひとつ確かなことがございますわ。アマテラーザのあまねく人々が力を合わせなければ魔族には勝てないということ。そのための魔導兵器…」
「つまり、王家の兵だけが戦うのではなく、国民全員が戦う。すなはち国民軍の創設です。ディガン・ドロワをして国民軍が可能になるのです。」
「国民軍!」と、ゴドー殿が感嘆した。
「常備軍の次は国民軍ですか…。いったいどれほどの兵員になるのでしょう。5万ですか? 10万ですか?」
「魔族軍の主力はゴブリンの大軍だ。エルキス殿が言っていた、いちばんやっかいなのはオークでもワイバーンでもない。地を這うように押し寄せるゴブリンの大軍だと。」
「して、そのゴブリンの大軍の数は?」
「おそらく20万は下るまい。」
「20万ですと!」
「恐るるに足らん! ディガン・ドロワで殲滅する!」
「殲滅!」、ゴドー殿が絶句した
少しの沈黙の後、ギョーム殿がつぶやいた。
「魔法戦のタイム・ロス…」
「なんだね、ギョーム殿。」
「魔導士には『魔法戦のタイム・ロス』という言葉があります。つまり、詠唱している間にタイム・ロスが生じるという意味です。我ら熟練の魔導士でも詠唱から魔力変換、そして魔法の発動までには少なくとも30秒の時間が必要です。そこを攻められれば魔法軍は一気に崩壊します。」
「その件は心配ない。」
「心配ご無用なり! その答えは400年前に織田信長公が出しているのだ!」
「そのとおりだ!」
「初代王アマテラス様が…」と、ギョーム殿は視線をツキヨミ殿に向けた。
ツキヨミ殿は両手を広げて力強く言い放った。
「アマテラーザの国民が戦うとなれば、わたくしはその陣頭に立ちましょう。初代王アマテラス様、そして織田信長公、我らに勝利を!」
「えい! えい!」
幸村君が勝ちどきの音頭をとった。
「「「おおーっ」」」
ゴドー殿が、マリータ殿が、三成君が唱和した。
ギョーム殿だけはまだ心配の色を隠せないようだ。
王家の魔導士の長としての立場から、経験したことのない未知の魔法戦に臨むことに不安があるのだろう。
「ギョーム殿、不安になるのはわかるが大丈夫だ。私はウエスピアにおいてディガン・ドロワを使用した魔法戦を体験している。」
「なんと、ウエスピアで既にディガン・ドロワを…」
「魔族の討滅戦だった。あっという間だったよ。」
「どのように戦ったのですか?」
「詠唱は短い文言を繰り返す。シンプルで効果的な詠唱だ。それから、全員が同じ文言を詠唱する。これで詠唱の共鳴が発生して魔力が安定する。」
「なるほど、その戦法を編み出した方は大したものです。どなたですか?」
「ノーラ殿だ。」
「ノーラ殿?」
「ウエスタリアの公女だよ。」
誇らしげに言う私に、幸村君が付け足した。
「そして先生の恋人なり!」
あー、それを言うんじゃない!
テレるじゃないか。
ギョーム度が固まってしまたぞ。
そこに侍女が入ってきた。
侍女はツキヨミ殿に跪き言った。
「只今、知らせが入りました。サウスティカのジューザ・シーマ様、2万の兵を率いて明後日、到着されるよしにございます。」
来たか、ジューザ殿、いや、我が義弟よ!




