50,魔導兵器ディガン・ドロワ
食料を運んだ船団に続いて、ヤマトが王都グランローゼの港に入った。
港は食料の荷揚げでごった返していた。
この食糧を荷馬車に積み込み、イースタリア州境の難民たちに送るのだ。
王都に戻ると最初にやるべきは女王への報告である。
これをやっておかないと、あとあと重臣たちがうるさい。
「アリスターシャ公女は食料の提供に応じてくださいました。」
アリスターシャはノーラ殿の貴族名である。
私の報告に重臣たちは不満げである。
ウード卿が激しく叱責した。
「何ゆえモーリス公爵は魔族討伐の兵を出さん! これは先生殿の失策でござるぞ。」
私には何も言えなかった。
言ってしまえばモーリス公爵家の秘密を明かしてしまうことになるからだ。
私は女王ヒミカ殿を見上げた。
(お助けください女王様!)
私の目はそう言っている。
ヒミカ殿の目がうなずくのが分かった。
女王は立ち上がり、言った。
「大儀であった!」
この一言で謁見は終了である。
私を追求しようとしていたウード卿は肩すかしをくらった。
「待たれよ! 先生殿!」
ウード卿が叫んでいるが、
「申し訳ない、ウード卿! このあとはツキヨミ王女に歴史学の講義があるのでな。失礼する。」
そう言って私は謁見の間を出、その足でツキヨミ殿の部屋へ向かった。
***
ツキヨミ殿の部屋をノックすると、侍女が出てきてしばらく待つように言われた。
しばらくして侍女に招き入れられ部屋に入ると、ツキヨミ殿は戦闘服に身を包んでいた。
三成君がデザインしたミニスカ・ノースリブの戦闘服である。
「先生、いかが?」
ツキヨミ殿はくるっと一回転して見せた。
私が絶句していると、部屋の奥から幸村君と三成君が現れた。
「かっこいいなりよ。」
「美少女戦士でござるな。」
確かに、見栄えはする。
アニメの主人公のようだ。
ツキヨミ殿は軽く体を動かしながら戦闘服のフィット具合を確かめている。
新しく縫いあがった戦闘服の試着中だったようだ。
「先生、ウエスピアでのことは幸村殿と三成殿から聞きました。三か月後のポセイドゥス殿の公爵叙任にはウード卿を遣わしましょう。」
「ウード卿をか?」
「ウード卿にとっては名誉のお役目ですわ。母上に命じられればウード卿は喜び勇んでウエスピアへ参りましょう。爵位叙任の使者は手厚く持てなされますわ。3か月、いや半年は戻ってこられません。」
「つまり、ウード卿は邪魔だから、追っ払うつもりか。」
「ウード卿にはこう含めておけばいいのですわ。モーリス公爵が危篤である。命はひと月も持たないであろう。公爵が身罷られるのを待って、後継者のポセイドゥス殿に公爵位を授けよ。これでモーリス公爵家は安泰である。」
うまいことを考えたもんだ。
「その悪知恵はどこから出てくるんだ?」
私はツキヨミ殿に皮肉を言ったつもりだったが、ツキヨミ殿は意地の悪い目をしてこう答えた。
「わたくしのお師匠様がどなたなのかご存じかしら?」
お師匠様とは私のことだ。
「ところで先生、ようございましたわね。」
何を言ってるんだ?
「わたくしもノーラ殿にお会いしたいですわ。」
あっ、幸村君、三成君、しゃべったな!
私の背後で幸村君と三成君が、「ヒッ、ヒッ、ヒッ」と笑っている。
「ノーラ殿にお会いできたら、こう言ってやりますわ。」
ツキヨミ殿はまるでそこにノーラ殿がいるとでもいうように宙を指さしてこう言った。
「ノーラ殿、あなたの男の趣味は最高ね。よいお友達になれそうですわ!」
ヒッ、ヒッ、ヒッ!
私は振り返り、幸村君と三成君を睨みつけた。
「女の口に戸は立てられないなり!」
「いずれ分かることでござる。観念しなされ。」
ああー、気まずい!
そこにギョーム殿とマリータ殿が入ってきた。
私がツキヨミ殿に歴史の講義をするのに、一緒に参加するというのが建て前である。
秘密の会議を王家の重臣たちに悟らせないための方便なのだ。
私はほっとした。
これで話題を切り替えることができる。
ギョーム殿には王家の宰相として、マリータ殿にはツキヨミ王女の親衛隊長として最低限のことは知っておいてもらう必要がある。
少し遅れて、ゴドー殿も入ってきた。
王都防衛軍司令官のゴドー殿はイースタリア州境の守りに就いていたが、食糧運搬の手配を行うべく王都に帰還してたところだという。
さて、メンツは揃った。
「三成君、説明をたのむ。」
---カチャ!
三成君は左腕にディガン・ドロワを装着した。
「これはディガン・ドロワ。魔導兵器でござる。」
ノーラ殿は「魔道具」と言っていたが、三成君は「魔導兵器」と言い換えた。
これは三成君ならではのハッタリなのだ。
魔導兵器という言葉の持つある種の禍々しさが人々を恐れさせる。
三成君は説明を続けるた。
「この魔導兵器にはドロワ鉱石がはめ込まれてござる。ドロワ鉱石は魔導士が魔力の蓄積に使う魔法電池のようなものでござるが、ここに磁力を与えることにより魔力そのものを活性化する作用があり申す。つまりは魔力の増幅装置!」
ゴドー殿が立ち上がった。
ゴドー殿は最前線を任された勇者である。
この魔導兵器が戦術を一変する力を持つことに気づいているのだろうか?
「ならばそのディガン・ドロワとやらを装着すれば、生活魔法程度しか使えぬ者にも魔砲弾が撃てるのか?」
「さようでござる。しかも魔力属性の変換も可能!」
「属性変換だと!」
「拙者の元居た世界では電気というものが発見されてござる。電気はこの世界にもありもうして、人間は微弱ながら電気を帯電しており申す。この電気のありようが人の魔法属性を決定する要因になってござれば、磁力によって電気のありようを変えることができるのでござるよ。」
「三成君、難しい話はしなくていい。」
「あっ、そうでござったな。つまりこの魔導兵器の原理は非常に単純なものにござる。単純だからこそこの技術には汎用性があり申す。まさにコロンブスの卵!」
三成君、ややこしいことを言い出すんじゃない。
この異世界の人々はクリストファー・コロンブスもコロンブスの卵の逸話も知らないんだ。
みんな怪訝な顔をしているぞ。
しかたがない、私がフォローするか。
私は侍女に卵を持ってくるように頼んだ。
侍女は大きな籠に入った卵を持ってきて、私は籠の中から卵をひとつ取り出した。
「みなさん」と、私は言った。
「この卵をテーブルの上に立てることができますか?」
誰もが「できない」というジェスチャーで答えた。
私はテーブルの上に卵を叩きつけた。
卵は割れたが、殻はみごとにテーブルの上に立っている。
「できない、と思うことも、ちょっと発想を変えるだけで可能になる。ディガン・ドロワはドロワ鉱石の作用を磁力でコントロールするという発想でこの世界の魔法のありようを変えてしまった。」
私は続けた。
「この魔導兵器をどう使うかにも発想の転換が必要になる。」
ギョーム殿がつぶやいた。
「魔導兵器の使い方…」
大魔導士たるギョーム殿には見えているだろうか?
このディガン・ドロワが持つ意味が。
私は結論を述べることにした。
「魔族との決戦は魔法軍をもって主力とする!」




